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第33話
バフォーンは得意の弁舌を振るい、皆の扇動を試みた。
「この場に集まった皆の衆。今の言葉、お聞きになりましたかな? レオナール様は自らが罪人であり、結局は今回の『移命の法』が利己的なおこないであることを認めましたぞ? 本当に、このまま儀式をおこなってよいものですかなあ。おこなえば、永久に消えぬ汚名がレオナール様についてまわりますぞ?」
なかなか上手な言い回しだった。単にやめろやめろと言えば、逆に反発を招くが、儀式を強行すればレオナールの名前に永遠に消えない傷がつくと言われれば、レオナールの支持者たちも考えざるを得ない。実際、礼拝堂内に『本当にこのまま続けていいのだろうか』という嫌な空気が満ちつつあった。
何より先程も述べたが、理屈としてはバフォーンの言っていることは正しいのが致命的だった。『国のため、民のため』という言葉だけでは、禁術を使う決定的な理由としては弱い。
レオナールは瞳を閉じた。強く反論する気はなさそうだった。……もしかしたら、彼はこのまま『移命の法』を使わないことを望んでいるのかもしれなかった。そうすれば、愛するマリエラの命を吸い、彼女の寿命を極端に縮めずに済むから。
マリエラはレオナールのいない長命に何の意味もない。どんなに長く生きても、幸福であるはずがないと主張したが、人は変わる。運命の愛も、いずれは忘れていく。死別の悲しみと苦痛を、長い長い時がゆっくりと癒やし、いつかは穏やかなやすらぎをマリエラにもたらすこともあるだろう。
で、あるならば、二人で同じ時を生きることにこだわらず、運命のままに自分だけ死ぬことが、結局はマリエラのためになるのではないかと、レオナールは今日に至るまで葛藤していた。その葛藤は今も続いており、それゆえにレオナールはバフォーンの糾弾に強く反論しないのである。
だが突然、鶴の一声のようにこの場の喧騒を静める者があった。
それは、ここまで事態を静観していたマリエラだった。
「皆さま、静粛にお願いします。これから、バフォーン大公のお言葉と、皆さまが抱いている懸念に対する回答をしたいと思います」
大きくはないが良く通るその声は、皆を一斉に黙らせた。王妃が自ら皆の懸念に答えると言っているのに、いまだ騒ぐ愚か者は一人もいなかった。マリエラは礼拝堂内を見回し、一度頷いてから語り始める。
「まず、大きな誤解があるようなので、それを解きましょう」
「誤解ですと? 我々が、何を誤解しているというのですかな?」
バフォーンは嗤った。かつては聖王国の聖女、今は魔王国の王妃とおだてられているだけの小娘が何をほざくか。そう言いたげな顔だった。しかし、マリエラは少しもひるまなかった。
「本当に大きな誤解ですわ、バフォーン大公。今回、『移命の法』を使うのはレオナール様ではなく、私なのです。レオナール様が私の『命を吸う』のではなく、私がレオナール様に『命を移す』のですよ」
「この場に集まった皆の衆。今の言葉、お聞きになりましたかな? レオナール様は自らが罪人であり、結局は今回の『移命の法』が利己的なおこないであることを認めましたぞ? 本当に、このまま儀式をおこなってよいものですかなあ。おこなえば、永久に消えぬ汚名がレオナール様についてまわりますぞ?」
なかなか上手な言い回しだった。単にやめろやめろと言えば、逆に反発を招くが、儀式を強行すればレオナールの名前に永遠に消えない傷がつくと言われれば、レオナールの支持者たちも考えざるを得ない。実際、礼拝堂内に『本当にこのまま続けていいのだろうか』という嫌な空気が満ちつつあった。
何より先程も述べたが、理屈としてはバフォーンの言っていることは正しいのが致命的だった。『国のため、民のため』という言葉だけでは、禁術を使う決定的な理由としては弱い。
レオナールは瞳を閉じた。強く反論する気はなさそうだった。……もしかしたら、彼はこのまま『移命の法』を使わないことを望んでいるのかもしれなかった。そうすれば、愛するマリエラの命を吸い、彼女の寿命を極端に縮めずに済むから。
マリエラはレオナールのいない長命に何の意味もない。どんなに長く生きても、幸福であるはずがないと主張したが、人は変わる。運命の愛も、いずれは忘れていく。死別の悲しみと苦痛を、長い長い時がゆっくりと癒やし、いつかは穏やかなやすらぎをマリエラにもたらすこともあるだろう。
で、あるならば、二人で同じ時を生きることにこだわらず、運命のままに自分だけ死ぬことが、結局はマリエラのためになるのではないかと、レオナールは今日に至るまで葛藤していた。その葛藤は今も続いており、それゆえにレオナールはバフォーンの糾弾に強く反論しないのである。
だが突然、鶴の一声のようにこの場の喧騒を静める者があった。
それは、ここまで事態を静観していたマリエラだった。
「皆さま、静粛にお願いします。これから、バフォーン大公のお言葉と、皆さまが抱いている懸念に対する回答をしたいと思います」
大きくはないが良く通るその声は、皆を一斉に黙らせた。王妃が自ら皆の懸念に答えると言っているのに、いまだ騒ぐ愚か者は一人もいなかった。マリエラは礼拝堂内を見回し、一度頷いてから語り始める。
「まず、大きな誤解があるようなので、それを解きましょう」
「誤解ですと? 我々が、何を誤解しているというのですかな?」
バフォーンは嗤った。かつては聖王国の聖女、今は魔王国の王妃とおだてられているだけの小娘が何をほざくか。そう言いたげな顔だった。しかし、マリエラは少しもひるまなかった。
「本当に大きな誤解ですわ、バフォーン大公。今回、『移命の法』を使うのはレオナール様ではなく、私なのです。レオナール様が私の『命を吸う』のではなく、私がレオナール様に『命を移す』のですよ」
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