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第3話 軽率な約束の代償
「なるほどな……継承したアンデッドの魂火が外殻を形成していて、そこに転移してきた自分の魂が内側に収まっている。月光エネルギーの吸収速度が上がったってわけか」
ゆっくりと目を覚ましたアルドは、強化された自分の骨格に満足しつつ、紅の月光を吸収する速度が速まった理由にも思い当たっていた。
同時に、昨夜の致命的なミスも理解している。あの、魂が虫に食われるような感覚は二度と味わいたくない――そう思った彼は、他のアンデッドを狩る決意をさらに固めた。
(今なら勝率もかなり上がってるはずだ)
継承した記憶から判断するに、自分は少なくともレベル1のスケルトンメイジにはなっている。レベル2に到達しているかは不明だが、いずれにせよ以前とは別物だ。
レベルアップしたスケルトンメイジは、荒原に点在する「神殿」で新たなスキルを習得できる。
レベル10までは無料だが、それ以降は死神ハイドリヒへ供物を捧げなければならない。
最も近い神殿は東南方向に約30キロ。
アルドの移動速度なら、次に猩紅の双月が昇る頃には到達できる計算だ。
この世界の昼には太陽は存在せず、空を覆うのはただ死の天幕のみ――。
しばし考えた末、アルドは掘りかけの落とし穴を放棄し、東南へと歩き出した。
道中、彼は奇妙なことに気づく。
遭遇するアンデッドの数が、あまりにも少ないのだ。特にレベル1~2の個体はほとんど見かけない。
昨日は視界に入るだけで手足の骨を数えられるほどいたはずなのに――。
その原因が自分にあるとは、アルドは夢にも思わなかった。
高レベルのアンデッドを避けながら進むこと約半刻。
予定よりやや遅れて、アルドは神殿へと到着した。
それは「神殿」と呼ぶにはあまりにも簡素な、風化した石造りの教会だった。
入口の両脇には、マントをまとい杖を持つスケルトンの石像が二体立っている。
アルドが石段に足を踏み入れた瞬間、石像の杖先にある龍骨の眼が赤く光った。
彼がスケルトンメイジであると確認すると、その光は静かに消える。
重い石扉が軋みながら開き、内部には誰もいないことを示すように埃が舞い上がった。
中へ入ったアルドの目に飛び込んできたのは、四十の水晶円盤。
これはスケルトンメイジの全四十レベルを象徴するものだ。
レベル0で与えられる初期スキルを除けば、最大で四十のスキルをここで習得できる。
もっとも、アンデッドはレベル24に到達すれば「君王」と呼ばれる存在になるのだが。
記憶通り、最も手前の円盤が青く光っていた。
アルドが指針に触れると、それは回転を始める。
円盤の縁には、びっしりと刻まれたスキル名――数百種類はある。
やがて――
カチリ
指針が止まり、光が弾ける。
赤い光球がアルドの右眼窩へと吸い込まれ、魂火へと融合した。
――枯骨再生スキル。
散らばった骨を呼び寄せ、アンデッドの肉体を再構築する補助スキル。
「……なんでだよ!」
アルドの期待は一瞬で崩れ去った。
よりにもよって最も地味な補助スキル。
(せめて骨の槍とか……防御スキルでもよかっただろ!)
心の中で円盤を呪うが、死神ハイドリヒに対してだけは決して悪態をつかない。
記憶によれば、かつてレベル36の君王が軽口を叩いた瞬間、存在ごと消滅し、大地すら平らにされたという。
――死神は、絶対に逆らってはならない存在だ。
落胆したまま神殿を出ようとしたその時――
ふと、第二の円盤がゆっくりと光り始めた。
(まさか……一気に2レベル上がってたのか!?)
一瞬で不満は吹き飛び、アルドは二つ目の円盤へ駆け寄る。
「頼む……今度こそまともなスキルをくれ!いいのを引けたら供物だって捧げるから!」
生前と同じく、軽い気持ちで神頼みをする。
どうせ当たらない――そうどこかで思いながら。
やがて指針が止まり、再び光が魂火へと流れ込んだ。
――アンデッド操作スキル。
自分より1レベル以下のアンデッドと主従契約を結び、使役する。
アルドは息を呑む。
(これ……ヤバいスキルじゃないか?)
単なる支配ではない。
細かな動きまで制御できる――まるで分身のような能力だ。
現在の精神力では最大5体までしか操れないが、
先ほど得た「枯骨再生スキル」と組み合わせれば、倒されても即座に復活させられる。
(これは……戦い方が変わるな)
制約は多いが、それでも生存率は格段に上がる。
アルドは満足げに神殿を後にした。
だが――
外へ出た瞬間、彼の動きが止まる。
魂火が激しく揺らぎ、全身の骨が軋んだ。
「約束を、忘れるな」
凍てつくような意識が、直接魂へ叩きつけられる。
「レベル10に達した時……我を満足させる供物を見せろ。できなければ――」
その先は語られなかったが、意味は明白だった。
陰陽の力がなければ、今ので魂は砕けていただろう。
やがて、冷気のない声が再び響く。
「……面白いスケルトンだ。行け、小さきものよ」
解放されたアルドは、よろめきながら神殿を飛び出した。
ようやく見えなくなる場所まで逃げ延び、枯れ木にもたれかかる。
そして――
心の底から後悔した。
(……軽々しく神に願うんじゃなかった……!)
ゆっくりと目を覚ましたアルドは、強化された自分の骨格に満足しつつ、紅の月光を吸収する速度が速まった理由にも思い当たっていた。
同時に、昨夜の致命的なミスも理解している。あの、魂が虫に食われるような感覚は二度と味わいたくない――そう思った彼は、他のアンデッドを狩る決意をさらに固めた。
(今なら勝率もかなり上がってるはずだ)
継承した記憶から判断するに、自分は少なくともレベル1のスケルトンメイジにはなっている。レベル2に到達しているかは不明だが、いずれにせよ以前とは別物だ。
レベルアップしたスケルトンメイジは、荒原に点在する「神殿」で新たなスキルを習得できる。
レベル10までは無料だが、それ以降は死神ハイドリヒへ供物を捧げなければならない。
最も近い神殿は東南方向に約30キロ。
アルドの移動速度なら、次に猩紅の双月が昇る頃には到達できる計算だ。
この世界の昼には太陽は存在せず、空を覆うのはただ死の天幕のみ――。
しばし考えた末、アルドは掘りかけの落とし穴を放棄し、東南へと歩き出した。
道中、彼は奇妙なことに気づく。
遭遇するアンデッドの数が、あまりにも少ないのだ。特にレベル1~2の個体はほとんど見かけない。
昨日は視界に入るだけで手足の骨を数えられるほどいたはずなのに――。
その原因が自分にあるとは、アルドは夢にも思わなかった。
高レベルのアンデッドを避けながら進むこと約半刻。
予定よりやや遅れて、アルドは神殿へと到着した。
それは「神殿」と呼ぶにはあまりにも簡素な、風化した石造りの教会だった。
入口の両脇には、マントをまとい杖を持つスケルトンの石像が二体立っている。
アルドが石段に足を踏み入れた瞬間、石像の杖先にある龍骨の眼が赤く光った。
彼がスケルトンメイジであると確認すると、その光は静かに消える。
重い石扉が軋みながら開き、内部には誰もいないことを示すように埃が舞い上がった。
中へ入ったアルドの目に飛び込んできたのは、四十の水晶円盤。
これはスケルトンメイジの全四十レベルを象徴するものだ。
レベル0で与えられる初期スキルを除けば、最大で四十のスキルをここで習得できる。
もっとも、アンデッドはレベル24に到達すれば「君王」と呼ばれる存在になるのだが。
記憶通り、最も手前の円盤が青く光っていた。
アルドが指針に触れると、それは回転を始める。
円盤の縁には、びっしりと刻まれたスキル名――数百種類はある。
やがて――
カチリ
指針が止まり、光が弾ける。
赤い光球がアルドの右眼窩へと吸い込まれ、魂火へと融合した。
――枯骨再生スキル。
散らばった骨を呼び寄せ、アンデッドの肉体を再構築する補助スキル。
「……なんでだよ!」
アルドの期待は一瞬で崩れ去った。
よりにもよって最も地味な補助スキル。
(せめて骨の槍とか……防御スキルでもよかっただろ!)
心の中で円盤を呪うが、死神ハイドリヒに対してだけは決して悪態をつかない。
記憶によれば、かつてレベル36の君王が軽口を叩いた瞬間、存在ごと消滅し、大地すら平らにされたという。
――死神は、絶対に逆らってはならない存在だ。
落胆したまま神殿を出ようとしたその時――
ふと、第二の円盤がゆっくりと光り始めた。
(まさか……一気に2レベル上がってたのか!?)
一瞬で不満は吹き飛び、アルドは二つ目の円盤へ駆け寄る。
「頼む……今度こそまともなスキルをくれ!いいのを引けたら供物だって捧げるから!」
生前と同じく、軽い気持ちで神頼みをする。
どうせ当たらない――そうどこかで思いながら。
やがて指針が止まり、再び光が魂火へと流れ込んだ。
――アンデッド操作スキル。
自分より1レベル以下のアンデッドと主従契約を結び、使役する。
アルドは息を呑む。
(これ……ヤバいスキルじゃないか?)
単なる支配ではない。
細かな動きまで制御できる――まるで分身のような能力だ。
現在の精神力では最大5体までしか操れないが、
先ほど得た「枯骨再生スキル」と組み合わせれば、倒されても即座に復活させられる。
(これは……戦い方が変わるな)
制約は多いが、それでも生存率は格段に上がる。
アルドは満足げに神殿を後にした。
だが――
外へ出た瞬間、彼の動きが止まる。
魂火が激しく揺らぎ、全身の骨が軋んだ。
「約束を、忘れるな」
凍てつくような意識が、直接魂へ叩きつけられる。
「レベル10に達した時……我を満足させる供物を見せろ。できなければ――」
その先は語られなかったが、意味は明白だった。
陰陽の力がなければ、今ので魂は砕けていただろう。
やがて、冷気のない声が再び響く。
「……面白いスケルトンだ。行け、小さきものよ」
解放されたアルドは、よろめきながら神殿を飛び出した。
ようやく見えなくなる場所まで逃げ延び、枯れ木にもたれかかる。
そして――
心の底から後悔した。
(……軽々しく神に願うんじゃなかった……!)
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