私を捨てるんですか? いいですよ、別に。元々あなたのことなんて、好きじゃありませんので【完結】

小平ニコ

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第16話(ブライアン視点)

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 だが……
 だがしかし……

「ならどうして、何も言わずに姿を消したんだ! 俺と、俺の家のためだって、手紙の一つくらい、残して出て行ってもよかったじゃないか!」

 ケイティは、ため息を漏らした。

「ブライアン、私は、誰よりもあなたの性格をよく分かっているわ。……手紙なんて残していったら、たとえ私が身を潜めたとしても、あなた、意地になって私を探し出して、一緒に暮らそうとするでしょう? そんなことになったら、貴族たちはますますあなたを蔑み、笑いものにしたはずよ」

 ぐっ……

 悔しいが、ケイティの言う通りだった。

 自分の立場も考えずに、ローラリアとの婚約を破棄した直情的な俺だ。『あなたのためなの』だなんてケイティが言ったなら、彼女に対する愛しさがますます膨れ上がり、たとえ、どんな障害があったとしても、ケイティと添い遂げようとしたことだろう。

 黙ってしまった俺の代わりに、ケイティは語り続ける。

「でも、どんな理由があろうと、あなたの前から姿を消したことは事実。だから私は、もうあなたに会わず、そっと遠くから見守るだけにしようと思っていたわ。でも、あなたは、友人とも、女性とも付き合わず、仕事だけに没頭するような、孤独な毎日を送ってるみたいだから、心配になって……」

 こうして、会いに来たということか。

 ああ。
 嬉しい。

 こんな俺にも、まだ心配してくれる人がいるなんて。

 嬉しい。
 暖かい。

 まるで、ケイティの思いやりが、太陽のように、冷たく凍えた俺の胸を照らしているかのようだ。このまま、このままケイティと、昔のように愛を育むことができたら、どんなに幸せだろう。

 俺は表情を緩め、両腕を広げ、ケイティをこの手に抱こうとした。

 その時。
 俺の頭の中で、誰かが囁いた。

 本当か?

 本当か?

 本当に、信じていいのか?

 うるさい
 黙れ。

 ふふ。
 ふふふ。

『あなたを見捨てたわけじゃない』だって?

 ふふ。
 ふふふ。

 随分と都合の良い言い訳じゃないか。

 やめろ。
 黙れ。

 当時、ケイティがどんな気持ちで姿を消したかは、誰にも分からない。
 くくく、なんたって、人の心の中は、見えないものだからね。

 黙れ。
 黙れ。

 没落していく間抜けなお前が嫌になっただけってのが、真実だと思うぜ。
 くくくく、『あなたのため』か。今となっては、なんとでも言えるよな。

 黙れ。
 黙れ。
 黙れ!

 だいたいさぁ。
 来るなら、もう少し早くに来るべきじゃないか。

 なんだと?
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