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第24話

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 俺は、一度荷物を下ろして探索の準備を整えているルイーズに、ほとんど今思った通りのことを言った。

「この洞窟、自然のほら穴じゃないな。ふちのとこに蝶番の跡があるし、よく見たら、俺たちが今立ってるこの段差、大きな扉が倒れて、その上に苔が生えたって感じだ」

「そうよ。この世界にはね、こういう人工の『ダンジョン』があちこちにあるの。もっとも、いったいどこの誰が、いつ、何の目的で作ったのかはよく分かってないけどね」

「ふうん。ルイーズは、なんでこのダンジョンにこだわるわけ? もしかして、例の盗まれた里の秘宝――エルフィン・カルドライトがここにあるのか?」

「そうだといいんだけどね。そればっかりは、ダンジョンの奥まで行ってみないとわからないわ。あくまで、エルフィン・カルドライトがある可能性があるってだけよ」

「なんだか、あやふやな話だなあ」

「そうよ。でも、その『あやふやな話』をひとつずつ確かめていくしか、エルフィン・カルドライトを見つけ出す方法がないのよ。さあ、準備もできたし、そろそろ中に入るわよ。地下三階までの道のりは覚えてるから、私の後をついて来て」

 俺は頷き、ルイーズに続いてダンジョンの中に入った。

 日の光が届くのは入り口部分だけで、少し歩くとたちまち真っ暗になる。

 その暗闇を、ルイーズが光の魔法で照らした。
 それで、視界全体が一気に明るくなった。

 松明やランプの明かりとは、根本的に次元が違う。まるで、ダンジョンの照明スイッチをオンにしたような明るさだ。通路の奥まで、クリアに見通すことができる。返す返すも、魔法とは便利なものだ。

 しかし、視界が良くなったことで、あまり見たくない種類のものも、見なくてはいけなくなった。……大量の、白骨死体だ。ダンジョンの通路のあちこちに、多種多様な骸骨が転がっている。あるものはうつ伏せに。またあるものは仰向けに。またまたあるものは壁に寄り掛かるように。

 いや、本当に凄い数だ。ざっと数えただけで、10体以上。よく観察すると、彼らの多くが軽鎧や胸当てをつけており、武装もしている。それも、『自衛のための武器』というには禍々しい、長刀身のダガーナイフだ。俺はなんとなくだが、彼らがただの探検家には見えなくて、前を行くルイーズに問いかけた。

「ルイーズ、この人たちはいったい……?」

 ルイーズはちらりと骸骨を一瞥すると、視線を正面に戻し、歩きながら答える。

「このダンジョンを根城にしていた盗賊たちでしょうね。身なりでわかるわ」
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