【完結】懸命に働いた結果、無実の罪で魔王への生贄にされた聖女。でも、その『氷華の魔王』様に溺愛され、誰よりも幸福な人生を手に入れました。

小平ニコ

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第34話

 バフォーンは一瞬ポカンとした。マリエラの言う『命を吸う』ことと『命を移す』ことの違いが、よく分かっていないようだった。だが、よく分からないなりにロジックを組み立て、即座に反論する。

「王妃様、それは詭弁ではありませんかな? どちらにしろ、レオナール様が『移命の法』の恩恵を受けることには変わりないでしょう」

「いいえ、違います。そもそもレオナール様は、私の命を縮めることになる『移命の法』を使うことなど、本心では望んでいないのです。自らの一族が禁術とした『移命の法』を使うこと対する忌避感も強い。レオナール様は、今回のことを『恩恵』などとは露ほども思っておられません」

「くくく、そうですか。では、中止したらよろしいではないですか」

「そうですね。レオナール様は、内心では中止したいと思っていらっしゃるでしょう。だから、あなたに責められても反論しなかったのです。バフォーン大公、あなたも奇妙に思ったでしょう? 激しい政治闘争を繰り広げている政敵のレオナール様が、今日に限ってあまりにも大人しいことを」

 その言葉にざわついたのはバフォーン以外の重鎮たちである。

「確かにそうだ。こんなこと、初めてであったな」
「レオナール様は、魔力だけではなく論戦も強いからのう」
「これまで、バフォーン殿に言われっぱなしということはまずなかった」

 皆の言葉を聞いた後、マリエラは話をまとめる。

「お分かりですか? レオナール様は『移命の法』を使いたくないし、使わないのです。使うのはこの私。それによりレオナール様が恩恵を受けるように見えますが、寿命が延びることはレオナール様にとって必ずしも恩恵ではありません。私の命を縮め、『移命の法』を封じた一族の誇りも傷つき、重たい十字架を背負うのですから」

 念を押すような言い方をされ、バフォーン大公は小娘に侮られていると思ったのか、眉間に不快のシワを刻んだ。だが、声を荒げそうになるのだけはどうにか堪え、怒りと嘲りの混ざった、不気味な笑顔で言葉を返していく。

「詭弁には違いないと思いますが、まあいいでしょう。しかし王妃様。あなたはなぜそこまでして『移命の法』を使うのです? どうやら、『移命の法』によって民の命が搾取されてきた歴史の知識はおありのようだ。ならば、これがやすやすと使うべきではない忌まわしい術だとご存じのはずでしょうに」

 マリエラは毅然とした眼差しで、深く頷いた。

「その通りです。権力者が『移命の法』で民の命を搾取するなど、二度と繰り返してはなりません。だからこそ、今私は『移命の法』を使ってレオナール様の寿命を延ばすのです。再び『移命の法』を合法化し、民の命を吸って永久を生きようとするあなたのような人たちに、政治の実権を渡さないために」

 それはマリエラからバフォーン大公ら傍系の王族に対する、明確な攻撃だった。これにはバフォーンも憤慨し、自らの前にある机を大きな拳で叩いた。声を荒げるのも、今回は堪えることができなかった。

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