Lukinoa~愛しき贄~

大福黒団子

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4 愛の言葉

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 ルゥキノアは今何故か、木馬に体を固定されて強制的に跨らせられている。汗を流しながら顔を赤く染める彼とは対照的に伯爵は向かい側のベッドに腰かけ、優雅に笑っていた。
 すべての始まりは、ルゥキノアのこの一言だった。

「たまには外に出たいのです。街とか」

 ここで暮らして大よそ一か月が経つ。しかし、ルゥキノアは洗濯や家庭菜園の手伝いで外に出ることはあっても、買い出しに連れていかれることは無かった。
 最初のうちは、何度か連れて行ったほしいと頼んだのだが却下された。無論、その時は大人しくしつつも、いつかは連れて行ってくれるだろう……などと甘く考えてしまった。
 その結果、一か月の軟禁状態。さすがの図太いルゥキノアでも限界である。それで、思わずポロリと言葉が出てしまったのだ。
 ルゥキノアは咄嗟にしまったと思い、恐る恐る伯爵の方へと振り向く。すると、そこには酷く驚いたような表情の彼が居た。何故、彼がそんな顔をするのか……ルゥキノアには微塵も分からない。
 しかし、本能は警告を鳴らし、それに伴い体は動こうと――した。していた。けれど、突如として動かなくなる。
 
(いや、駄目なのです。このままでは駄目……あきらめちゃダメ。何か言葉を――)
 
 紡ごうとした瞬間、いつの間にか目の前に来ていた伯爵がルゥキノアの口を右手でふさぐ。

「遊ぼうか」

 彼がにこりと笑った――筈だった。しかし、ルゥキノアの目には一瞬だけ……彼が怪物に見えたのだ。
 赤い糸、肉、触手、目玉、口。正確には覚えてはいない。けれど、とても悍ましい。
 
 ルゥキノアの言葉を聞いた瞬間、伯爵は心の中で笑っていた。いつか来る言葉だと理解していたが、こうも予想より
 心の底のどす黒い感情が歓喜をあげる。

(ようやくグチャグチャに今までより手酷く犯せる。何をしようか。おしおきという名目でルゥキノアを心の底から調教してもいい。従順になれば、二度とこんなことは言わない筈だ)

 頭の中で算段を練る。どうすればいいだろうか。どうすれば己の存在を刻み込ませれるだろうか。

 (とりあえず……まずは、あれで遊ぼう。どうせ、逃げようとか反抗しようとしたら埋め込んだ魔術が発動して動けねぇんだ。あぁ、愚かで可愛い俺様のルゥキノア)

 伯爵は動けないルゥキノアを抱き抱え、寝室へと向かった。

◆◆◆

 2人が寝室に着くと、そこには何故か子供用の木馬があった。いつ、それが出ていたのかルゥキノアはわからない。もしかしたら、いつの間にか伯爵が魔法で出していたのかもしれない。
 しかし、その木馬には本来ないものがあった。丁度、本来跨って遊ぶであろう座席部分に薄紅色の細かな触手。
 それを見てしまったルゥキノアは自分が何をされるのか察し、小さく悲鳴をあげて伯爵に頼み込む。

「トト……あれ……いや」
「だいじょーぶ、大丈夫。俺様の触手の1部を移植させただけだから。俺様の意思で動いてるし……ほら、こんな感じに」

 伯爵はルゥキノアのズボンと上着だけを脱がし、木馬に跨らせる。その瞬間、触手のいくつかがルゥキノアの体を木馬に固定させ、またいくつかが服に中へと侵入した。
 その様子を確認した伯爵は、木馬の対称面にあるベッドに腰掛け優雅に笑う。

「さて、早速遊ぶか」

 伯爵の一言に反応したのだろうか。触手が疼き、木馬が揺れ始める。
 すると、その揺れに従い触手達が蠢き、ルゥキノアを舐め上げるようにくすぶり出す。
 背の触手はルゥキノアの口をこじ開け、その中にいくつも入り込んで口内を犯す。
 最初はバラついて、今度はひとつに集まり、それこそ伯爵の肉棒のような巨大な太さに。
 それがまるでガツガツと、イマラチオをされている様に荒々しく暴れる。

「んーー! んっんっ……はぁ、……ふ……んっ!」
「はぁ……いい。ルゥちゃんの口マンコ最っ高だ。もっと……もっとだ! もっと気持ちよくなろうぜ」

 同時に、服に入り込んだ触手が乳首にふれ、先を吸盤上に変化させてぴったりと吸い付く。
 吸い付いた後、まるで乳首を揉みほぐす様にゆっくりと吸い上げてゆく。
 また、下半身の触手はルゥキノアのタイツを破き、彼の陰核を座席の触手と擦り合う様に腰や太腿を固定させながら小さく振動している。
 固定され、擦り合わせられた陰核は触手の刺激を布越しから受け続ける。

「ふーーーーっ! あ、うっ……ふっ……!」

 余すことなく繰り出される刺激に、ルゥキノアは何度も絶頂を迎えた。
 絶頂で痙攣する体、快楽に溶ける思考に鞭を打ち、必死に声を振り絞る。

「と、と……とと」
「ん? どーしたルゥちゃん」

 伯爵が答えると同時に、ルゥキノアの口を犯していた触手達は引っ込んだ。それでもほかの触手は動きを辞めることは無い。

「た、助けっ……ひぃっ! あっあっ……はぁ……」
「助ける? そんな必要ねぇだろ。ルゥちゃんさっきからイきっぱなしで気持ちよさそうだからなぁ」

 確かにルゥキノアは絶頂を続けている。それに合わせ、激しく揺れる木馬を眺めて伯爵もご満悦だ。
 しかし、伯爵の手によってある程度開発されたルゥキノアの体は……求めている。

「とと、の……はぁっ! ととのが、いいっ」

 ルゥキノアのアヌスは、快楽と伯爵の肉棒を求めて愛液で濡れていた。
 伯爵は立ち上がり、木馬を止める。そのままルゥキノアの尻側のタイツを破り、パンツを引き下げ彼のしりを掴んで開く。

「おーおー、涎をたっぷり垂らしちゃって。そんなに俺様の欲しいか?」
「ほ、ほしい……入れて.......んっ!」
「ダメだ」

 伯爵は尻から手を離し、今度はルゥキノアの顎を掴み、口に右手人差し指を入れてしゃぶらせる。

「これはお仕置だ。ルゥキノア。それとも何か? 今すぐ足を切り落とそうか?」

 彼の言葉を聞き、ルゥキノアは顔を青くする。こんなところでそんな目に会いたくない。
 自分が彼にとっての失言をしたのは理解している。しているけど、理解しても尚外に焦がれてしまうのだ。

「あひ、あしは、いや……」
「嫌だよな。お前外に行きたがってたもんなぁ? 歩けなくなるもんなぁ。じゃあ、ずっとこのままでいいよな。このままずっと、この木馬でイき続ける」

 伯爵はしゃぶらせていた指を抜き、それを味わう様に自分で舐め上げる。
 彼のその様子に君の悪さ覚えつつも、ルゥキノアは彼に問いかけた。

「ずっと……?」

 ずっとというのはいつまでなのか。ルゥキノアには分からない。それこそ文字通り永遠と、自分が死ぬまでなのかもしれない。
 いや、それでもこの男なら途中で飽きる可能性もある、と微かながらルゥキノアは希望を浮かべる。しかし。

「あぁ、言っとくと俺様がこれに飽きるとか
「えっ……」
「俺様とその触手、感覚が繋がってんだよね。だから俺様も現在超絶気持ち良くって楽しいってわけ。何より……お前が可愛いんだ」

 伯爵の告白の様な言葉と同時に、触手達はより一層に動きを強めた。その衝撃でルゥキノアも絶頂を続ける。

「あ! あぁあああっ!」
「可愛いなぁルゥちゃんは。可愛い、かわいいかわいい可愛い、怯えた顔もイく顔もいつもの顔も可哀想な顔もその声も体もおバカな思考も性格も。全部好きだ。愛してる。なぁ、俺様のじゃなきゃ満足できないんだろ? できない体になったんだろ? 本当は今すぐ入れて抱いてやりたいんだ」

 伯爵は息を飲み、光悦と獲物を眺める様な笑みを浮かべて舌舐めずりをする。

(俺以外考えられなくなればいい。俺を思えば興奮し、俺に慰めて貰えるまで欲情すればいい。俺が居なくなったら呼吸もできなくなればいい、生きられなくなればいい。俺はお前を愛している。お前を奪う奴は許さない。お前は俺と幸せになるんだ……ルゥキノア。俺を魅了したお前が悪いんだ。絶対に手放さない。永遠に俺と共に。例え死んでも殺してもすぐに蘇生させてやる)

 どろりどろりとした感情を心に押し留め、表面上は愛だけを告げる。
 しかし、ルゥキノアは幾度も迎えた絶頂で思考も体力も限界のようだ。
 それでも、どうしても、彼のものが欲しい。

「とと、欲しい……お願い、します」
「んー。どうしようかなぁ。お前、どうせ外に出るの諦めないだろうし。……ひとつ、約束を決めようじゃないかルゥキノア」
「や……くそ……く?」
「あぁ」

 不適に笑う伯爵に、ルゥキノアはおぼつかない視線を向ける。
 彼はそれさえ愛おしいのか、軽く口付けをして頭を優しく撫でた。

。ルゥキノア、お前を愛している。だから、永遠に俺の元に居るんだ。そうすれば、他の自由には目を瞑る。といっても、外出は俺と一緒が条件だけどな」

 ルゥキノアは頭を鈍器で殴られた様な感覚に陥る。何故彼がそれを知っているのか。
 いや、それよりも何故自分なんかを愛しているのか。そもそも、諦めろとは一体なんなのだ。
 惚けた頭は一瞬で覚醒し、彼は突発的に……けれど自らの意思で言葉を返した。

「それは……できないのです」
「できない? なぜだ」
「それはルゥが決めたことなのです! 事の選択権はルゥにあります! 迷うのも決めるのも全部ルゥがする!」

 ルゥキノアの予想外の答えに、伯爵は……笑った。

「あはは! ぎゃははははは! いい、サイッコー! おバカもここまで来ると清々しくて可愛いもんだ。いや、お前は元から可愛いがな。そうだな、うん……そうそう。お前が決めるんだよな」

 ニコニコと、穏やかに笑った彼はルゥキノアの耳元に近づき、そっと囁く。

「じゃあ、ずっとこのままで」

 ルゥキノアは血の気が引いた。自分は再び彼の逆鱗に触れたのだと。なんて自分は愚かだと思いながら、彼は伯爵に交渉を持ちかける。

「ほかの……事なら、ほかの願いなら聞くのです」

 その言葉に伯爵は心臓高鳴らせる。ルゥキノアのそれが焼け石に水というのは理解していた。けれど、これは自分にとっても最大のチャンスだ。
 ひとつ。たったひとつ、その言葉を口にすれば良いだけなのだ。なのに、何故かその言葉が出ない。
 心のどこかで、それを出すのが烏滸がましいなどと言う葛藤が起こっている。今まで散々愛していると言ったくせに、それが……が言えないだなんて。
 伯爵は何故か一瞬だけ顔を逸らし、その言葉を口に出した。

「俺は、俺様はお前を愛している。お前と出会ったあの日からずっと、この感情を抱いているんだ。だから……それを知っていてくれ」

 それは、理解への声。壊れる直前の理性。自分自身への最後の枷だった。
 願いでもなんでもない。ただの告白。
 ルゥキノアは人生初めての告白に、しばらく間だけ言葉を失う。
 一方で伯爵の頭の中は叫びが蠢いていた。

(愛している愛している愛して欲しい愛して俺だけを愛して俺の心は思考はお前でこんなにも染まっているのに! お前を自由にしたらお前は他の誰かを愛してしまうそれは嫌だいやだ嫌だいやだ嫌だ! そんな奴この世に存在してはいけない。あいつを愛していいのは俺だけだ! あいつをルゥキノアが好きで、笑顔も苦しむ顔も全て俺が……! けれど、こんな俺がルゥキノアを幸せにはできないのも……理解している。だから、告げられなかった。愛して欲しい……なんて)

 完全に狂えば良かったのだろう。けれど、愛してしまったからこそ理解が残ってしまっている。
 あの時、最初に出会った次の日の食事の時。自分の料理がおいしいと言われた。さり気ない言葉が……伯爵の乾いた心を満たしたのだ。
 邪神として生まれ、試練という大量虐殺を行う化物。勇者によって力を削ぎ落とされ、人の姿で生活を強いられた日々。
 何をしても心は乾いた。友人は出来たが、それでも満たされない何かを与えてくれた。だからこそ自覚したのだ。……好きなのだと。
 しかし、同時に自分と共に壊れて欲しいとさえ思う。所詮、化物だ。

「わかったのです」

 ルゥキノアはしどろもどろになりつつも、ゆっくりと返事を返す。

「ルゥはその、まだトトのことよく知らないので好きか嫌いかわからないけど。でも、トトの気持ちは理解しておくのです」
「ルゥキノア……」

 伯爵はルゥキノアを木馬から剥がし、優しく抱きしめながらベッドに転がる。
 そのまま自らの肉棒を取り出し、ルゥキノアに挿入した。

「んっ! トト、いきなりは……!」
「好きだ、ルゥちゃん」

 伯爵はルゥキノアの静止も聞かずに腰を振り続ける。ルゥキノアもまた、刺激と共に彼に囁かれる愛の言葉に心地良さを覚え、脳髄を侵される感覚に陥る。

「可愛い、俺のペット。ルゥちゃん、可愛い」
「あんっ……はぁ! はず、かしい」

 お互い、刺激を高め合い同時に達した。毎晩やっている行為とは同じ物なのに、ルゥキノアは何故か特別な感覚を感じてしまう。
 いや、正確に言うならば伯爵への意識が強まり、心臓がいつも以上にうるさい。

(それだけじゃないのです。何故か、抱きしめられるのも……すごく心地いい。暖かいような、もっとたくさん……だいてほしい……ような)

 誘発的に意識してしまっている事をルゥキノアはまだ知らない。
 そう。その誘発性さえ、実は伯爵の計画のうちであったことさえも。

 伯爵はルゥキノアを抱き締め、嗤う。愛して欲しいと言わなかった。無論、理性も働いてその選択をしたのもある。
 しかし、これはそういうなのだ。相手に意識を自分に向けさせる術式を組んだ木馬。それで絶頂するだけで術式は発動する。
 そういう呪いを掛けた。おまけに、ルゥキノアは何度も絶頂している。つまり、秘めたる思いは強く重なり、彼は無意識下で伯爵が好きな状態になってしまっている。
 そして尚、愛の言葉を告げられれば……対象には見えない赤い首輪を繋がれて術者に居場所を把握されるのだ。
 ルゥキノアはもはや、伯爵の掌の中。どこへ逃げても居場所は分かり、何をしても行動さえ把握される。

 愛しき子の退路を絶った邪神は静かに狂い果て、嘲笑った。
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