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逆襲の地底帝国
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「とまあ、あらすじを話せばこんなところだが、ちゃんと読んだかね、鈴木くん?」
「読みましたよ。進常さんしつこいんだもん。ぼく徹夜して読んだくらいですよ」
例によって進常さんはぼくの家に勝手にあがりこんで、
勝手にインスタントコーヒーを飲んでいる。
今日はいつにも増して得意満面だった。
その理由はもちろん、初めての長編小説を書き終わって、それをぼくに読ませたからだった。
進常さんは唇を吊りあげて気持ち悪く笑った。
「どうだったい、鈴木くん。今回の長編は?」
ぼくはなんとか無難な方向へ話題を持っていこうと努力した。
「なんで進常さんは作中だと若い女の人なんですか?」
「そ、それはだな、自分で言うのもなんだが、つまらんだろ。おっさんなんかでしゃばっても。鈴木くんは中学生だからそのままいけるだろうがよ」
「それならそれで美人をぶくぶくに太らせるなんて可愛そうじゃないですか。痩せたままさっそうと活躍させればいいのに」
「ばかもん! そこはスリルとサスペンスだろ! 能力は強力だが、使うにはリスクがある。そういうもんだ。それより俺はおもしろかったかどうかって聞いてんだよ、鈴木くん!」
「まあなんというか、宇宙からの侵略ってのがですね……」
そのとき突然、部屋が揺れ始めた。
振動はガタガタと大きくなっていく。
地震だった。
「気をつけろ!」
進常さんがテーブルを持ちあげて運び、ぼくをその下へ入れてくれる。
あ、こういうとこ意外と大人なんだ、
頼りになるところもあるんだ……、そう思っていたところ、
「原稿だけはなにがあっても守れよ!」
大事なのはそっちかよ!
激しい揺れは長く続いた。
テレビが倒れ、調理器具や壁の絵が落ちる。
「すすす鈴木くん、最期の道連れがこんなおっさんで悪かったな、そ、そ、それだけは謝る」
「縁起でもないこと言わないでくださいよ! まだ死ぬと決まったわけじゃありません!」
部屋のなかがめちゃくちゃになったころ、やっと揺れが収まった。
ぼくはテーブルの下から抜けだす。
「ガスの元栓閉めとかないと」
ガス栓を閉めて、足の踏み場もないキッチンから戻ると、
進常さんが呆けた顔で窓の外を見ていた。
「どうしたんですか、進常さん。普段からあまり見られない顔がいっそう見られないアホ面になってますよ?」
進常さんは震える指を伸ばした。
「や、山が、山ができてる……」
「そんな、バカな……」
確かに進常さんが指差す方向、
百メートルほど向こうの住宅地に、茶色の山が盛りあがっていた。
唖然としていると、突如、パーンという爆裂音が響き、山が噴火した。
真っ赤な溶岩が吹きあがる。
「ヤバいぞ、鈴木くん!」
「ヤバいですけどどうすれば……!」
なすすべもなく溶岩の噴出を注視していると、黒い影が現れた。
溶岩の流れに乗るようにして山のなかから出てきたのは、
古代のチャリオットに乗った騎士たちだった。
全部で十人はいる。
騎士たちは人間の何倍も大きく、チャリオットを引くのはマグマの馬だった。
騎士のひとりが大音声で言った。
「我ら虐げられし地獄の騎士団は戻ってきた! 地上の小さきものどもよ、貴様たちの謳歌は終わる! 地底帝国の名のもとに!」
進常さんはうろたえた。
「あわわわわ! 終わりだ! 溶岩のなかに入ってて平気なやつらにかなうわけがない! 地上は終わりだ! 最後の数分間くらい好きなことをして生きよう! 裸になろう、鈴木くん!」
ぼくはそれどころじゃなかった。
燃えるように熱い力が額に集まっていくところだった。
そして第三の眼が開き……。
※※※
「もうやめてくださいよー、進常さぁーん」
「なんで。宇宙からの侵略を阻止したら次は地底帝国に決まってんだろ。それくらいわかれよ」
「読みましたよ。進常さんしつこいんだもん。ぼく徹夜して読んだくらいですよ」
例によって進常さんはぼくの家に勝手にあがりこんで、
勝手にインスタントコーヒーを飲んでいる。
今日はいつにも増して得意満面だった。
その理由はもちろん、初めての長編小説を書き終わって、それをぼくに読ませたからだった。
進常さんは唇を吊りあげて気持ち悪く笑った。
「どうだったい、鈴木くん。今回の長編は?」
ぼくはなんとか無難な方向へ話題を持っていこうと努力した。
「なんで進常さんは作中だと若い女の人なんですか?」
「そ、それはだな、自分で言うのもなんだが、つまらんだろ。おっさんなんかでしゃばっても。鈴木くんは中学生だからそのままいけるだろうがよ」
「それならそれで美人をぶくぶくに太らせるなんて可愛そうじゃないですか。痩せたままさっそうと活躍させればいいのに」
「ばかもん! そこはスリルとサスペンスだろ! 能力は強力だが、使うにはリスクがある。そういうもんだ。それより俺はおもしろかったかどうかって聞いてんだよ、鈴木くん!」
「まあなんというか、宇宙からの侵略ってのがですね……」
そのとき突然、部屋が揺れ始めた。
振動はガタガタと大きくなっていく。
地震だった。
「気をつけろ!」
進常さんがテーブルを持ちあげて運び、ぼくをその下へ入れてくれる。
あ、こういうとこ意外と大人なんだ、
頼りになるところもあるんだ……、そう思っていたところ、
「原稿だけはなにがあっても守れよ!」
大事なのはそっちかよ!
激しい揺れは長く続いた。
テレビが倒れ、調理器具や壁の絵が落ちる。
「すすす鈴木くん、最期の道連れがこんなおっさんで悪かったな、そ、そ、それだけは謝る」
「縁起でもないこと言わないでくださいよ! まだ死ぬと決まったわけじゃありません!」
部屋のなかがめちゃくちゃになったころ、やっと揺れが収まった。
ぼくはテーブルの下から抜けだす。
「ガスの元栓閉めとかないと」
ガス栓を閉めて、足の踏み場もないキッチンから戻ると、
進常さんが呆けた顔で窓の外を見ていた。
「どうしたんですか、進常さん。普段からあまり見られない顔がいっそう見られないアホ面になってますよ?」
進常さんは震える指を伸ばした。
「や、山が、山ができてる……」
「そんな、バカな……」
確かに進常さんが指差す方向、
百メートルほど向こうの住宅地に、茶色の山が盛りあがっていた。
唖然としていると、突如、パーンという爆裂音が響き、山が噴火した。
真っ赤な溶岩が吹きあがる。
「ヤバいぞ、鈴木くん!」
「ヤバいですけどどうすれば……!」
なすすべもなく溶岩の噴出を注視していると、黒い影が現れた。
溶岩の流れに乗るようにして山のなかから出てきたのは、
古代のチャリオットに乗った騎士たちだった。
全部で十人はいる。
騎士たちは人間の何倍も大きく、チャリオットを引くのはマグマの馬だった。
騎士のひとりが大音声で言った。
「我ら虐げられし地獄の騎士団は戻ってきた! 地上の小さきものどもよ、貴様たちの謳歌は終わる! 地底帝国の名のもとに!」
進常さんはうろたえた。
「あわわわわ! 終わりだ! 溶岩のなかに入ってて平気なやつらにかなうわけがない! 地上は終わりだ! 最後の数分間くらい好きなことをして生きよう! 裸になろう、鈴木くん!」
ぼくはそれどころじゃなかった。
燃えるように熱い力が額に集まっていくところだった。
そして第三の眼が開き……。
※※※
「もうやめてくださいよー、進常さぁーん」
「なんで。宇宙からの侵略を阻止したら次は地底帝国に決まってんだろ。それくらいわかれよ」
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