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第67話
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アキラは眉をひそめながらも、おかしそうに笑った。
「あははっ! この女、ハッキリ言いやがる!」
凄い子だな。アキラに対し、まったく物怖じしていない。アキラも、そんなリョウのことを、それほど不愉快には思っていないようだ。リョウは誰とも目を合わさず、ぶつぶつと言葉を続ける。
「カザミ君は優しいから嫌いじゃない……。でも、王様の信頼を裏切って、お姫様を連れ出すのは良くないと思う……。だから私、どっちにも手助けしない……勝手にやりあって……」
なんか、つかみどころのない子だな。
カザミも苦笑して、小さく息を吐きながら言う。
「そっか。まあ、アキラ君の味方に付かないだけでも、良しとしておくかな」
どうする。
このままじゃ間違いなく、戦闘が始まってしまう。
しかも、炎の勇者と風の勇者の直接対決だ。
以前見た、炎の勇者――アキラの火炎を操るスキルは凄まじかった。きっと、カザミのスキルもそれに匹敵するほど強力に違いない。そんな二人が戦えば、どちらが勝っても大騒動になり、シエラを連れ出すのは難しくなってしまう。どうするどうする。
いやしかし、どうするも何も、そもそもこの状況で俺にできることなんて……。必死になって『姫を避難させないと世界が滅亡する』と説明しても、アキラが俺の言葉に耳を貸すとは思えないし、リョウって子も何を考えてるかよくわかんないから、味方になってはくれそうもない。
こうなったら、カザミが戦いに勝利し、かつ、大騒動にならないという奇跡のような展開を期待するしかない。俺は、不安そうなシエラの肩をぎゅっと抱き寄せる。いざとなったら、一か八か、彼女を抱えてカザミの私室に走ろう。あそこから顔を見せれば、ルイーズが風の魔法で迎えに来てくれるだろうからな。
そして、今まさにアキラとカザミの戦いが始まろうとした瞬間。
フロア全体を突き上げるような縦揺れが襲った。
地震だ。
それも、普通の地震じゃない。
まるで、足の裏からエネルギーの波動が伝わって来るかのような、大地震だ。天変地異というものは、どんな生き物にも、理屈抜きで本能的な恐怖を呼び覚ます。この場にいた全員が、いったん争いを忘れ、体のバランスを取ることに終始していた。
そして、やっと地震が収まると、階下から妙な声が聞こえてくる。
「ウォウウォウ、ウォウウォウウォウ、ウォウォウォォォォウ」
どこか、ユーモラスな呻き声。
おどけた酔っ払いが、ふざけて出しているような声。
……俺は、この呻きを知っている。
全身から、血の気が引いて行くのが分かった。
「あははっ! この女、ハッキリ言いやがる!」
凄い子だな。アキラに対し、まったく物怖じしていない。アキラも、そんなリョウのことを、それほど不愉快には思っていないようだ。リョウは誰とも目を合わさず、ぶつぶつと言葉を続ける。
「カザミ君は優しいから嫌いじゃない……。でも、王様の信頼を裏切って、お姫様を連れ出すのは良くないと思う……。だから私、どっちにも手助けしない……勝手にやりあって……」
なんか、つかみどころのない子だな。
カザミも苦笑して、小さく息を吐きながら言う。
「そっか。まあ、アキラ君の味方に付かないだけでも、良しとしておくかな」
どうする。
このままじゃ間違いなく、戦闘が始まってしまう。
しかも、炎の勇者と風の勇者の直接対決だ。
以前見た、炎の勇者――アキラの火炎を操るスキルは凄まじかった。きっと、カザミのスキルもそれに匹敵するほど強力に違いない。そんな二人が戦えば、どちらが勝っても大騒動になり、シエラを連れ出すのは難しくなってしまう。どうするどうする。
いやしかし、どうするも何も、そもそもこの状況で俺にできることなんて……。必死になって『姫を避難させないと世界が滅亡する』と説明しても、アキラが俺の言葉に耳を貸すとは思えないし、リョウって子も何を考えてるかよくわかんないから、味方になってはくれそうもない。
こうなったら、カザミが戦いに勝利し、かつ、大騒動にならないという奇跡のような展開を期待するしかない。俺は、不安そうなシエラの肩をぎゅっと抱き寄せる。いざとなったら、一か八か、彼女を抱えてカザミの私室に走ろう。あそこから顔を見せれば、ルイーズが風の魔法で迎えに来てくれるだろうからな。
そして、今まさにアキラとカザミの戦いが始まろうとした瞬間。
フロア全体を突き上げるような縦揺れが襲った。
地震だ。
それも、普通の地震じゃない。
まるで、足の裏からエネルギーの波動が伝わって来るかのような、大地震だ。天変地異というものは、どんな生き物にも、理屈抜きで本能的な恐怖を呼び覚ます。この場にいた全員が、いったん争いを忘れ、体のバランスを取ることに終始していた。
そして、やっと地震が収まると、階下から妙な声が聞こえてくる。
「ウォウウォウ、ウォウウォウウォウ、ウォウォウォォォォウ」
どこか、ユーモラスな呻き声。
おどけた酔っ払いが、ふざけて出しているような声。
……俺は、この呻きを知っている。
全身から、血の気が引いて行くのが分かった。
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