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第29話

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「アンデッドは、ここ最近になっていきなり現れた新種のモンスターだからね。冒険者たちの中でも、知識があるのはほんの一握りの人間だけよ。私も噂くらいは聞いてたけど、このダンジョンで実際に遭遇するまでは、死体が動き回るなんて、ただの悪趣味な冗談だと思ってたわ」

 ルイーズの言葉が一段落するのと同時に、俺たちは地下三階に降り立った。

 地下三階は、これまでの階層とは趣が大きく違っていた。

 俺たちが今いるのは、何の仕切りもない横長の廊下で、その中央に当たる部分に、両開きの立派な扉がある。なんとなく、コンサートホールのロビーを思わせる作りだ。

 ルイーズはその扉を指さし、硬い声で言う。

「あのドアの向こうが、アンデッドの巣よ。さあ、準備はいい?」

「いつでも」

 そして俺たちは、二人で扉を開いた。

 先程そう感じた通り、扉の中は、まるでコンサートホールのように広大な空間だった。それなのに、天井を支える柱のようなものは一本も存在せず、相当に高度な建築技術で作られた場所であることが、大した知識のない俺でもよく分かった。

 その広大な空間の中。
 まさしく、コンサートを聞きに来た大勢の観客がごとく、人影が揺らめいている。

 誰も、何もしゃべらない。
 周囲の者と、諍いを起こすこともない。
 全員がジェントルマンだ。

 クラシックコンサートのお客としては、理想的だろう。
 ……彼らが、死体でさえなければ。

 全身に、生理的な嫌悪感と強烈な寒気が走った。この前出会ったスケルトンとは違い、まだ腐肉が体に付着したゾンビも多く、自然と吐き気がこみ上げてくる。

 ものすごい数のアンデッドだ。
 40体……? 50体……?

 いや、とてもそんな数じゃ足りない。大きいアンデッドの陰に小柄なアンデッドもいるので、軽く見積もっても50体の倍……つまり、100体はいるだろう。その100体ものアンデッドたちが、今にも崩れそうなボロボロの首を回し、一斉に俺たちを見た。

 その悪夢のような光景は、どこか現実感がなく、俺は妙に間の抜けた声で言う。

「……ちょっと多すぎじゃない?」

「だから、ちゃんとここに来る前に『大軍だ』って説明したでしょ。10体やそこらなら、たとえ倒せなくても、魔法で足止めして先に進むこともできるわ。でも、さすがにこの数が相手じゃ無理よ。……見てなさい。さっき言った、『私の魔法じゃ絶対に奴らを倒せない』って言葉の意味を教えてあげる」

 ルイーズは、こちらに向かってゆっくりと歩みを進めてくるアンデッドの一群に対し、爆炎の魔法を使った。バンッという炸裂音と共に、4体のアンデッドが四散する。『見てなさい』と言われたものの、あまりにもグロテスクな光景に、俺は思わず目を背けた。
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