20 / 105
第19話
「いいんですか? 魔導具だなんて、こんなすごいものを貰って……」
「だから、安物だってば。危ない場所に行くあなたの身の安全を考えるのは、上級メイドとして当然の事よ。本当は、お使いを頼んだエリナがこういうことも考えなきゃいけないんだけど、まあ、あの性格だからね。でも、あの子のこと、嫌いにならないであげてね」
ミシェルさんの気遣いが、グッと身に染みる。本当のお母様が亡くなってから、実家でずっとぞんざいな扱いを受けてきたので、こんなふうに身を案じてもらうと、思わず瞳が潤みそうになる。だが、この場で泣き出してしまうのはさすがに恥ずかしいので、私は頭を下げ、今度こそ本当に、大急ぎでお使いに出発した。
・
・
・
エリナさんから貰ったメモを開き、目的地を確認する。……メモに書かれていたのは簡単な地図で、目的地の具体名は記されていなかった。自分が向かうべき場所がどこなのか分からないのは少々不安だが、とりあえず地図に従って歩き出す。
地図そのものは、たったいま述べた通りとても簡単――というか、無駄な記載が全くない簡略化されたもので、見ようによっては子供が書いた宝探しの地図のようですらある。しかし、三十分ほど歩いたところで、この簡略化された地図が、非常に優れたものであることに私は気がついた。
この地図は無駄な記載をなくし、要点だけをしぼっておくことで、見る者が余計な情報に惑わされることなく、迷わず最短のルートで目的地に着けるようになっているのだ。この辺りの地理を完全に把握し、なおかつ地図を見る者の心理も考えていなければ、とてもこんな地図は書けないだろう。
さすがエリナさんだ。ミシェルさんと違い、他のメイドたちから慕われてはいないが、その能力の高さは誰もが認めるところである。でも、二人の能力がほぼ互角だとしたら、次の執事長に選ばれるのは恐らくミシェルさんだ。他の使用人たちからの人望があまりにも違いすぎる。まあ、最終的に決定するのは大公様だけど。
そんなことを考えながら歩き続け、出発から約一時間半で目的地に到着した。場所はやはり、ミシェルさんが予想した通り、大公様のお屋敷の西方にあるバナの森だった。フレッド様はここで、私兵を率いて魔物退治をしているとのことだが……。
「あっ」
思わず、小さな声が出た。森の入り口にあたる部分に簡単な野営地があり、そこでちょうど甲冑を脱ぎ、軽装で休憩しているフレッド様を発見したからだ。
良かった。最悪の場合、魔物がいるという森の中に入ってフレッド様を探さなければいけないと思っていたので、そういう事態にならずにお使いが済みそうで一安心である。ミシェルさんに貰った護身用の魔導具の出番もなさそうだ。
「だから、安物だってば。危ない場所に行くあなたの身の安全を考えるのは、上級メイドとして当然の事よ。本当は、お使いを頼んだエリナがこういうことも考えなきゃいけないんだけど、まあ、あの性格だからね。でも、あの子のこと、嫌いにならないであげてね」
ミシェルさんの気遣いが、グッと身に染みる。本当のお母様が亡くなってから、実家でずっとぞんざいな扱いを受けてきたので、こんなふうに身を案じてもらうと、思わず瞳が潤みそうになる。だが、この場で泣き出してしまうのはさすがに恥ずかしいので、私は頭を下げ、今度こそ本当に、大急ぎでお使いに出発した。
・
・
・
エリナさんから貰ったメモを開き、目的地を確認する。……メモに書かれていたのは簡単な地図で、目的地の具体名は記されていなかった。自分が向かうべき場所がどこなのか分からないのは少々不安だが、とりあえず地図に従って歩き出す。
地図そのものは、たったいま述べた通りとても簡単――というか、無駄な記載が全くない簡略化されたもので、見ようによっては子供が書いた宝探しの地図のようですらある。しかし、三十分ほど歩いたところで、この簡略化された地図が、非常に優れたものであることに私は気がついた。
この地図は無駄な記載をなくし、要点だけをしぼっておくことで、見る者が余計な情報に惑わされることなく、迷わず最短のルートで目的地に着けるようになっているのだ。この辺りの地理を完全に把握し、なおかつ地図を見る者の心理も考えていなければ、とてもこんな地図は書けないだろう。
さすがエリナさんだ。ミシェルさんと違い、他のメイドたちから慕われてはいないが、その能力の高さは誰もが認めるところである。でも、二人の能力がほぼ互角だとしたら、次の執事長に選ばれるのは恐らくミシェルさんだ。他の使用人たちからの人望があまりにも違いすぎる。まあ、最終的に決定するのは大公様だけど。
そんなことを考えながら歩き続け、出発から約一時間半で目的地に到着した。場所はやはり、ミシェルさんが予想した通り、大公様のお屋敷の西方にあるバナの森だった。フレッド様はここで、私兵を率いて魔物退治をしているとのことだが……。
「あっ」
思わず、小さな声が出た。森の入り口にあたる部分に簡単な野営地があり、そこでちょうど甲冑を脱ぎ、軽装で休憩しているフレッド様を発見したからだ。
良かった。最悪の場合、魔物がいるという森の中に入ってフレッド様を探さなければいけないと思っていたので、そういう事態にならずにお使いが済みそうで一安心である。ミシェルさんに貰った護身用の魔導具の出番もなさそうだ。
あなたにおすすめの小説
「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった
歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。
だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」
追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。
一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。
誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。
「その言葉は、もう翻訳できません」
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
婚約者は妹のような幼馴染みを何より大切にしているので、お飾り妻予定な令嬢は幸せになることを諦めた……はずでした。
待鳥園子
恋愛
伯爵令嬢アイリーンの婚約者であるセシルの隣には『妹のような幼馴染み』愛らしい容姿のデイジーが居て、身分差で結婚出来ない二人が結ばれるためのお飾り妻にされてしまうことが耐えられなかった。
そして、二人がふざけて婚姻届を書いている光景を見て、アイリーンは自分の我慢が限界に達そうとしているのを感じていた……のだけど!?
【完結】私を裏切った不倫夫に「どなたですか?」と微笑むまで 〜没落令嬢の復讐劇〜
恋せよ恋
恋愛
「早くあんな女と別れて、可愛い子と一緒になりたいよ」
不倫中の夫が笑う声を聞き、絶望の中で事故に遭うジェシカ。
結婚五年目に授かったお腹の子を失った彼女は、
「記憶を失ったフリ」で夫と地獄の婚家を捨てることを決意。
元男爵令嬢の薄幸ヒロインは、修道院で静かに時を過ごす。
独り身領主の三歳の男の子に懐かれ、なぜか領主まで登場!
無実の罪をなすりつけ、私を使い潰した報いを受けなさい。
記憶喪失を装った没落令嬢による、「ざまぁ」が幕を開ける!
※本作品には、馬車事故による流産の描写が含まれます。
苦手な方はご注意ください。主人公が絶対に幸せになる
物語ですので、安心してお読みいただければ幸いです。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
『お前の針仕事など誰でもできる』——なら社交界のドレスの裏地を、めくってごらんなさい
歩人
ファンタジー
「地味な針仕事しかできない令嬢は要らない」——公爵家の嫡男にそう言い渡された伯爵令嬢ティナは、
裁縫道具だけを持って屋敷を出た。その翌週、社交界が凍りつく。王妃の夜会服も、公爵令嬢の舞踏会
ドレスも、第一王女の外交用ローブも——仕立てた職人が消えたのだ。しかもティナが十年かけて縫った
全てのドレスの裏地には、二重縫いで隠された署名が残されていて——。
辺境の小さな仕立て屋で穏やかに暮らすティナの元に、王都から使者がやってくる。
【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎
【完結】病弱な妹に魔力を分け続け死ぬ寸前の私を、宮廷魔術師になった旧友が攫ってくれました。家族を捨てて幸せになっていいんですか?
未知香
恋愛
「あなたはもう十分楽しんだでしょう? 今度はミアーラの番よ」
膨大な魔力と知識を持ち、聖女候補とまで言われた、天才魔術師エリアーナ。
彼女は、病弱な妹ミアーラの為、家族に言われるまま自らの膨大な魔力を差し出すことにした。
「そうだ。私は健康で、今まで十分に楽しんできた。だから、あげるのは当然だ」
魔力を与え続けた結果、彼女は魔力を失い、容姿も衰え、社交界から姿を消してしまう事となった。
一方、妹ミアーラは姉から与えられた魔力を使い、聖女候補として称賛されるように。
家族の呪縛に縛られ、「今まで多くを貰いすぎていたのだ」と信じ、利用され続けるエリアーナ。
そんな彼女の前に現れたのは、かつての旧友であり宮廷魔術師となった青年だった。
ハッピーエンドです!