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謎の親子

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 走ってくる女子高生。
 その後ろにはマスクとサングラスをつけた三人組が続く。
 違和感を覚えるのは、三人とも妙にキレイなフォームで走っているところだ。
 そんなことに感心している場合じゃねえか。
 
 万筋服の出番だ。
 
 俺は走り出しながら、現場に焦点を絞って怒りを醸成していく。

 不埒な奴らだッ!
 女の子ひとりを三人で追いかけ回してなにをするつもりだッ! 
 誰であろうとも、どんな理由があろうともッ! 
 人をいたぶるようなことッ! 
 俺はッ! 
 ゆるさんッ!!!

 怒りで体が熱くなり、着ていた服が破れる。
 俺は万筋服に包まれていた。
 強化された脚力で二飛び。
 追手の三人組に肉薄し、いちばん近かった男の胸を殴りつける。
 男は叫びもあげずに大きく吹っ飛んだ。

 やばい! もっと手加減しないと!
 
 だが理性のブレーキより早く体が動いてしまい、俺は残る二人も打ち倒していた。
 抵抗などなく、三人は倒れたままだった。

 ひとりは片足が、もうひとりは胴体が、折れたマッチ棒のように曲がっている。
 二人とも、うぃんうぃんと変な音をたてて痙攣していた。
 やばい、これは重傷間違いなしだ……。

 やばい、やりすぎた、やばい、どうしよう。

 呆然と立ちすくんでいると、逃げていた女の子が駆け寄ってきた。
 思いがけぬことを口にする。
「あーん、みんな高いのにー! 修理代がー!」
 少女は腰に手を当てて俺に向きなおる。
「おじさん、やりすぎ!」
「あ、ああ。やっぱ救急車呼ばないとまずいよな。君、呼んでくれない」
「そうじゃないの!」
 女の子は近くの男に向かってしゃがみこんだ。
 帽子、サングラス、マスクを剥いだかと思うと、無表情な顔まで外してしまう。
 メカニカルなフェイスがあらわになった。
「みんなロボ!」
「う……そ……」

 そっかロボか! 
 うぃんうぃんていうのもモーター音か! 
 走るフォームが妙にキレイだったのもロボだったからか! 
 安心した!

 いや待て。

 ほっとしたのは本心だが、いろいろ腑に落ちない。
 いくらロボットが発達したからといっても、こんな一般人みたいな子がロボを持てるのか。
 見たこともないほど精巧だし、それを三体も引き連れて歩くなんて。
 常識に収まるレベルじゃない。

 それを言ったら俺の万筋服も同じかもしれないが、
 まあいろいろ納得できるものじゃないだろう。
 まるで俺のまわりの宇宙が変貌してしまったようだ。

 俺は当然の疑問を口にする。
「これはおまえのロボットなのか。なんで追われてたんだ? 確かに助けを求めたよな? 説明してもらおうか」
「えーっと、それは……。あっ、お父さんから!」
 女の子はセミロングの髪をゆすって俺の背後に目をやった。
 俺も振り返る。

 薄暗がりのなか、白衣の長身痩躯がすぐそばまで来ていた。
 なんちゃら博士って感じだ。
 五十は過ぎているが六十には達していないぐらいか。
 近づくとわかったが隻眼だった。
 右目に金属製の眼帯をしている。

 博士っぽい男はニコリともせず言った。
「娘がお世話になりましたな」
「いやなに。いったいどんな事情があって……」
 ここはカッコよく決めたい。
 ヒーローの醍醐味だ。
 と、思っていたら。
 突然、ぬるりとした感触が体を包む。
 続いて寒気。

 素っ裸だ! 

 万筋服が消えた!

「きゃっ!」
 少女の視線が刺さる。
 きゃっとかいいながら、身を乗り出して俺の股間を注視しやがる。
「ちくしょう!」
 俺は股間だけはなんとか隠しながら走り出す。
「ちょ、ちょっと待っててくれ! そこに着替えがあるんだ!」
 変身する前に投げ捨てたリュックのもとへつき、大急ぎで服を着る。パンツもはいた。
 まったく人生思うようにはいかない。
 もうカッコもつかないけど、事情を聞かなければならなかった。
 おヌードを披露してしまって気まずいが、二人のところへ戻る。

 女の子が言いやがった。
「わたし、大人の包茎って初めて見ました!」

 屈託なく言われるとマジで傷つくもんだな。
「皮被っててわるかったな! 包茎じゃないのはいっぱい見てるのかよ!」
「な、生はないですけど! ネットとかで! いや、嘘です見たことないです! おじさんのが初めてです!」
 女の子は父親に睨まれて慌てて訂正する。

 俺は言った。
「まあいまはどっちでもいい。それよりあんたらのことだろ」
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