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第16話

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 異世界転移してから、早くも一週間が経った。

 俺はルイーズからこの世界の常識や文字を学びながら、『奪われた故郷の秘宝を取り戻すため』という彼女の旅に同行している(させられている)。

 最初は『やばい女だ』と思ったルイーズだったが、『誓いの契り』を交わした時に『私は、あんたのことを何があっても見捨てない』と言った通り、非常に面倒見がよく、甲斐甲斐しく俺の世話を焼いてくれるので、そのことに関しては素直に感謝しかない。

 この一週間、町に立ち寄ることもなく、常に野宿なのだが、料理も寝床もルイーズが用意してくれるので、本当に助かっている。だがそれでも、たまにはまともなベッドで眠りたい。俺はその気持ちを、素直にルイーズに話した。

「あの、ルイーズ。この一週間、ひたすらに森、山、街道を進み続けてるけど、たまには町とかに寄ったりしないわけ?」

 俺の問いに、ルイーズは不思議そうな顔で答えた。

「? 町に寄る必要ある? 私が狩りをするから、食料は自給自足できるし、魔法で結界を張って安全な寝床を作ってるから、野宿でも敵に襲われる心配はないでしょ?」

「それについては感謝してるけど、ほら、野宿だと結構虫に刺されるし……」

 これは言いがかりではなく、本当のことだった。

 ルイーズの作る魔法の結界は、モンスターや野盗のような『明確な脅威』に関しては絶大な効果を発揮するが、蚊程度の小さな虫は素通りさせてしまうので、草地で一晩寝て起きると、だいたい3~4箇所は虫に刺されている。

 俺はシャツの袖をまくり、二の腕を見せた。ぽつ、ぽつと、まるで吸血鬼の噛み痕のような虫刺されがある。耐えられないほどかゆくはないのが救いだが、それでも、あんまり気持ちの良いものではない。

「あら、ほんとね。そっか……シャンパ人は野宿すると虫に刺されるのね。私たちエルフはそんなことないから、盲点だったわ」

「へえ、エルフって虫に刺されないんだ。いいなあ」

「蚊とか、その程度ならね。攻撃的な毒虫はまた別よ。でも、困ったわね。この先はしばらく湿地帯が続くわ。ああいうところは虫が多いから、野宿すると、あんたは虫刺されだらけになっちゃうわね。……しょうがない。目的地を目指す前に、一度町に寄って、手頃なテントと虫よけの材料を手に入れましょうか」

 ありがたいお言葉だった。

 それにしても、『目的地』っていったいどこなんだろう?
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