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第35話
「何も知らん小娘が、分かったような口を叩くな! ワシらが『移命の法』の合法化を目論んでいるだと!? 見当違いの言いがかりもはなはだしい! 証拠でもあるのか!」
そこで、マリエラとバフォーンの討論を黙って見ていた重鎮の一人が口を開いた。
「バフォーン殿。証拠も何も、あなたは酒宴で酔いが回ってくると、いつも大声でくだをまいているではありませんか。『特権階級が下民より長く生きて何が悪い。移命の法を禁じた連中は大馬鹿だ』と」
「黙れ! あんなものは酒の席での戯言だ! 何の証拠にもならんわ!」
「いや、しかし……」
「黙れ黙れ黙れ! 古今東西、泥酔した人間の発言というのはなぁ、証拠として圧倒的に価値が低くなるのだ! 知らんのか! 無知! 低能! 頭にゴミが詰まっている愚か者が! 少しは法廷闘争について勉強しろ!」
怒りが収まらず、汚い言葉を喚き散らすバフォーン大公を、マリエラは哀れみすら感じる瞳で眺めていた。そして、彼の怒声がどうにか途切れたタイミングを見計らい、静かに、諭すように言う。
「バフォーン大公。確かに、泥酔した人間の発言は、法廷での証拠として弱くなるというのは聞いたことがあります。酔った人間は、心にもないことを言ったりするものですからね」
「くふはははは! なんだ、馬鹿な小娘かと思っていたが、まあまあ道理を分かっておるではないか! その通りだ! ワシが過去に言ったことは、法廷では何の証拠にもならんわ!」
「しかしバフォーン大公。ここは法廷ではありません。法的な証拠にはならなくても、あなたが過去に言った言葉。そして、あなたが今言った言葉は、この場に集まった方々にどのような影響を与えるでしょうか?」
「なんだと?」
言われて、バフォーン大公は周囲を見渡した。彼を見る皆の眼差しは、冬の荒野のように冷ややかであった。民衆の代表たちの目には、軽蔑以上に強い恐怖があった。バフォーンの振る舞いに、いにしえの邪悪な権力者の復活を思い描いたのである。
「公の場で、他者を口汚く罵る攻撃性と自制のきかない性格に加え、自分以外の者を徹底的に見下していることは明らかです。そんなあなたが過去に何度も『特権階級が下民より長く生きて何が悪い。移命の法を禁じた連中は大馬鹿だ』と述べていたことは、法的な証拠にならなくても、この場に集まった方々を不安にさせるには充分だと思うのですが」
少しずつ、バフォーンの顔色が変わり始めた。超絶短気な頭に上った血が下がって来るのと同時に、自らの立場が大いに悪化したことを、この短絡的な権力者はやっと悟ったのである。
しかし虚勢を張るように、またしても大きな声で威嚇する。
「この場に集まった連中の機嫌を損ねたからといって、それが何だというのだ! ああ? ワシは魔王国グレスウェアでもっとも由緒ある血筋のひとつ! ビブロ家のバフォーン大公であるぞ! 魔王レオナールでさえ、そうやすやすとワシを処罰することなどできぬわ!」
そこで、マリエラとバフォーンの討論を黙って見ていた重鎮の一人が口を開いた。
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「いや、しかし……」
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「しかしバフォーン大公。ここは法廷ではありません。法的な証拠にはならなくても、あなたが過去に言った言葉。そして、あなたが今言った言葉は、この場に集まった方々にどのような影響を与えるでしょうか?」
「なんだと?」
言われて、バフォーン大公は周囲を見渡した。彼を見る皆の眼差しは、冬の荒野のように冷ややかであった。民衆の代表たちの目には、軽蔑以上に強い恐怖があった。バフォーンの振る舞いに、いにしえの邪悪な権力者の復活を思い描いたのである。
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少しずつ、バフォーンの顔色が変わり始めた。超絶短気な頭に上った血が下がって来るのと同時に、自らの立場が大いに悪化したことを、この短絡的な権力者はやっと悟ったのである。
しかし虚勢を張るように、またしても大きな声で威嚇する。
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