【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜

文字の大きさ
13 / 51

013 ダニエルの心情(後編)sideダニエル

しおりを挟む
 バーバラは、ダニエルが横になっているベッドの前に椅子を持って来て座った。そして静かに話し出す。

 リリーの置かれた状況を、諦めの感情と共に吐露していく。ある日突然、アレンの父親であるグレン・ピーターソンが、リリーの実家を訪ねてきたことから話は始まった。
 グレンは、リリーの両親に彼女を自分の愛人にしたいと告げた。その話合いは、グレンとフローレス夫妻の三人だけで行われた。内容がどういったものだったのかは、その時は知ることができなかった。
 ただ話合いを終えて出て来た時には、リリーがグレンの元に愛人として行くことが決定されていた。

 もちろん両親は、愛人になるという娘の決断を認める訳にはいかなかった。愛する娘を一人ぼっちで茨の道に進ませるのは酷だ。せめて、幼い頃からずっとリリーの世話をしてきたバーバラが、一緒に行ってくれないかと頼まれた。
 バーバラは、自分の大切なお嬢様が愛人として男の人に囲われことを知って、ショックで倒れそうだった。
 しかし、自分が一緒に行かなければ、リリーがどうなってしまうのかその方が心配だった。それに今は、恋に溺れているだけで落ち着いた頃に話をすれば、グレンと別れることを説得できるのではないかと思った。
 きっと旦那様と奥様もそれを望んでいるはずだと、それができるのは自分しかいないとリリーと共にフローレス家を出た。

 だが、バーバラがリリーと一緒にグレンの隠れ家に移り住んでからも、彼女の意思を変えることはできなかった。グレンと一緒にいる時のリリーの幸せそうな顔にバーバラは悲しさを募らせ、そしてまたグレンへ憤りを積み重ねていった。
 やがてリリーを説得することは叶わずに、子供ができてしまい引き返すことができなくなってしまった。

 バーバラは、そこまで話すと俯いてしまう。ダニエルは、口を挟まずに黙ってバーバラの話を聞いていた。
 自分が可笑しいと思っていた違和感は、間違ってはいなかったことが証明された。決して喜ばしいことでもなく、正直なんて言っていいのかわからない。

「バーバラ、一つ聞きたい。何故、愛する娘をリリーの両親は簡単に手放してしまったのだろうか? いくら爵位が上の者であっても、突っぱねることはできたと思うんだが?」

 ダニエルは、一つだけ疑問に思ったことがあった。そんなに簡単に娘を手放すだろうか? いくら何でも、グレンと言う男の思い通り過ぎる。

「それは……」

 バーバラは、とても悔しそうに唇を噛んだ。言葉にするのも許せないといったようだった。

「旦那さまは、ピーターソン伯爵に騙されたんです。三人で話をした時に、既にリリーお嬢様のお腹には子供がいると嘘を吹き込んで……」

 バーバラの瞳には涙が滲んでいた。ハンカチで目元を抑えながら言葉を続ける。グレンは、子供がいると聞いてショックを受けるリリーの両親に畳みかけるようにさらに脅しをかけたのだ。
 未婚の女性に子供ができたと言う醜聞を広められてもいいのか? そうなったら修道院に入れるしかなくなる。愛人として過ごすのもそう変わらないと囁かれた。
 むしろ、自分の傍で大切に愛しんで生活させた方が彼女の幸せの為なのだと……。

 リリーの両親は、愛人のことも妊娠のことも衝撃が大き過ぎて判断力が鈍っていた。何も確認することなく、グレンの言われるままにリリーを手放してしまう。
 後からそれがわかったところで、グレンに囲われてしまってからではどうすることもできなかったのだ。
 リリーは、フローレス家と連絡を絶っている。両親が、この事実を知るよしもないしリリーも知らない。バーバラは、隠れ家に住んでいる時に使用人同士が話しているのを本当に偶々聞いてしまったのだ。

 リリーに本当に子供ができた時に、「これで旦那様の嘘が本当になりましたね」と笑いながら話していた。
 バーバラは意味がわからなくて、その使用人に問いただすとその事実を聞かされたのだ。

「……とんでもない男に、引っ掛かってしまったもんだね……」

 ダニエルは、バーバラの独白を聞いて何とも言えない気持ちになる。可哀想な女の子だと片づけるには失礼な気がした。
 だから、リリーの顔を思い浮かべた。ここで生活して二週間、様々な彼女の表情を見た。そのどれもが、純粋で愛らしくて一生懸命だった。
 彼女の話を聞き終えて、胸の中で思うことは一つだけ。

「リリーはただ愛した。他のものは、何もいらないと思う程に。羨ましいね……」

 ダニエルは、そう言葉にしてしまってから自分に驚く。羨ましいと言った自分に。

「ダニエルさん! 羨ましいだなんて! とんでもないことです!」

 バーバラが、ダニエルを鋭い瞳で睨みつける。

「あっ、いやっ違うよ。そのグレンが羨ましいとかではなく、それだけ人を愛せるってことが羨ましいってことだよ」

 ダニエルは、両手を振ってバーバラに弁解する。そして、ダニエルはある一つのことを思いつく。
  バーバラに、何かあったら隣国のマーティン伯爵を頼るように言う。自分は、そこで働いている者だから何か手助けできることがあるかもしれないと。
 もしもの時の為に、隣国に渡ることができる通行手形もバーバラに託す。荷物は馬と一緒に無くなってしまったが、通行手形と少しのお金だけはズボンのポケットに入れていたのだ。
 リリーが、ここを離れる決心がついた時、きっとこの国にいるよりは他国に行った方が暮らしやすいはずだからと説明した。

「そんなことが起こるでしょうか……」

 バーバラは、この生活から抜け出すなんてもう無理なことだと諦めていた。でも、もしもの時が来るかもしれないと一縷の望みを胸に、ありがたく通行手形を受け取った。

「バーバラ、リリーが何の憂いもなく笑える日が来ることを祈っておくよ」

 ダニエルは、もうそれ以外のことは言えなかった。今のリリーの幸せは、ここにある。それはリリーとアレンを見ていればわかる。
 でも、それがずっと続くもののようには思えない。ダニエルの胸には、何とも言えないスッキリしない気持ちが渦を巻いていた。
しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

牢で死ぬはずだった公爵令嬢

鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。 表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。 小説家になろうさんにも投稿しています。

愛する女性を側室に望むのなら、いっそ私との婚約は解消してほしいのですが?

四折 柊
恋愛
公爵令嬢ジョゼフィーヌには好きな人がいた。その人は隣国の王子様リック。ジョゼフィーヌはリックと結婚したくて努力をしてきた。そして十六歳になり立派な淑女になれたと自信を得たジョゼフィーヌは、リックにプロポーズをしようとした。ところが彼に婚約者がいたことが発覚し悲しみに暮れる。今まで確認しなかった自分も悪いが、なぜかリックも家族もそのことを教えてくれなかった。そんなときジョゼフィーヌに婚約の打診が来た。その相手は自国のアルバン王太子殿下。断りたいが王命が下り仕方なく受け入れた。それなのに、ある日夜会でアルバンが可憐な令嬢に一目惚れをした。その後、アルバンはその令嬢を側室にしたいと望んだので、お互いのために婚約を解消したいと申し出たが拒絶されて……。ジョゼフィーヌの未来はどうなるのか?!

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

どうして私にこだわるんですか!?

風見ゆうみ
恋愛
「手柄をたてて君に似合う男になって帰ってくる」そう言って旅立って行った婚約者は三年後、伯爵の爵位をいただくのですが、それと同時に旅先で出会った令嬢との結婚が決まったそうです。 それを知った伯爵令嬢である私、リノア・ブルーミングは悲しい気持ちなんて全くわいてきませんでした。だって、そんな事になるだろうなってわかってましたから! 婚約破棄されて捨てられたという噂が広まり、もう結婚は無理かな、と諦めていたら、なんと辺境伯から結婚の申し出が! その方は冷酷、無口で有名な方。おっとりした私なんて、すぐに捨てられてしまう、そう思ったので、うまーくお断りして田舎でゆっくり過ごそうと思ったら、なぜか結婚のお断りを断られてしまう。 え!? そんな事ってあるんですか? しかもなぜか、元婚約者とその彼女が田舎に引っ越した私を追いかけてきて!? おっとりマイペースなヒロインとヒロインに恋をしている辺境伯とのラブコメです。ざまぁは後半です。 ※独自の世界観ですので、設定はゆるめ、ご都合主義です。

婚約者に裏切られた私が幸せになってもいいのですか?

鈴元 香奈
恋愛
婚約者の王太子に裏切られ、彼の恋人の策略によって見ず知らずの男に誘拐されたリカルダは、修道院で一生を終えようと思っていた。 だが、父親である公爵はそれを許さず新しい結婚相手を見つけてくる。その男は子爵の次男で容姿も平凡だが、公爵が認めるくらいに有能であった。しかし、四年前婚約者に裏切られた彼は女性嫌いだと公言している。 仕事はできるが女性に全く慣れておらず、自分より更に傷ついているであろう若く美しい妻をどう扱えばいいのか戸惑うばかりの文官と、幸せを諦めているが貴族の義務として夫の子を産みたい若奥様の物語。 小説家になろうさんにも投稿しています。

再会の約束の場所に彼は現れなかった

四折 柊
恋愛
 ロジェはジゼルに言った。「ジゼル。三年後にここに来てほしい。僕は君に正式に婚約を申し込みたい」と。平民のロジェは男爵令嬢であるジゼルにプロポーズするために博士号を得たいと考えていた。彼は能力を見込まれ、隣国の研究室に招待されたのだ。  そして三年後、ジゼルは約束の場所でロジェを待った。ところが彼は現れない。代わりにそこに来たのは見知らぬ美しい女性だった。彼女はジゼルに残酷な言葉を放つ。「彼は私と結婚することになりました」とーーーー。(全5話)

婚約者から「君のことを好きになれなかった」と婚約解消されました。えっ、あなたから告白してきたのに? 

四折 柊
恋愛
 結婚式を三か月後に控えたある日、婚約者である侯爵子息スコットに「セシル……君のことを好きになれなかった」と言われた。私は驚きそして耳を疑った。(だってあなたが私に告白をして婚約を申し込んだのですよ?)  スコットに理由を問えば告白は人違いだったらしい。ショックを受けながらも新しい婚約者を探そうと気持ちを切り替えたセシルに、美貌の公爵子息から縁談の申し込みが来た。引く手数多な人がなぜ私にと思いながら会ってみると、どうやら彼はシスコンのようだ。でも嫌な感じはしない。セシルは彼と婚約することにした――。全40話。

数多の令嬢を弄んだ公爵令息が夫となりましたが、溺愛することにいたしました

鈴元 香奈
恋愛
伯爵家の一人娘エルナは第三王子の婚約者だったが、王子の病気療養を理由に婚約解消となった。そして、次の婚約者に選ばれたのは公爵家長男のリクハルド。何人もの女性を誑かせ弄び、ぼろ布のように捨てた女性の一人に背中を刺され殺されそうになった。そんな醜聞にまみれた男だった。 エルナが最も軽蔑する男。それでも、夫となったリクハルドを妻として支えていく決意をしたエルナだったが。 小説家になろうさんにも投稿しています。

処理中です...