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第50話
かつて自分を可愛がってくれたウィルハルドのことなど一瞬で忘れたアフィリアは、この新しい『宿主』に寄生し、ぬくぬくと快適な生活をおこなっていたのだったが、貧しい民衆から搾取を続けていたキドゥス家は粛清対象となり、アフィリアの楽園はあっという間に壊滅したのである。
しかし、まだ助かるチャンスはある。
今アフィリア自身が述べた通り、彼女は卑しい生まれであり、本来なら民衆たちと同じく搾取される側だ。実際には貴族の愛妾として特権を享受していたとはいえ、表面上はただのメイド。涙ながらに無理やり奉仕を命じられたと言えば、民衆たちはきっとそれを信じる。
アフィリアには自信があった。
民衆は馬鹿だ。
こいつらに、本質を見抜く目などない。
お涙ちょうだいの三文芝居で感情に訴えかければ、どいつもこいつもコロッと騙される。これまで何度もトラブルがあったが、私はいつだってこの美貌と愛嬌、そして強運を味方にしてすべてを乗り切って来たのだ。今回も、絶対に切り抜けられる。そう確信している。
だから、涙を流して喚きつつも、その内心にはまだ余裕があった。
実際、民衆たちの一人が『ただの使用人にすぎないメイドまで処刑するのはやりすぎでは?』と声を上げる。『そうだな。この娘は、俺たちと同じく卑しい生まれなわけだしな。救うべき同胞だ』という声も上がった。
アフィリアは、彼らの同情心を増大させるようにさめざめと泣きながら、心の中では舌を出していた。
(ぷっ、くくっ、あははっ! 馬鹿、馬鹿、馬鹿! どいつもこいつも、話にならないクソ馬鹿ども! こんなしょーもない芝居で騙されちゃうわけ? あー、楽勝だわ。同胞? 私とあんたらクソ低能が? じょーだんキツイわ。私は貴族すらも利用する上位存在よ。一緒にするんじゃないわよ、カスどもが)
そんな内心はおくびにも出さず、アフィリアはうつむいて泣き続けた。ここまでくれば、もうあれこれと主張する必要はない。ただ泣いていれば、後は馬鹿どもが勝手に助けてくれる。
(はぁ。長い時間はりつけにされていたせいで、肩も腕も痛いわ。さっさと助けなさいよ、グズども。でも助けたところで、今日あんたたちが私にした仕打ちは忘れないわよ。顔も名前も覚えた。また新しい有力者に取り入って、そいつにおねだりして、全員殺してやる。楽しみにしてなさい。あはっ、あははっ!)
「おい、こいつ。ウィルハルド王太子のお気に入りだった宮女アフィリアだぞ」
低い、男の声だった。
隠し切れない憎悪のこもった、男の声だった。
それで、勝利を確信していたアフィリアの表情がサッと青ざめる。
アフィリアはうつむいていた顔を上げ、声の主を確認した。
(誰こいつ……? 見たこともない顔だわ)
しかし、まだ助かるチャンスはある。
今アフィリア自身が述べた通り、彼女は卑しい生まれであり、本来なら民衆たちと同じく搾取される側だ。実際には貴族の愛妾として特権を享受していたとはいえ、表面上はただのメイド。涙ながらに無理やり奉仕を命じられたと言えば、民衆たちはきっとそれを信じる。
アフィリアには自信があった。
民衆は馬鹿だ。
こいつらに、本質を見抜く目などない。
お涙ちょうだいの三文芝居で感情に訴えかければ、どいつもこいつもコロッと騙される。これまで何度もトラブルがあったが、私はいつだってこの美貌と愛嬌、そして強運を味方にしてすべてを乗り切って来たのだ。今回も、絶対に切り抜けられる。そう確信している。
だから、涙を流して喚きつつも、その内心にはまだ余裕があった。
実際、民衆たちの一人が『ただの使用人にすぎないメイドまで処刑するのはやりすぎでは?』と声を上げる。『そうだな。この娘は、俺たちと同じく卑しい生まれなわけだしな。救うべき同胞だ』という声も上がった。
アフィリアは、彼らの同情心を増大させるようにさめざめと泣きながら、心の中では舌を出していた。
(ぷっ、くくっ、あははっ! 馬鹿、馬鹿、馬鹿! どいつもこいつも、話にならないクソ馬鹿ども! こんなしょーもない芝居で騙されちゃうわけ? あー、楽勝だわ。同胞? 私とあんたらクソ低能が? じょーだんキツイわ。私は貴族すらも利用する上位存在よ。一緒にするんじゃないわよ、カスどもが)
そんな内心はおくびにも出さず、アフィリアはうつむいて泣き続けた。ここまでくれば、もうあれこれと主張する必要はない。ただ泣いていれば、後は馬鹿どもが勝手に助けてくれる。
(はぁ。長い時間はりつけにされていたせいで、肩も腕も痛いわ。さっさと助けなさいよ、グズども。でも助けたところで、今日あんたたちが私にした仕打ちは忘れないわよ。顔も名前も覚えた。また新しい有力者に取り入って、そいつにおねだりして、全員殺してやる。楽しみにしてなさい。あはっ、あははっ!)
「おい、こいつ。ウィルハルド王太子のお気に入りだった宮女アフィリアだぞ」
低い、男の声だった。
隠し切れない憎悪のこもった、男の声だった。
それで、勝利を確信していたアフィリアの表情がサッと青ざめる。
アフィリアはうつむいていた顔を上げ、声の主を確認した。
(誰こいつ……? 見たこともない顔だわ)
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