ハーフ!〜wonderland with glasses

リヒト

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(3/47)ひょっとして何か困ってますか?

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 閉じたまぶたの向こう側に強い光を感じた。
 俺はゆっくりと開けてみる。
 強烈な青さが目に染みた。
 ……ん?青空?
 視界がぼやけてよくわからない。
 メガネ、メガネ。
 慌てて両方の手を動かす。
 と、右手がメガネを見つけた。
 極度の近眼の俺はこれがないと生きていけない。
 
 ポピン♪
 音とともに何か文字のようなものが視界を横切った。

 ん?
 急いでメガネをかける。
 もちろん文字などは見えず、視界には青空と……、何人かが俺をのぞき込んでいた。
「おお、気がついたみたいだぞ」
「大丈夫か、若いの」
 横たわる俺に取り囲んだ人たちが声を掛けてくれていた。
 その中の一人から手を差し出される。
「ほれ、つかまれ」
 俺はその大きな手に素直につかまり身体を起こす。
「土だらけじゃないか」
 別の誰かも親切に服をはたいてくれた。
 立ち上がって見渡すと、そこそこな人数が集まっていた。
 近くには男性、遠巻きには女性の姿も見える。
 みんな中世なのかファンタジーなのかに出てくるような洋服を身にまとっていた。
「で、何でこんなところで寝てたんだ?」
 俺に手を貸してくれたおじさんに質問される。
 ……うん。
 困った。
 何で?か……、何で寝ていたんだろう?
「何でですかね?」
 素直に答えてみた。
「はっはっはっ。その変な顔といい面白れぇな。そんな返しができるなら大丈夫か。まあ、ほどほどにな」
 と、今度は強く身体をはたかれてしまった。
 それを合図に周りにいた人たちが散らばっていった。
 俺は一人残される。
 『その変な顔』ってどんな顔してたんだ、俺。
 ……っていうか、ここどこ?
 脇の芝の上に座り込み、改めてじっくりと辺りを見てみる。
 青々とした木々がぽつんぽつんと電柱の代わりのように立っている。
 そして決してごみごみとはしていない、適度に間隔をあけた木造りの建物。
 石ころがある土の道の上を、人々が談笑しながらゆっくりとした歩みで行き交っている。
 しかし……記憶をたどるが結びつくものが全くない。
 俺はしゃがみこんだままの姿勢で頬杖をついた。
 ため息もついた。
 ん?
 つい落としてしまった視線の先に影が近づいてきた。
「気持ち良い天気ですねー」
 声をかけられて見上げると女の子。
 ふわっとした薄い紅色のスカートに若草色したシャツ。その上にはエプロンをまとっている。
 包容力のありそうなスタイルの良いふくよかな体つきと、大きな二重のたれ目と少し厚めな唇。
 長い金髪は一本に結って左肩から前に胸のあたりまで垂らしている。
「そ、そうですね」
 俺は少しどぎまぎして答える。
 だって若奥さん的なフェロモン味が少々強すぎると思うんだけど。
 左腕にはぱんぱんに膨らんだ大きな竹で編んだようなかご。
 買い物帰りだろうか。
 と、軽い砂煙。
 彼女がかごを地面に置いた際に宙へ舞ったようだ。
 そしてスカートを上手に膝裏に回しこんでしゃがむと俺に顔を近づけてきた。
 な、なに?
 近い近い。
 じーっと俺の鼻の上、目と目の間を見つめている。
「顔に付けているもの、なんですか?」
 息がかかりそうなのでなんとなく呼吸を止めてしまっていた俺に不思議そうな表情をして訊いた。
「え?何か付いてる?」
 俺は顔を後ろに引いて答える。
「けっこう目立つの付けてますよね?」
 と、また距離を縮めてきて白い指先でちょんとそれに触れた。
 ん?
「これ?メガネのこと?」
 今度は身体ごと後ずさりをして間隔を空ける。
「その黒縁のものは、メガネというのですか?」
 さらに不思議そうに小首をかしげると、
「そんなアクセサリー初めてみました」
 と続けた。
「いや、伊達メガネじゃないよ?」
「はい?ダテメガネ?ですか?」
「ちゃんとと言うのも変だけど、俺、目が悪くてさ」
「目が悪いのですか。神殿で治療はしないのですか?」
「え?」
「はい?」
 ん?
 なんか、かみ合わないぞ?
 っていうか、何?
 そうえばさっきも『変な顔』とか言われたような。
 メガネのせい?
 どういうこと?
 俺の知っていることと根本的に何かズレてるような。
 あれ…?あれっ?
「あの、ひょっとして何か困ってますか?」
 彼女はまた間合を詰めてきつつ、少し愁いを帯びた表情をした。
 俺の状態を察してのことだろう。
 そして、
「わたしで良かったら力になりましょうか?」
 と言ってくれた。
 ……うわー、すげー良い娘じゃん?
 俺は即座にぶんぶんと首を縦にふる。
 本当、ありがたい。
 その勢いにか彼女はクスッと笑顔になった。
「改めまして。あなたの名前は?わたしはシャーロット。よろしく」
 と、握手しようと右手を差し出してくれた。
「ありがとう、シャーロット!どうぞよろしく!」
 俺は出された手をそっと握った。
 シャーロットからも握り返された。
「いてててっ」
「あ、ごめんなさい、ちょっと力が入りすぎてしまって」
 急な勢いでシャーロットが手を離した。
 恥ずかしそうに笑うシャーロットにつられ俺も思わず笑みがこぼれた。
 二人とも立ち上がる。
 俺はシャーロットを見て会話を元に戻す。
「で、俺は……、俺は……」
 シャーロットもじっと俺を見ている。
「俺は……、俺は……?」
 俺は目をそらし泳がせてしまう。
 そして……、思ってもない言葉が口から出てきた。
「俺は……、誰なんだっけ?」
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