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第8話
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「ふふ、そうか。『どうでもいい』ってことは、わざわざ苦しめてやる価値もないってことか。それはそれで、『嫌い』よりも、遥かに冷酷な感情なのかもしれないね。知ってるかい? 『好き』の反対は、『無関心』らしいよ」
「いやだわ、アークハルトお兄様。それじゃ私が、もの凄く冷酷な人間みたいじゃない」
そう言って、私は小さく頬を膨らませた。
自分でも子供じみた仕草だと思うが、子供の頃から兄妹同然の付き合いであるアークハルトお兄様の前だと、自然と童心に帰り、口調は砕け、他の人には見せられない態度を取ってしまう。
私にとってアークハルトお兄様は、最も気安く話ができる異性だろう。
アークハルトお兄様は、ちょっぴりムッとした私をなだめるように、朗らかに微笑んで、言う。
「ははは、悪かった悪かった。お前のことを冷酷だなんて、思っちゃいないよ。本当に冷酷な人間なら、ブライアンの奴を助けてやったりしないだろうからね」
「もう、お兄様ったら、いつも私をからかうんだから。……それで、どう? ブライアンの信用は、少しは回復したかしら? アークハルトお兄様なら、社交界の動向に詳しいから、知ってるでしょ?」
「そうだね……まあ、以前よりちょっとだけマシになったってところかな。奴の婚約者であったお前が『許してあげて』って言っている以上、いつまでも叩かれ続けることはないだろうが、失った信用というものは、そう簡単に取り戻せるものではないからね。これから家を盛り返していけるかどうかは、奴自身の頑張り次第だろう」
「そう。現実は厳しいのね」
「自業自得さ。僕の可愛い従妹を袖にした男だ、当然の報いだよ」
「可愛い従妹ねえ……その割に、最近、うちに来てくれなかったじゃない」
「それは、お前、仕方ないだろう。ちょっと前まで付き合ってた子が、凄いヤキモチ焼きでな。僕がお前と一緒にいると、怒るんだよ。その彼女とも、晴れてお別れしたので、こうしてまた、愛しい従妹とお茶ができるようになったと言うわけさ」
「ヤキモチ焼きですって? アークハルトお兄様の彼女って、家庭的で、凄くおおらかな人じゃなかった?」
「それは、前の前の彼女。もうとっくの昔に別れたよ」
「このチャラ男貴族……」
「恋多き男と言ってほしいね。それに、お前だって、ブライアンとの婚約を破棄してから、色々な男と付き合ってたじゃないか」
「うん……『本当の愛』っていうのを求めて、積極的に恋をしてみたけど、なんか、全然ダメだった。結局、誰とも長続きしないのよね。そこそこ好きにはなれるんだけど、愛するってところまでいかないって言うか……はぁ……『本当の愛』を手に入れるのって、難しいわ……」
「いやだわ、アークハルトお兄様。それじゃ私が、もの凄く冷酷な人間みたいじゃない」
そう言って、私は小さく頬を膨らませた。
自分でも子供じみた仕草だと思うが、子供の頃から兄妹同然の付き合いであるアークハルトお兄様の前だと、自然と童心に帰り、口調は砕け、他の人には見せられない態度を取ってしまう。
私にとってアークハルトお兄様は、最も気安く話ができる異性だろう。
アークハルトお兄様は、ちょっぴりムッとした私をなだめるように、朗らかに微笑んで、言う。
「ははは、悪かった悪かった。お前のことを冷酷だなんて、思っちゃいないよ。本当に冷酷な人間なら、ブライアンの奴を助けてやったりしないだろうからね」
「もう、お兄様ったら、いつも私をからかうんだから。……それで、どう? ブライアンの信用は、少しは回復したかしら? アークハルトお兄様なら、社交界の動向に詳しいから、知ってるでしょ?」
「そうだね……まあ、以前よりちょっとだけマシになったってところかな。奴の婚約者であったお前が『許してあげて』って言っている以上、いつまでも叩かれ続けることはないだろうが、失った信用というものは、そう簡単に取り戻せるものではないからね。これから家を盛り返していけるかどうかは、奴自身の頑張り次第だろう」
「そう。現実は厳しいのね」
「自業自得さ。僕の可愛い従妹を袖にした男だ、当然の報いだよ」
「可愛い従妹ねえ……その割に、最近、うちに来てくれなかったじゃない」
「それは、お前、仕方ないだろう。ちょっと前まで付き合ってた子が、凄いヤキモチ焼きでな。僕がお前と一緒にいると、怒るんだよ。その彼女とも、晴れてお別れしたので、こうしてまた、愛しい従妹とお茶ができるようになったと言うわけさ」
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