黒聖女の成り上がり~髪が黒いだけで国から追放されたので、隣の国で聖女やります~【完結】

小平ニコ

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第56話

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 そんな私とは違い、ジェロームは相変わらず丁寧な話し方だが、どこかからかうようなニュアンスで言う。

「そこまでは申し上げておりません。少々浅はかだとは思っていますが」

「ハッキリ言うわね、嫌な人」

 ……と口で言いつつ、意外にも不愉快ではない自分に少し驚く。

 何故だろうと少し考えて、その理由が分かった。ジェロームの言葉には、こちらを侮辱する悪意が含まれていないのだ。私の勘違いでなければ、いたずらな軽口の中に、こちらに対する好意すら感じる。

 黙ってしまった私に、ジェロームは少しだけ真剣な声色で話を続ける。

「マリヤ様、この間、王宮で謁見の間に入ったとき、どう思いました?」

 質問の意図がよく分からないので、私は思ったことを素直に答えた。

「そうね……オルソン聖王国の『王の間』と比べるとこじんまりとしてたけど、やっぱり立派で、まあ、まさに『謁見の間』って感じだったわね。私、あんなところに招かれるのは初めてだったから、プレッシャーみたいなのを感じたわ」

「当然です。謁見の間というものは、王族の権威を示し、拝謁する者に対して、少なからず威圧感を与えるように作ってあるのですから」

「へえ……」

「たとえ王侯貴族でも、他国の王族と謁見する際には、それなりのプレッシャーを覚悟するもの。平民であれば、初めて謁見の間に入った場合、どんなに気の強い者でも、その雰囲気にのまれ、ひれ伏してしまうのが普通です。しかしあなたは、私に膝をつくように言われてなお、抗った」

「あはは……あれは……その……ちょっとムキになっちゃって……」

「いえ、あれは、単にムキになったのとは違うと思いますよ。あなたの目には、確固たる強い意志と、誇りがあった」

「…………」

「私も最初は、『この娘は自分のやっていることの意味が分かっていないのではないか』と思いましたが、あなたの目を見て、そうではないことが分かりました。……あなたは気高い。決して、他人にへりくだったりしない。あの時、たとえ近衛兵に囲まれて平伏することを強要されたとしても、言いなりにはならなかったでしょう」

 びっくりした。

 私のことをあまり良く思ってはいないだろうと思っていたジェロームが、ここまで私のことを褒めてくれるとは。……いや、褒められてるのとはちょっと違うのかな? 頑固な私に対して、呆れてるだけかもしれない。
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