【完結】懸命に働いた結果、無実の罪で魔王への生贄にされた聖女。でも、その『氷華の魔王』様に溺愛され、誰よりも幸福な人生を手に入れました。

小平ニコ

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第9話

「あらゆる比喩を用いても到底言い表せないほど、もどかしい気持ちだったよ。馬を飛ばせばすぐ会いに行ける距離なのに、きみについて詳しく知ろうとすることすら危険なのだから」

 かたく瞳を閉じ、苦悩の日々を反芻するように首を左右に振るレオナール。端正な唇から続けて綴られる言葉は、まさに葛藤する心の具現であった。

「私はどんな危険も恐れない。きみへの愛のためならば、傷つこうが苦しもうが構わない。だが、身勝手な愛を貫いた結果、"皆に尊敬される聖女として幸せに暮らしている"はずのきみを傷つけ、苦しめ、不幸にするかもしれないと思うと、何もできなかった。何も、するわけにはいかなかったのだ……」

 握った手を引き寄せるようにし、ごく自然にレオナールはマリエラを抱きしめる。若い男が女を求める刹那的な情熱とは比較にならない、何か大きな慈愛を感じる、優しい抱擁だった。

「だが今日、王太子ウィルハルドから『魔王レオナールよ。生贄として、そなたに聖女をやろう。楽しみに待っているがよい』というふざけた手紙が送られてきて、私は行動を起こすことにした。そして、オルムスト聖王国のホールできみの扱いを見て、悟ったよ。きみが"幸せに暮らして"などいなかったことを」

「…………」

「もしかしたら、もっと早くに、強引にでもきみに会いに行けばよかったのかもしれないと、私は過去のおこないを悔い始めている……。マリエラ。私は遅すぎただろうか……?」

 マリエラはレオナールの広い胸に顔を埋めるようにしながら、小さく首を左右に振った。

「いえ。理屈ではなく、魔導の直感でわかります。そんなことをしていれば、聖と魔の力が反発し、恐らく私もレオナール様も消し飛んでいたでしょう」

 それどころか、オルムスト聖王国、魔王国グレスウェア。すべてを巻き込んで消滅していた可能性すらある。それはいなかる理屈を用いても説明できないが、一瞬で魂が理解する。確信そのものの直感だった。

「レオナール様、これで良かったのです。何も知らなかった私と違って、運命の相手を知りながら、会わずに堪えるのはとてもつらかったでしょう? そんな思いをさせて、ごめんなさい……」

「きみが謝ることは何もない。それに、もう憂う必要もない。これからはずっと一緒なのだから」

 そして運命の二人は、互いを強く抱きしめ合った。心温まる抱擁ではあったが、手だけではなく体を通して伝わるレオナールの体温がやけに低いのが、マリエラにとっては少々気がかりだった。

(自律神経が乱れて体調が悪くなると、体温が極端に下がる人がいるというのは聞いたことがあるけど、レオナール様、もしかしてお体の具合が良くないのかしら? だけど、それにしたって冷たい……。まるで、大理石に触れているみたいだわ……)

 とはいえ、出会ったばかりの人に『あなたの体温は低すぎます。何故ですか?』と問うのはあまりにも不躾。あまりにも無礼。マリエラはひとまず、この疑問を胸にしまっておくことにした。

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