妄想少女とおっさんのバリアント

進常椀富

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進展

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 俺はゆっくり湯船に浸かった。
「ふー」
 中年ボディに凝り固まった疲労が湯に溶けていくのは心地良い。
 帰りはイサムに送ってもらった。
 博士の衣服で着られるものがガウンぐらいしかなかったので外を歩けなかったのだった。
 
 今日はいろいろあった。
 総じて見れば『負け』の日だったか。
 せっかく仕掛けたカメラは即座に見破られ、俺はさらわれた上にゴミ捨て場へ捨てられた。
 無様だったかもしれない。
 あまり深く考えると怒りがわいてきて万筋服が出そうだった。
 俺は慌てて見方を変える。

 やはり、今日は負けじゃなかった。
 なんといっても、こっちは強盗犯を突き止めた。
 犯人はあいつら、アクロスザスターの一味に間違いない。
 それに敵の能力も何人かはわかった。
 そのうえ、こっちは向こうに正体がバレてないときた。

 上々だ、特上。

 文句をつけるとすれば、諸戸がけっきょくアミモトの料理を奢ってくれなかったことだろう。俺を拉致するのは食事のあとでもよかったはずなのに。
 あのやろう、しっかりしてやがる。

 また怒りで万筋服が出そうな気がしたので、俺はなんとか気分をコントロールした。
 自由自在とまではいかないが、かなり抑制が効くようになっていた。
 まったくなんて人生だ。
 ついこの前には自殺しかけていたというのに、
 俺はいまや二十人のチンピラをものともしない超人で、やはり超人の敵とやりあっている。

 まるで誰かの妄想のような人生だ。
 それとも、この世界すべてが個々人の妄想の集合体なのではないか。
 そんな気もしてくる。 
 四十を過ぎても世の中わからないことだらけだ。

 哲学的なことを考えていると、身体は温まり、頭は冷えた。
 怒りを払拭することができたようだった。
「さて」
 と、俺は風呂をあがり、カップ麺で腹ごしらえすると、すぐに寝た。

 目覚めると雨が降っていた。
 正義のヒーローはあまり傘をささないかもしれなかったが、
 俺はやはり独身中年男の成分のほうが多いのだろう。
 傘を差して、徒歩で研究所へ向かった。 
 途中、靴屋に寄ってスニーカーとサンダルを二足ずつ買う。
 まだ最初の給料ももらってないので痛い出費だが、
 研究所には準備金として百万ももらっている。
 その金で借金を返したので督促状は止まったし、あまり文句はいえたもんじゃない。

 研究所に着くと、博士が出迎えるように待っていた。
「おはよう丈くん。昨日はよく眠れたかね。今日は悪い知らせとよい知らせが両方ある」
「はぁー、それじゃ悪い知らせから聞こうか」
「モニター室へ行こう」
 モニター室に入ると画面のひとつにアクロスザスターの店舗が映っていた。

 博士が言う。
「昨晩のうちにヘイスケを連れて仕掛けてきた。望遠で撮っている」
 ヘイスケというのはロボの一体だ。
 カメラが見つかっていないということは、博士の推測が正しく、
 あの女の能力範囲外というわけだろう。

 俺は言った。
「ふーん。これはいい知らせじゃないの?」
「ところがだ、せっかくカメラをしかけたのに、今日はまだ誰も出社していない。定休日でもないのに店は閉まっている。つまり、諸戸をはじめ、従業員全員が逃亡を図った可能性がでてきた」
「なるほど、悪い知らせかもね。でも俺としちゃそのほうがラクでいいけどな。俺たちが追いかけるわけじゃないだろ?」
「まあ確かに、広域捜査は我々の守備範囲じゃないが、我々がやるべき仕事もある。それがよい知らせと関係したことだ」
「あ? なんか手荒なことすんのか? そんな予感がするぜ……」
「そうなる可能性はある。よい知らせというのは警察が諸戸の逮捕に動くことになった。それも君に対する拉致、監禁、遺棄の疑いだよ。昨日は無駄に終わらなかった」
「別件逮捕で糸口をつかむわけか」
「逮捕は明日の朝行われるが、我々も現場に同行する。それが仕事だ。次元接続体と戦えるのは次元接続体だけだからね。次元接続体は貴重だからお上も射殺なんかしたくないんだ。できるとも限らないしね」
「俺なんか鉄砲玉じゃ倒せないぜ」
「君は頭を撃たれたらおしまいだよ。気をつけてくれたまえ」
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