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第10話
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マリエラがレオナールと共にオルムスト聖王国を去ってから数日後のこと。けばけばしく、目がくらむような部屋で、ウィルハルド王太子は金色のソファにふんぞり返っていた。
「ああ、クソッ。イライラする。魔王レオナールめ。よくも貴族どもの前で私に恥をかかせてくれたな……!」
金色の壁、金色の天井、そして金色の床。大木を模したジュエリースタンドには、果実のごとく大小さまざまな宝石がきらめいていた。美しいが、あまりにもこれ見よがしで、下品なオブジェクトであった。
ここは、ウィルハルド王太子がお気に入りの宮女をはべらせる特別室。通称『特権の部屋』である。彼は自らの生まれからくる『絶大な特権』を享受することについて、恥と思う気持ちは一切なかった。むしろ、自分が特権を持つ者であると自覚すればするほど、下等な臣民との違いを実感し、強い幸福感が湧いてくる。
これでも父であるオルムスト王が病に倒れる前は、多少なりとも自重していたが、王が床に臥せってウィルハルド王太子が国の実権を握ってからは、その放蕩ぶりに拍車がかかり、もはや誰にも止められなかった。
いや、止めるどころか、この馬鹿な王子を持ち上げて甘い汁を啜ろうと、周囲には彼を持ち上げる者ばかりとなったのである。特に、女好きのウィルハルド王子に取り入ろうと、宮女たちがありとあらゆる方法で彼を誘惑した。その浅ましさと下劣さは、娼婦ですら眉を顰める有様であった。
だが、モラルがなく、恥も感じない人間はある意味強い。普通の人間なら躊躇してしまうことを、平然とやれてしまうからだ。しかも、罪悪感も後悔もない。ゼロから成り上がるのに、これほど有利な資質はないだろう。
いま述べた『普通の人間なら躊躇してしまうこと』を『平然とやり』『ゼロから成り上がった』のが、不機嫌なウィルハルド王太子のすぐそばに寄り添っている宮女――アフィリアである。
彼女こそが、聖女マリエラについての悪質で陰湿なデマをウィルハルド王子に吹き込み、断罪にまで持ち込ませた諸悪の根源である。アフィリアは露出したウィルハルド王太子の胸板に指を這わせながら、甘ったるい猫なで声で囁いた。
「ウィルハルド様ぁ、そんなに怒らないでくださいよぉ、アフィリア、とっても怖ぁい」
本当に、耳がかゆくなるような声だった。先程は『猫なで声』と表現したが、猫好きな人間が、猫を撫でる時にだって、こんな甘ったるい声を発したりはしない。
しかし、ウィルハルド王太子はこの不気味な声を発する女を大いに気に入っており、普段なら『怖ぁい』と言われれば、すぐに態度を改めるのだが、今回は少し毛色が違っていた。
「うるさい! 少し静かにしていろ! ああああ! ムシャクシャするっ! あの野郎、私を馬鹿にしやがって! 今すぐに軍隊を編成して、魔王国グレスウェアに攻め入ってやろうか!?」
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マリエラがレオナールと共にオルムスト聖王国を去ってから数日後のこと。けばけばしく、目がくらむような部屋で、ウィルハルド王太子は金色のソファにふんぞり返っていた。
「ああ、クソッ。イライラする。魔王レオナールめ。よくも貴族どもの前で私に恥をかかせてくれたな……!」
金色の壁、金色の天井、そして金色の床。大木を模したジュエリースタンドには、果実のごとく大小さまざまな宝石がきらめいていた。美しいが、あまりにもこれ見よがしで、下品なオブジェクトであった。
ここは、ウィルハルド王太子がお気に入りの宮女をはべらせる特別室。通称『特権の部屋』である。彼は自らの生まれからくる『絶大な特権』を享受することについて、恥と思う気持ちは一切なかった。むしろ、自分が特権を持つ者であると自覚すればするほど、下等な臣民との違いを実感し、強い幸福感が湧いてくる。
これでも父であるオルムスト王が病に倒れる前は、多少なりとも自重していたが、王が床に臥せってウィルハルド王太子が国の実権を握ってからは、その放蕩ぶりに拍車がかかり、もはや誰にも止められなかった。
いや、止めるどころか、この馬鹿な王子を持ち上げて甘い汁を啜ろうと、周囲には彼を持ち上げる者ばかりとなったのである。特に、女好きのウィルハルド王子に取り入ろうと、宮女たちがありとあらゆる方法で彼を誘惑した。その浅ましさと下劣さは、娼婦ですら眉を顰める有様であった。
だが、モラルがなく、恥も感じない人間はある意味強い。普通の人間なら躊躇してしまうことを、平然とやれてしまうからだ。しかも、罪悪感も後悔もない。ゼロから成り上がるのに、これほど有利な資質はないだろう。
いま述べた『普通の人間なら躊躇してしまうこと』を『平然とやり』『ゼロから成り上がった』のが、不機嫌なウィルハルド王太子のすぐそばに寄り添っている宮女――アフィリアである。
彼女こそが、聖女マリエラについての悪質で陰湿なデマをウィルハルド王子に吹き込み、断罪にまで持ち込ませた諸悪の根源である。アフィリアは露出したウィルハルド王太子の胸板に指を這わせながら、甘ったるい猫なで声で囁いた。
「ウィルハルド様ぁ、そんなに怒らないでくださいよぉ、アフィリア、とっても怖ぁい」
本当に、耳がかゆくなるような声だった。先程は『猫なで声』と表現したが、猫好きな人間が、猫を撫でる時にだって、こんな甘ったるい声を発したりはしない。
しかし、ウィルハルド王太子はこの不気味な声を発する女を大いに気に入っており、普段なら『怖ぁい』と言われれば、すぐに態度を改めるのだが、今回は少し毛色が違っていた。
「うるさい! 少し静かにしていろ! ああああ! ムシャクシャするっ! あの野郎、私を馬鹿にしやがって! 今すぐに軍隊を編成して、魔王国グレスウェアに攻め入ってやろうか!?」
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