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第一章 Not Club, Committee, Charity, But We are

第二話 裏裏会②

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 私立神野童学園2年生、白秋しらき白嶺しらねに連れて来られた内丸うちまるは別棟4階の端に位置している小さな教室の前に来ていた。
 地理準備室と書かれているその部屋の扉には、白い紙に『裏裏会』と黒いペンで大きく書かれており、目に入ってくる。

裏裏会うらうらかい…………?? なんだそれは)

「かなり離れた場所にある教室ですまないな。ここが我々の活動拠点。『裏裏会うらりかい』。まぁともかく入ってくれ奇跡の平凡よ。ロイヤルファミリーのような歓迎はできないが、紅茶ぐらいなら出せるさ」

 青と白の合わさった長く綺麗な髪を持つ現役海軍大将の白秋は、社会科準備室の扉を開ける。
 やぁ待たせたね。と発しながらその扉を抜ける白秋に続いて進む内丸の目に情報が流れ込んでくる。

 教室の広さはさほど大きくない。10人から15人が授業受けれるかどうかのサイズ感だ。そもそもここは準備室であるわけだが。正面にはホワイトボードが設置されてあり、黒文字で細かく書かれている。教室の両側には地球儀やマップ、教材の箱が陣取ってある。ホワイトボードの手前には細長い机が構えていて、その上にはパソコンや紙の束、お菓子などが散乱している。そして何より注目すべきなのが、先に中にいたと思われる2名。
 1名は地面に座っているのにその身長の高さが分かるほどの男。紺色の袴を着ていて足は草履のようなものが見える。目の近くには『ノ』の字のような傷がある。1番の特徴は腕で保持している男の座高よりも高い木刀の存在だろう。
 もう1人は黒いローブを被った女性。灰色に近い髪の毛がローブのフードから少し見える。女性の方は座っており、彼女の前には水晶玉とトランプやタロットが散乱している。

「さぁ内丸少年よ。中に入ったら怖そうな男と謎の女がいてびっくりしたかな。なーに恐れることはないさ。彼彼女は、この私が認めた人物たち。強キャラクーがひしめくこの学園の中でも、異彩のオーラを持つ生徒たちだよ。男は2年B組土方ひじかた歳助としすけ。女の方は1年C組美唄ひばいよち。よろしくしてくれ」

 白秋が説明をすると、土方と美唄は内丸の方を見ると頭を下げる。それに釣られて内丸も頭を下げる。
 頭を上げると、内丸は自分の中にあった疑問を打ち出す。

「…………あの、それでここは一体なんの組織なんですか?」

 その質問を待っていました。という顔をするのは白大将。彼女は内丸の前に1枚の紙を差し出してくる。

「いい質問だ、そしてここからが君をここへといざなった理由。『裏裏会』についてだ」

 彼女はそういうと内丸を目の前に椅子に座るように促してくる。

「君は入学2週間ほどだが、当然ながらこの学園の異常性には辟易してるだろう。アイドルからお姫様、異世界人までが一度に集っているこの学園。そんな強キャラクターが一度に集合すれば、生徒同士のメンツをかけた衝突が起こる。満員電車で人にぶつかるくらいの頻度でね。そしてそのような衝突に対して先生たちは基本的にノータッチだ。自主性の尊重と言ってね。大丈夫という言葉並みに便利なものさ」

 私はねこの状況に我慢できないのさ。と白秋は一息ついて内丸に質問をする。

「君はどうしてこの学園は衝突が多いのに、強キャラクターたちが集まると思う?」

 そう質問された内丸は言葉に詰まった。確かになぜ衝突が多いのにも関わらず、強キャラクターたちは集まるんだ。

「…………難しいかい。それはね、コネクション作りさ。ありとありゆる分野の著名人たちとのコネクションを持つこと。すなわち人脈を持つことは、彼らにとって衝突というデメリットがあっても重要なことなのさ。かくいう私も国防上の理由でこの学園にいるわけだが」

「だがそれでも。衝突の多さはあまりにも煩わしい」

 新しく口を開いたのはいつの間にか床から立ち上がり、カップに紅茶を注ぐ土方であった。 綺麗な手捌きで淹れた紅茶を内丸の前に出してくる。

「熱いから気をつけろ。コネクションを作りたいというのは全ての生徒の目標だ。それは一致しているのにプライドの関係で衝突が起こる。そこをうまく取り持つことで、安心安全安念に学園生活を謳歌できないかと考え、白秋が行動し俺が乗っかったのが、この裏裏会だ。そこの美唄はつい先日スカウトして入れた」

「ありがとうございます。…………衝突が起こる理由、強キャラクターがそれでも在学している理由は分かりました。ただ……なぜ俺を誘ったのかが分かりません。強キャラクターたちの間を取り持つ。そんなこと何も無い平凡な俺ができるとはとても思えません」

 紅茶を息で冷ましながら飲む。実はそこまで紅茶は好きではない内丸だが、土方が淹れた紅茶は口に合う気がした。

「だからだよ内丸。ここの3人はどこの派閥にも属していない、ある種他とは違うオーラを持っている。だがそれでも強キャラクター同士の衝突に緩衝を試みても、我々も強キャラクターであるが故に困難だ。そこで何も無い平凡が介入することによる未知のシナジーを期待しているのさ。狼男を当てるゲームでも平民の一票は大きいものさ。だから力を貸して欲しい」

 見つめたものをとりこにするような綺麗な瞳で内丸を誘ってくる。

(こんな眼でお願いされたら、断ることはできないだろ! それにこの荒れた学園で仲間ができるのは心強い)

「そ、その。ここは部活やボランティアなんですか? 衝突の緩衝を目標としているなんて慈善性が高いような」

 内丸が絞り出した言葉に対して、白秋はふっとひと笑いすると、白と青の長髪をかき上げる。

「我々裏裏会は、部活動でも同好会でもサークルでも委員会でも生徒会でもボランティアでも派閥でもない。我々は独自の方法を用いて、この学園の安念を目指す。1人迷い込んだ、染まることのない平凡な少年よ。我々の力になってくれ」

 再度のお願い。もうここでは断れないなと内丸は心から感じた。しかしそれでも不安は感じる。衝突の緩衝。それは具体的にどういうことをするのかと。
 顔にその疑問が出ていたのか、白大将は鋭い瞳で感じ取ったのか、ひとつの提案をしてくる。流石は人の上に立つ人間。気配りの力が優秀だ。

「当然不安疑問があるだろう。それもそうだ、このような団体はそうそうないからな。ではこれはどうだろう。先ほど悩める生徒からの相談が来た。我々が運営しているインターネット上の掲示板経由だからまだ本人とは会ってないがな。君と同じクラスの少女だ。その問題を一緒に解決しようじゃないか。リアルワークを通じることで、我々の活動内容も具体に理解できる。それで君に相性が良ければ僥倖ぎょうこう。それまではのような形で共にしないか?」

「…………そ、それならまぁ。理解もできると思いますし。ただ合わなければ断りますよ」

 本当は断ったりしたら、確実にボッチ学園生活が待っているのを理解してるのだが、なぜ強気に出てしまった内丸。頼られることが少ない人間だからこそ、頼られた時の対処法に困ってしまうツンデレさんなのだ。

「良い返事だ、ありがとう。さて平凡な君との最初の内容はこれだよ。ハロウィンもビックリな案件さ」

 白秋が自分の前にあったパソコンの画面を内丸の方向へ向けると、質問者の表題が見えた。

【クラスの新人声優がウザいんですけど】
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