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25. バル×ビビ③
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「ビビ」
「………」
「ビビアン」
「………」
「ビービ」
「呼ばないで。あっち行って」
わかりやすく機嫌を取ってこようとする男を冷たくあしらって、赤毛は顔を見せずにひらひらと手を振る。
「仕方ないだろ。奥様に一番良いドレスを作るって皆で張り切ってる」
「そうね、いいんじゃない?」
だけどなんなの、あのジャンヌ女狐は!?
登場の仕方が問題なのよぉぉぉ!!
心の中で叫ぶが、悔しいので絶対言わない。
バルカスがモテるなんて百年前から世界中が知っているし、今さら右往左往することじゃない。
「マダムは可愛い年下の男の子が大好きなだけだ。別に俺がお気に入りなわけじゃない」
「どうやってマダムを落としたの? 相当予約が取れない工房なのに」
「それは企業秘密」
「なあぁぁんで!!」
「ビビが知らなくていいことも沢山ある」
バルカスはそっけなく返事する。
マダム・ジャンヌは太客が大勢いる。相当儲けているので、金で買収することは不可能だった。だが相当な人気の裏には悩みもある。それは知名度もパトロンもいなかった時代、名のある貴族に枕営業をもちかけていたジャンヌの過去。その後彼女のドレスに爆発的な人気が集まると、『妻のために』『愛人にねだられて』と過去の関係を盾に無理やり優先的にドレスを作らせたり、値切ってくる輩と縁を切ることができなかったのだ。バルカスはほぼその全てを把握していたので、質の悪い一部を清算してやると持ち掛けて今回の予約を取った。
これでマダムはバルカス、ひいてはカーターに一生足を向けて眠れない。
だけどそんな事実、可憐なドレスにうっとりする女の子たちの耳に入れる必要はないのだ。
マダムがバルカスをすっかり気に入ってしまったのにはそう言った背景もあった。どちらかというと『神の使い』くらいの立ち位置である。
ビビアンは両手で頬杖をついてカーターの屋敷に貰った自室で新聞を読んでいる。だけどさっきから紙面が捲られることは無い。バルカスはすっかりへそを曲げてしまったお姫様に手を焼いた。きつい言葉で拒絶するわりに甘えん坊なのも、自分の前ではすぐ涙が出てしまうことも男は承知の上だ。
このお姫様の背後にはいつも深くて狭い穴が開いているので、自分が手を繋いでいないとすぐに落っこちる。引き上げるのが大変なのだ。
その整った顔面を撫で、バルカスは思案する。
「ドライブでも行くか。シャルロット様も出かけていないし」
「行かない。どうせお遣いでしょ」
「違う違う。お茶でもしに行くか?」
ようやくビビアンがバルカスを向いた。
「今から?」
「うん。ジェフ様は終日医師会の陳情会だから。大臣と補佐官が補佐についてるし、俺は休みになった」
「ふぅん。じゃあ行く」
「え?」
「行くって言ってるんだから、いちいち聞き返さないでよ!!」
おかしそうに笑うバルカスに苛立ってから、支度を始めて二人は車に乗った。
隣でにんまりしているビビアンを感じながら、バルカスはハンドルを握る。
「セザンヌ通りにあるカフェに行きたい! コリーヌ・エ・デルベロエ。そこのロイヤルミルクティーと季節のショートケーキかショコラのケーキを食べる」
「はいはい」
「……本当にカフェに行くの?」
「そうだけど。なんで」
「だって……こんなのしたことないから」
バルカスはウィンカーを出しながら記憶を辿り、そう言われるとそうかと呟いた。
「付き合いは長いから色々してるし、あんまり考えたことなかったな」
「お茶もたくさんしているけど、外でなんか二人で出かけたことないよ。シャルロット様の家庭教師になってから、前よりずっと顔見れるね」
「うれしい?」
「うれしい」
「はは」
「だけど、こんなことしてバルカス怒られない? 大丈夫?」
「さぁ……怒られるのにもいい加減慣れてきたから。お仕置きがあればさすがにびびるけど、取り合えずジェフ様が宥めてくれてるし。第一お茶くらい良いだろう」
「怒られたの? いつ!?」
「顔見れば挨拶代わりにとりあえず怒られる」
「腹の立つ……!」
「仕方ない。ビビが可愛くて仕方ないんだから。そう言えば、セザンヌ通りで好きそうな店がオープンしてたぞ」
「何それ!! 何のお店!?」
「若い層向けのプレタポルテと、最近増えてきた靴のセレクトショップとか」
「行く~!」
カフェでケーキを三つ頼んで全部半分こして、すっかり機嫌を良くしたビビアンと人通りの多いセザンヌ通りを歩く。
「あんまりくっつくな」
「んー。でも誰も見てなくない?」
「見てないとは思うけど、念の為」
街行く女性がバルカスをチラリチラリと見るたびにビビアンが睨みを効かせ、バルカスは時折周囲の男に知った顔がないか確認する。
「楽しいのに、落ち着かない……!」
屋敷で二人きりになれば互いに気持ちを持て余し、外に出れば人目が気になる。
「確かに今はカーターの屋敷で皆でわいわいしているのが一番落ち着くな」
「ねぇ、もう最後までシよ?」
「………」
歩きながらあっけらかんと提案されてバルカスが顔を覆う。
「だって~、したかしてないかなんて誰にも」
「ビビアン」
「わっかんないでしょ! そしたら落ち着けるし」
「あのな、ケジメの問題なんだよ」
「そんなケジメに何の意味があるの。パパだってケジメのないことしたくせに」
「ビビ、ちょ、ストップ」
「いつまで経っても結婚のお許しなんて出ないんだから」
「ストップ!!!」
がばりとビビアンの口を覆ったバルカスは前方を見ている。
んん? とビビアンも首を捻ると、そこには見知った金髪の男が立っていた。
「結婚?」
「むむ~っ。ぷはっ、リック!」
「姉様、まだこの男と結婚するつもりですか? 往来で恥ずかしげもなくそのような話題を!」
バルカスはうんざりした顔を隠してにこやかにビビアンの弟エリックに挨拶をする。会いたくないやつトップテンに入る人間のうち一人に会ってしまった。二人とも心中で『げぇ』と思う。
「こんな所で何してるの?」
「婚約者にプレゼントを買いに来たんですよ。僕が選んだものが欲しいというので。あなた方は一体何を?」
「私の買い物。バルカスに荷物持ちでついてきてもらったのよ。じゃあね、リック」
「ちょーっと、ちょっとちょっと、それは早いでしょう、姉様!?」
行こうと促すビビアンにバルカスも頷くが、リックの周囲にいる黒服たちが行く手を阻む。
「なんなのよ。黒服どけなさいよ、あんたに用事なんてないわよ」
「姉様、次はいつ帰って来られるのです!? みんな姉様に会いたがってる!」
「決めてない。クリスマスとかじゃない」
「遠っ!!」
三か月先の予定を答えられ、エリックは悲鳴をあげた。
「あのねぇ、もう他人みたいなもんなんだから、いい加減そういうのやめなさいよ。ジーンにもフレッドにもそう言っといて、じゃあさようなら!」
「父上に言いつけますよ」
バルカスがエリックを見下ろして一瞥する。
「エリック様、それは何を奏上されるおつもりですか?」
「結婚の相談を勝手にしていただろう、お前」
「しておりません」
「仮にしていたからって何だって言うのよ。私はもう好き勝手にする権利があるんですからね!」
「ですが、結婚となれば話は別だ。血が関係するのですから。そうでしょう? ウェーバー子爵……いや失礼、君はまだ何者でもないただの宰相側近バルカスか」
「リック、怒るわよ」
「事実でしょう。そんな身分もない雑用係の男に姉様はやれませんよ。父上と僕ら兄弟の総意です」
「頼んでない!」
ピシャリとビビアンは怒鳴りつけ、がばりとバルカスに抱き着いた。
「ビビ」
「ねっ、姉様!?」
「結婚相手は自分で選ぶ!! バルカスにばっかり重荷を増やさないで。それ以上あんた達兄弟まで口出しするのならクリスマスにも帰らないわよ。いいの? パパにも帰らないのはあんたのせいだって言うわ」
しばらくエリックとビビアンは睨み合う。
「………この、顔だけジゴロめが!」
エリックは最後にバルカスを睨んで捨て台詞を吐き、黒服と共に去って行った。
「相変わらずだな」
「異常なシスコンだから……バルたん、もう帰ろ」
バルカスはひとつ息をついて、俯いた赤毛を覗き込む。
「良いのか? 靴は?」
「靴よりぎゅってして欲しい」
しばらく二人は黙って立っていたが、やがてバルカスが手を引き、車に戻って走り出す。
ビビアンは流れていく窓の外をぼんやりと眺めた。
「ビビ、シートベルトを」
「どうして?」
「尾行されてる」
「どうでもいいわ。ツけて来たいならそうすればいい。どうせカーターのお屋敷についたら入って来れないんだから」
「でも、ぎゅってして欲しいんだろ?」
柔らかい声に窓の外から視線を移すのと、車が猛スピードでUターンするのが一緒だった。
「きゃあーーーーーーっ」
反対車線を猛烈なスピードで進み、込み入った街中で左折に右折とぐちゃぐちゃに繰り返す。
「死んじゃう、死んじゃう!! ぶつかるっ!!」
ビビアンがドアの取っ手を握りしめ叫ぶが車は止まらない。バルカスはバックミラーをちらちらを確認して、後ろが見えなくなってから屋敷とは違う方向に真っすぐ走り始めた。
「こわかった……どこ行くの」
「誰もいないとこ」
途中で有料道路を使い、夕焼け空になった頃、アリンドから一時間ほど離れた隣領の国立公園に着いた。小高い丘から夕焼けが一望できる。
「わぁ」
「ちょうど夕焼けの時間だったな。もう少し暗くなったら街の明かりも見える」
車を降りて、誰もいない草原に広がる赤いパノラマを見る。
赤い空にビビアンの赤毛が美しく馴染む。
「雑用係じゃ、まだまだだな」
独り言を拾って、ビビアンは力なく首を振る。肩を落として近づいて、バルカスの広げた腕の中にポスンと入る。
「一生雑用係だってなんだって良い。バルカスなら……だから」
男はまた泣きそうになっている小さな背中を撫でてやり、名を呼ぶ。
「だから、嫌にならないで」
もう一度名を呼んで涙の零れる可愛い顔を両手で包んで顔を上げさせると、屈んでキスをする。
「ビビが俺を待てなくなるのが先かもしれない」
「そんな日、永遠に来ない」
「どうする? 俺が宰相になるのは五十を過ぎる頃かもしれない」
「ジェフ様をアルコール漬けにしたらもっと早くに宰相をやめるかも」
「どっちみち、民主化したら今の仕組みよりフラットな国民総選挙になる。ジェフ様が選挙で宰相になれるのかはわからない。まぁ絶対させるけど……だけどこの先、俺を地盤の後継に指名はされるだろうけど、力のない議員たちからは党や派閥を作る動きも出てる。みんな身分差が無くなるから野心が出てくるだろう」
「そんなのどうでもいい!!」
「良くない。ジェフ様を尊敬してるから下についてる。だけど目的はそれだけじゃない……俺だってもう少し早くに許されたい」
ビビアンはバルカスのジャケットの中に手を入れて胴に腕を回す。
「ねぇ、どっか違う国に行こうよ」
「……だめだ。それはそれでビビの安全を保証できない」
「死んだって誰も気が付かないのに。新聞にも載らない。別にそこまで大層な命じゃない」
「馬鹿言うな。最後の骨の一片まで探し出されるぞ」
自嘲気味に嗤う様子が嫌になり、バルカスは可愛げのない口を塞ぎたくなる。
抱き着いたビビアンごと車の後部座席に入り、二人は無心に口づけ合った。
泣いているビビアンの服を乱し、夕方の薄明りの車内、バルカスは赤い跡を付けていく。
簡単に濡れる脚の間を擦り合わせて、ビビアンが栗色の頭を撫でた。
「触って」
「どこを?」
「ここ」
脚の間に手を引っ張って教えるが、周囲を撫でるばかりで焦らされる。
「ねぇ、ねぇ、ねぇ」
胸の先を吸って舌先に転がされ、疼く期待で手に隘路を押し付けるが入ってきてくれない。
「ゆび、ゆびでして」
「指で?」
「いれて?」
「こう?」
大好きな声と共につぷん、と異物感があって、ビビアンは目を閉じて頷く。
「あ~……ん、それ、それ」
「それから?」
「動かして、前みたいにして。気持ち良くして……あっ」
静かな車中にくちゃくちゃと水音が響いて、貪り合うようなキスでビビアンは蕩け始める。
「ん♡ ん……んん♡ ん♡」
広げた脚の間から広がる甘い快楽に涎が伝う。細い手が男のベルトを解いて、出して勝手にしごき始める。
「バルカス、いれる? いれても、いいよ? 誰にも言わないから」
「………」
ぐぐっと眉間に皺をよせ、踏みとどまるバルカスが首を振る。
「ねぇ、これでして? そしたらもう他の女にやきもちも焼かなくて済むし、バルカスと結婚できなくても」
「諦める?」
「……諦められるかも……バルカスだって、誰かと結婚できる……」
腹が立った指がもっと奥を突いて、ビビアンのイイ所を撫で始める。
「んっ♡ あ、あ、やだ、それそこ」
「ここ?」
「んんんんん♡ それ好き、すき、いきそ」
だがそこで急に指を抜かれる。
「なんでぇ」
「後ろ向いて」
狭い車内で言われるがまま、捲りあげられたスカートから小ぶりなお尻を突き出してビビアンは四つん這いの姿勢になった。
「……あ?」
ぬる、と入り口に陰茎があたり、小刻みに揺れてぬちぬちと二人の体液が隘路の外で合わさる。
「あ、バルカス、それ、挿入れてくれる……の? ……んん♡」
「脚閉じて」
耳元で低い声がして、頷いたビビアンが膝小僧同士をくっ付けると、バルカスが疑似的な動きを始める。
「……あ、あ、あ」
「ちゃんと擦れてる?」
「んん♡」
涙目で頷いて、服の間から胸を揉まれてまた善がる。
何度も何度も男は背中で息を吐きながら動きを繰り返す。
ビビアンはその吐息と動きでイく寸前だった身体の奥が切なく疼きだして、擦って貰える粒と一緒に駆け上りだす。
「バルカス、バル、ん、もぅ」
「うん」
情けない声を出して、ビビアンは震えて達した。
バルカスも合わせたように続けて吐精する。
狭い車内で寝転んだバルカスの上に横になり、ビビアンはキスをねだったり栗色の髪を撫でて情事の後の時間を過ごす。それから夜景を見下ろして、二人は仲良く帰路についた。
「………」
「ビビアン」
「………」
「ビービ」
「呼ばないで。あっち行って」
わかりやすく機嫌を取ってこようとする男を冷たくあしらって、赤毛は顔を見せずにひらひらと手を振る。
「仕方ないだろ。奥様に一番良いドレスを作るって皆で張り切ってる」
「そうね、いいんじゃない?」
だけどなんなの、あのジャンヌ女狐は!?
登場の仕方が問題なのよぉぉぉ!!
心の中で叫ぶが、悔しいので絶対言わない。
バルカスがモテるなんて百年前から世界中が知っているし、今さら右往左往することじゃない。
「マダムは可愛い年下の男の子が大好きなだけだ。別に俺がお気に入りなわけじゃない」
「どうやってマダムを落としたの? 相当予約が取れない工房なのに」
「それは企業秘密」
「なあぁぁんで!!」
「ビビが知らなくていいことも沢山ある」
バルカスはそっけなく返事する。
マダム・ジャンヌは太客が大勢いる。相当儲けているので、金で買収することは不可能だった。だが相当な人気の裏には悩みもある。それは知名度もパトロンもいなかった時代、名のある貴族に枕営業をもちかけていたジャンヌの過去。その後彼女のドレスに爆発的な人気が集まると、『妻のために』『愛人にねだられて』と過去の関係を盾に無理やり優先的にドレスを作らせたり、値切ってくる輩と縁を切ることができなかったのだ。バルカスはほぼその全てを把握していたので、質の悪い一部を清算してやると持ち掛けて今回の予約を取った。
これでマダムはバルカス、ひいてはカーターに一生足を向けて眠れない。
だけどそんな事実、可憐なドレスにうっとりする女の子たちの耳に入れる必要はないのだ。
マダムがバルカスをすっかり気に入ってしまったのにはそう言った背景もあった。どちらかというと『神の使い』くらいの立ち位置である。
ビビアンは両手で頬杖をついてカーターの屋敷に貰った自室で新聞を読んでいる。だけどさっきから紙面が捲られることは無い。バルカスはすっかりへそを曲げてしまったお姫様に手を焼いた。きつい言葉で拒絶するわりに甘えん坊なのも、自分の前ではすぐ涙が出てしまうことも男は承知の上だ。
このお姫様の背後にはいつも深くて狭い穴が開いているので、自分が手を繋いでいないとすぐに落っこちる。引き上げるのが大変なのだ。
その整った顔面を撫で、バルカスは思案する。
「ドライブでも行くか。シャルロット様も出かけていないし」
「行かない。どうせお遣いでしょ」
「違う違う。お茶でもしに行くか?」
ようやくビビアンがバルカスを向いた。
「今から?」
「うん。ジェフ様は終日医師会の陳情会だから。大臣と補佐官が補佐についてるし、俺は休みになった」
「ふぅん。じゃあ行く」
「え?」
「行くって言ってるんだから、いちいち聞き返さないでよ!!」
おかしそうに笑うバルカスに苛立ってから、支度を始めて二人は車に乗った。
隣でにんまりしているビビアンを感じながら、バルカスはハンドルを握る。
「セザンヌ通りにあるカフェに行きたい! コリーヌ・エ・デルベロエ。そこのロイヤルミルクティーと季節のショートケーキかショコラのケーキを食べる」
「はいはい」
「……本当にカフェに行くの?」
「そうだけど。なんで」
「だって……こんなのしたことないから」
バルカスはウィンカーを出しながら記憶を辿り、そう言われるとそうかと呟いた。
「付き合いは長いから色々してるし、あんまり考えたことなかったな」
「お茶もたくさんしているけど、外でなんか二人で出かけたことないよ。シャルロット様の家庭教師になってから、前よりずっと顔見れるね」
「うれしい?」
「うれしい」
「はは」
「だけど、こんなことしてバルカス怒られない? 大丈夫?」
「さぁ……怒られるのにもいい加減慣れてきたから。お仕置きがあればさすがにびびるけど、取り合えずジェフ様が宥めてくれてるし。第一お茶くらい良いだろう」
「怒られたの? いつ!?」
「顔見れば挨拶代わりにとりあえず怒られる」
「腹の立つ……!」
「仕方ない。ビビが可愛くて仕方ないんだから。そう言えば、セザンヌ通りで好きそうな店がオープンしてたぞ」
「何それ!! 何のお店!?」
「若い層向けのプレタポルテと、最近増えてきた靴のセレクトショップとか」
「行く~!」
カフェでケーキを三つ頼んで全部半分こして、すっかり機嫌を良くしたビビアンと人通りの多いセザンヌ通りを歩く。
「あんまりくっつくな」
「んー。でも誰も見てなくない?」
「見てないとは思うけど、念の為」
街行く女性がバルカスをチラリチラリと見るたびにビビアンが睨みを効かせ、バルカスは時折周囲の男に知った顔がないか確認する。
「楽しいのに、落ち着かない……!」
屋敷で二人きりになれば互いに気持ちを持て余し、外に出れば人目が気になる。
「確かに今はカーターの屋敷で皆でわいわいしているのが一番落ち着くな」
「ねぇ、もう最後までシよ?」
「………」
歩きながらあっけらかんと提案されてバルカスが顔を覆う。
「だって~、したかしてないかなんて誰にも」
「ビビアン」
「わっかんないでしょ! そしたら落ち着けるし」
「あのな、ケジメの問題なんだよ」
「そんなケジメに何の意味があるの。パパだってケジメのないことしたくせに」
「ビビ、ちょ、ストップ」
「いつまで経っても結婚のお許しなんて出ないんだから」
「ストップ!!!」
がばりとビビアンの口を覆ったバルカスは前方を見ている。
んん? とビビアンも首を捻ると、そこには見知った金髪の男が立っていた。
「結婚?」
「むむ~っ。ぷはっ、リック!」
「姉様、まだこの男と結婚するつもりですか? 往来で恥ずかしげもなくそのような話題を!」
バルカスはうんざりした顔を隠してにこやかにビビアンの弟エリックに挨拶をする。会いたくないやつトップテンに入る人間のうち一人に会ってしまった。二人とも心中で『げぇ』と思う。
「こんな所で何してるの?」
「婚約者にプレゼントを買いに来たんですよ。僕が選んだものが欲しいというので。あなた方は一体何を?」
「私の買い物。バルカスに荷物持ちでついてきてもらったのよ。じゃあね、リック」
「ちょーっと、ちょっとちょっと、それは早いでしょう、姉様!?」
行こうと促すビビアンにバルカスも頷くが、リックの周囲にいる黒服たちが行く手を阻む。
「なんなのよ。黒服どけなさいよ、あんたに用事なんてないわよ」
「姉様、次はいつ帰って来られるのです!? みんな姉様に会いたがってる!」
「決めてない。クリスマスとかじゃない」
「遠っ!!」
三か月先の予定を答えられ、エリックは悲鳴をあげた。
「あのねぇ、もう他人みたいなもんなんだから、いい加減そういうのやめなさいよ。ジーンにもフレッドにもそう言っといて、じゃあさようなら!」
「父上に言いつけますよ」
バルカスがエリックを見下ろして一瞥する。
「エリック様、それは何を奏上されるおつもりですか?」
「結婚の相談を勝手にしていただろう、お前」
「しておりません」
「仮にしていたからって何だって言うのよ。私はもう好き勝手にする権利があるんですからね!」
「ですが、結婚となれば話は別だ。血が関係するのですから。そうでしょう? ウェーバー子爵……いや失礼、君はまだ何者でもないただの宰相側近バルカスか」
「リック、怒るわよ」
「事実でしょう。そんな身分もない雑用係の男に姉様はやれませんよ。父上と僕ら兄弟の総意です」
「頼んでない!」
ピシャリとビビアンは怒鳴りつけ、がばりとバルカスに抱き着いた。
「ビビ」
「ねっ、姉様!?」
「結婚相手は自分で選ぶ!! バルカスにばっかり重荷を増やさないで。それ以上あんた達兄弟まで口出しするのならクリスマスにも帰らないわよ。いいの? パパにも帰らないのはあんたのせいだって言うわ」
しばらくエリックとビビアンは睨み合う。
「………この、顔だけジゴロめが!」
エリックは最後にバルカスを睨んで捨て台詞を吐き、黒服と共に去って行った。
「相変わらずだな」
「異常なシスコンだから……バルたん、もう帰ろ」
バルカスはひとつ息をついて、俯いた赤毛を覗き込む。
「良いのか? 靴は?」
「靴よりぎゅってして欲しい」
しばらく二人は黙って立っていたが、やがてバルカスが手を引き、車に戻って走り出す。
ビビアンは流れていく窓の外をぼんやりと眺めた。
「ビビ、シートベルトを」
「どうして?」
「尾行されてる」
「どうでもいいわ。ツけて来たいならそうすればいい。どうせカーターのお屋敷についたら入って来れないんだから」
「でも、ぎゅってして欲しいんだろ?」
柔らかい声に窓の外から視線を移すのと、車が猛スピードでUターンするのが一緒だった。
「きゃあーーーーーーっ」
反対車線を猛烈なスピードで進み、込み入った街中で左折に右折とぐちゃぐちゃに繰り返す。
「死んじゃう、死んじゃう!! ぶつかるっ!!」
ビビアンがドアの取っ手を握りしめ叫ぶが車は止まらない。バルカスはバックミラーをちらちらを確認して、後ろが見えなくなってから屋敷とは違う方向に真っすぐ走り始めた。
「こわかった……どこ行くの」
「誰もいないとこ」
途中で有料道路を使い、夕焼け空になった頃、アリンドから一時間ほど離れた隣領の国立公園に着いた。小高い丘から夕焼けが一望できる。
「わぁ」
「ちょうど夕焼けの時間だったな。もう少し暗くなったら街の明かりも見える」
車を降りて、誰もいない草原に広がる赤いパノラマを見る。
赤い空にビビアンの赤毛が美しく馴染む。
「雑用係じゃ、まだまだだな」
独り言を拾って、ビビアンは力なく首を振る。肩を落として近づいて、バルカスの広げた腕の中にポスンと入る。
「一生雑用係だってなんだって良い。バルカスなら……だから」
男はまた泣きそうになっている小さな背中を撫でてやり、名を呼ぶ。
「だから、嫌にならないで」
もう一度名を呼んで涙の零れる可愛い顔を両手で包んで顔を上げさせると、屈んでキスをする。
「ビビが俺を待てなくなるのが先かもしれない」
「そんな日、永遠に来ない」
「どうする? 俺が宰相になるのは五十を過ぎる頃かもしれない」
「ジェフ様をアルコール漬けにしたらもっと早くに宰相をやめるかも」
「どっちみち、民主化したら今の仕組みよりフラットな国民総選挙になる。ジェフ様が選挙で宰相になれるのかはわからない。まぁ絶対させるけど……だけどこの先、俺を地盤の後継に指名はされるだろうけど、力のない議員たちからは党や派閥を作る動きも出てる。みんな身分差が無くなるから野心が出てくるだろう」
「そんなのどうでもいい!!」
「良くない。ジェフ様を尊敬してるから下についてる。だけど目的はそれだけじゃない……俺だってもう少し早くに許されたい」
ビビアンはバルカスのジャケットの中に手を入れて胴に腕を回す。
「ねぇ、どっか違う国に行こうよ」
「……だめだ。それはそれでビビの安全を保証できない」
「死んだって誰も気が付かないのに。新聞にも載らない。別にそこまで大層な命じゃない」
「馬鹿言うな。最後の骨の一片まで探し出されるぞ」
自嘲気味に嗤う様子が嫌になり、バルカスは可愛げのない口を塞ぎたくなる。
抱き着いたビビアンごと車の後部座席に入り、二人は無心に口づけ合った。
泣いているビビアンの服を乱し、夕方の薄明りの車内、バルカスは赤い跡を付けていく。
簡単に濡れる脚の間を擦り合わせて、ビビアンが栗色の頭を撫でた。
「触って」
「どこを?」
「ここ」
脚の間に手を引っ張って教えるが、周囲を撫でるばかりで焦らされる。
「ねぇ、ねぇ、ねぇ」
胸の先を吸って舌先に転がされ、疼く期待で手に隘路を押し付けるが入ってきてくれない。
「ゆび、ゆびでして」
「指で?」
「いれて?」
「こう?」
大好きな声と共につぷん、と異物感があって、ビビアンは目を閉じて頷く。
「あ~……ん、それ、それ」
「それから?」
「動かして、前みたいにして。気持ち良くして……あっ」
静かな車中にくちゃくちゃと水音が響いて、貪り合うようなキスでビビアンは蕩け始める。
「ん♡ ん……んん♡ ん♡」
広げた脚の間から広がる甘い快楽に涎が伝う。細い手が男のベルトを解いて、出して勝手にしごき始める。
「バルカス、いれる? いれても、いいよ? 誰にも言わないから」
「………」
ぐぐっと眉間に皺をよせ、踏みとどまるバルカスが首を振る。
「ねぇ、これでして? そしたらもう他の女にやきもちも焼かなくて済むし、バルカスと結婚できなくても」
「諦める?」
「……諦められるかも……バルカスだって、誰かと結婚できる……」
腹が立った指がもっと奥を突いて、ビビアンのイイ所を撫で始める。
「んっ♡ あ、あ、やだ、それそこ」
「ここ?」
「んんんんん♡ それ好き、すき、いきそ」
だがそこで急に指を抜かれる。
「なんでぇ」
「後ろ向いて」
狭い車内で言われるがまま、捲りあげられたスカートから小ぶりなお尻を突き出してビビアンは四つん這いの姿勢になった。
「……あ?」
ぬる、と入り口に陰茎があたり、小刻みに揺れてぬちぬちと二人の体液が隘路の外で合わさる。
「あ、バルカス、それ、挿入れてくれる……の? ……んん♡」
「脚閉じて」
耳元で低い声がして、頷いたビビアンが膝小僧同士をくっ付けると、バルカスが疑似的な動きを始める。
「……あ、あ、あ」
「ちゃんと擦れてる?」
「んん♡」
涙目で頷いて、服の間から胸を揉まれてまた善がる。
何度も何度も男は背中で息を吐きながら動きを繰り返す。
ビビアンはその吐息と動きでイく寸前だった身体の奥が切なく疼きだして、擦って貰える粒と一緒に駆け上りだす。
「バルカス、バル、ん、もぅ」
「うん」
情けない声を出して、ビビアンは震えて達した。
バルカスも合わせたように続けて吐精する。
狭い車内で寝転んだバルカスの上に横になり、ビビアンはキスをねだったり栗色の髪を撫でて情事の後の時間を過ごす。それから夜景を見下ろして、二人は仲良く帰路についた。
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好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
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