侵略のポップコーン

進常椀富

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勝利へのカツカレー3

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 気絶するように眠る。
 ここで鈴木は記憶にひっかかるものを感じた。
「なにかいい方法があったような気がするんですけど……」
 鈴木はこめかみに指を当てて目をつぶる。
 懸命に記憶を探った。
 なにかあったはずだと。

 思いだしたのは今朝の光景だった。
 人型スーツを着たモルゲニーがちょっと触れただけでアマガを気絶させたこと。
 騒動が収まったあと、簡単にアマガを覚醒させたこと。
 モルゲニーのこの能力は、今回の作戦にうってつけだった。

 鈴木は言った。
「モルゲニーちゃんの針だ! 今朝、アマガさんを一瞬で眠らせたこと、ぼくたちにもできるでしょ?」
「むろん、可能じゃが……」
 モルゲニーは空中で身をよじって頬を染めた。
「スズキにわらわの針を刺すのか。ちょっと恥ずかしいのう」
 進常は真顔で言った。
「そこ、恥ずかしいとこなんだ」
 鈴木が聞く。
「モルゲニーちゃん、スーツなしでもできる? ぼくたちを気絶させること」
「むろんじゃ。もともとスーツの指先の爪は、わらわの針と直結してあったのじゃ。だからスーツなしでもスズキたちを眠らせることはできる」
「目覚めさせることも瞬時に可能?」
「むろん」
 鈴木はガッツポーズをとった。
「よし! 進常さん、これでぼくたちの計画は完成しましたよ! ぼくたちはモルゲニーちゃんに気絶させてもらって、アマガさんに持ってもらってミッションシップへ乗りこむ。モルゲニーちゃんはどこか隙間に入って、同乗してもらう。メリコちゃんはぼくたちを倒したと連絡して、マザーシップへ帰還。到着したらまたモルゲニーちゃんに目覚めさせてもらう。それですぐにでも戦えます!」

 進常もガッツポーズをとった。
「完璧だ鈴木くん! マザーシップに到着してからがちょっと不安残るが。超光速通信機までの道のりはアマガに任せる!」
「ぐー……」
 アマガは立ったまま寝ていた。
 せっかく盛り上がったところが台無しだ。

 進常がメリコに指図する。
「メリコ、ちょっとアマガに活入れてやれ。あの『ハッ!』ってやつ」
「おっけー」
 メリコはアマガの背後にまわり、両肩を押さえて活を入れた。
「ハッ!」
 グキッとすごい音がする。

「ぐはぁっ!」
 アマガは目覚めた。
「もっと……優しくお願いします。眠る癖は悪いと思いますが……」

 メリコはにこやかに言った。
「シンジョーが話あるって」

 進常がアマガに聞く。
「マザーシップへ突入したあと、超光速通信機までの案内はアンタに任せるけどだいじょうぶ?」
「超光速通信機のあるブロックに近い場所まで誘導します。通常時に発着するブロックではないので、最接近時には抵抗を受ける可能性がありますが、そこはメリコの操縦にかかっているといえましょう」

 メリコは鼻息も荒く答えた。
「まかせて! アタシ、銀河一の鉄砲玉だし!」

 アマガは続けた。
「内部に入ってからも道のりは少々ありますが、そこはスズキさんのビームで道を切り開くしかないでしょう」

 鈴木は眉根を寄せた。
「うーん、任せてもらいたくないけどやるよ。地球と、新しくできた友達のために。ぼくの髪は未来への犠牲なんだ。しかたない。これでいま立てられるベストの計画を立てたってわけだね」

 部屋のなかはいまだ蒸し暑いが、陽は沈み、もう薄暗くなっていた。
 遠くからヒグラシの鳴く声が聞こえている。

 進常が言った。
「それじゃ家に帰ってごはん食べて風呂入ってよく眠るか。明日は決戦だ。今日は虫はなしだぞ。勝って帰ってくるまでは」



 一同は進常の部屋に戻った。
 戻ってすぐ、屋上からモルゲニーの人型スーツを回収して部屋に運び入れた。
 こんなものを放っておいたら、人間が顔をなくして死んでいる、と騒ぎになりかねない。
 アマガのミッションシップの残骸はそのままだが、
 こっちは見つかってもゴミの山としか認識されないだろう。

  エアコンの効いた部屋でひと息つくと、鈴木は言った。
「晩ごはんどうします? 景気づけにピザとかお寿司とかとっちゃったりしますか?」
 
 進常は腰に手を当てて答えた。
「わたしも迷わないではなかったが、明日は勝負だぞ。勝負の前に食うものといったら決まってる。カツカレーだ!」
「みんな昼にカレーパン食べてましたよ」
「カレーは一日に何度食べてもよい! ガンジーも言ってた」
「まあカレー好きですけど」

 決戦前夜の晩餐はカツカレーに決まった。
 進常は「地球で最後の夜になるかもしれないから」と、
 メリコとアマガに入浴を勧め、風呂の使い方、洗剤の使い方を教えた。
 すると、モルゲニーも風呂に入るという。
 三人が入浴し終わるころにはカツカレーもできるだろう。
 アマガが先に風呂へ入ることになった。
 ついでに順番を待ちきれなかったモルゲニーも一緒だ。

 鈴木がカレーを作り、進常がトンカツを揚げる。
 鈴木が野菜を切っていると、後ろからメリコが声をかけてきた。
「地球の料理っておもしろいよね。いくら見てても飽きない」
 鈴木は手を休めず答える。
「これが文明の一端だよ。豊かな食文化は文明のほんの切れ端でしかないけど、それでも驚くほど多様でしょ。簡単に滅ぼされるわけにはいかない」
「この戦いが終わったら、アタシ地球に住みたいな。作戦が成功すればどのみち使節がやってきて宇宙中と交流が始まるはずだし、先に異星人がひとりぐらい住み着いちゃっても問題ないと思うんだ」

 進常が横から口を開く。
「おう、いいね。住んじゃえ、住んじゃえ。わたしが夢見ていたような宇宙との交流のはじまりだ」

 メリコは鈴木に大胆な提案を持ちかけた。
「ね、スズキ! 一緒に暮らさない?」
「えっ……?」
 思わず鈴木の手が止まる。
 ついで顔に血がのぼり、耳まで真っ赤になるのがわかった。
 メリコの真意がよくつかめない。
 それでもあらゆる可能性を考えて、
 一緒に暮らすというのはやはり友達以上の関係になるということだろう。
 少なくとも鈴木の頭では友達以上の関係しか考えられなかった。
 どもりながら答える。
「メ、メリコちゃん、申し出は嬉しいけど、ぼ、ぼくたちにはまだそういの早いと思うんだ……」
「でもスズキも十四歳でしょ、自由な大人じゃない?」
「う、え、えっとね……」

 メリコは十代前半で立派な社会人だった。
 いや会社に騙されていたから立派かどうかはともかく、社会人であることは確かだった。
 それが宇宙の常識かもしれなかったが、地球では違う。

 進常が助け舟を出した。
「地球じゃ十四歳はまだまだ子供なんだよ。生活費を稼ぐ手段だってない。しかも男と女で一緒に暮らそうなんてずいぶん気が早いことになる」
「そうなんだ。そういえば、アタシも会社潰そうっていうんだから、生活費どうするか考えないとなー。でも友達同士が一緒に暮らすのはやっぱ自然なことだと思うけど」

 うーん、やっぱり友達として一緒に暮らそうってことだったか。
 鈴木は残念な感じがしないでもなかったが、気は軽くなった。
 なんと返そうか迷っていると進常が言った。
「まあ心配するな。地球に住んじゃいなよ。しばらくはこの部屋でわたしと一緒にくらせばいい」
「スズキとアタシが一緒に暮らすのは気が早いのに、シンジョーと暮らすのはいいの? なんかヘンじゃない?」
「変じゃないの。チキューってそういうとこあるんだよ。ま、おいおい学んでいくんだな。明日勝てば」

 鈴木は真っ赤になりながら言った。
「ぼくもメリコちゃんと楽しく過ごしたい! この地球を救って! あとテホルル・ペットフーズで騙されている社員の人たちも救って! 悪の根源を倒すんだ!」

 進常が口笛を吹く。
「たのもしーい」

 メリコも目を輝かせた。
「スズキ、かっこいい! ぜったいモテると思う!」
「いやぁ、あははは……」

 クラスメイトの女子たちからは虫好きの変人と思われていて、
 まったくモテていないのだが、そんなことをわざわざ教えてやらなくてもいいだろう。
 鈴木はカレー作りに意識を戻した。
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