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精霊に愛された素晴らしき村の終焉 第1話
想像してみてほしい。
ここに、二本の足で立っている人間がいるとする。
その片足が急になくなったら、どうなるだろうか?
多くの場合は、転んでしまうだろう。
しかし、残った片足でバランスを保ち、転ばない場合もあるだろう。
では、二本の足が同時になくなったら、どうなるだろうか?
考えるまでもない。
二本の足が突然なくなって立っていられるわけがない。
恐ろしい『山の神』に『無意味ないけにえ』を捧げていた愚かな村は、その日、二本の足を同時に失った。
一本目の足は、守護精霊クォール。
クォールは自分のことを『ちっぽけな存在』と述べたが、実際はそうでもなかった。信仰が消え、人々が土地を汚し、度の過ぎた金儲けのために森林を容赦なく伐採していっても、大きな土砂崩れ等の災害が起こらなかったのは、クォールの力のたまものだった。
そのクォールが、消滅した。
一本目の足が無くなり、村は大きくバランスを崩した。
しかし本来なら、残ったもう一本の足で、なんとか立ち続けることができた。その『もう一本の足』は、カレンだった。
クォールがカレンを『人よりも精霊に近い存在なのかもしれない』と言った通り、彼女は魔を払う力を持った、特別な人間だった。
土地の力が弱まっているせいで、無限に湧き出てくる悪霊を浄化するため、大いなる運命とでも言うべき『何か』が、カレンをあの村に導いたのかもしれない。村の誰も知らないことだが、彼女がいたから、あの小さな悪霊が、あれ以上大きくなることはなかったのだ。
そのカレンが、いなくなった。
愚かな村の人間たちは、村にとって最も大事な少女をいけにえにした。結果的に、それでカレンは幸せになれたが、その村人たちの非道なおこないは、運命をつかさどる『何か』を怒らせた。
カレンは村人たちを許した。
クォールは、そもそも村人たちを憎んではいなかった。
しかしその『何か』は、村人たちを許さなかった……
・
・
・
始まりは、カレンの家の地下室だった。
カレンの母は、カレンがいなくなったのをいいことに、彼女を住まわせていた地下室をワインセラーに改装していた。暗く、肌寒く、湿度も高いそこは、人が暮らすにはあまりにも劣悪な環境だが、ワインの保存にはこれ以上ないほど適していた。
棚に並んだ高級ワインのコレクションを見て、カレンの母はほくそ笑んだ。夫が材木業で成功したこともあり、この家の収入は相当なものだった。しかし彼女はまだまだ満足しておらず、コレクションを、これからさらに増やしていくつもりだった。
「うふふ。今日は気分がいいし、一本あけようかしら。お金ならいくらでもあるし、また買い足せばいいものね」
カレンの母は、一本の瓶を手に取り、愛おしむように撫でる。薄暗い地下室の中で、深い黒色にきらめくその瓶に、何かが映り込んでいた。
それは、人の顔だった。
活発な子供を思わせる、幼い顔だった。
そして、おぞましい悪意のこもった顔だった。
ここに、二本の足で立っている人間がいるとする。
その片足が急になくなったら、どうなるだろうか?
多くの場合は、転んでしまうだろう。
しかし、残った片足でバランスを保ち、転ばない場合もあるだろう。
では、二本の足が同時になくなったら、どうなるだろうか?
考えるまでもない。
二本の足が突然なくなって立っていられるわけがない。
恐ろしい『山の神』に『無意味ないけにえ』を捧げていた愚かな村は、その日、二本の足を同時に失った。
一本目の足は、守護精霊クォール。
クォールは自分のことを『ちっぽけな存在』と述べたが、実際はそうでもなかった。信仰が消え、人々が土地を汚し、度の過ぎた金儲けのために森林を容赦なく伐採していっても、大きな土砂崩れ等の災害が起こらなかったのは、クォールの力のたまものだった。
そのクォールが、消滅した。
一本目の足が無くなり、村は大きくバランスを崩した。
しかし本来なら、残ったもう一本の足で、なんとか立ち続けることができた。その『もう一本の足』は、カレンだった。
クォールがカレンを『人よりも精霊に近い存在なのかもしれない』と言った通り、彼女は魔を払う力を持った、特別な人間だった。
土地の力が弱まっているせいで、無限に湧き出てくる悪霊を浄化するため、大いなる運命とでも言うべき『何か』が、カレンをあの村に導いたのかもしれない。村の誰も知らないことだが、彼女がいたから、あの小さな悪霊が、あれ以上大きくなることはなかったのだ。
そのカレンが、いなくなった。
愚かな村の人間たちは、村にとって最も大事な少女をいけにえにした。結果的に、それでカレンは幸せになれたが、その村人たちの非道なおこないは、運命をつかさどる『何か』を怒らせた。
カレンは村人たちを許した。
クォールは、そもそも村人たちを憎んではいなかった。
しかしその『何か』は、村人たちを許さなかった……
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始まりは、カレンの家の地下室だった。
カレンの母は、カレンがいなくなったのをいいことに、彼女を住まわせていた地下室をワインセラーに改装していた。暗く、肌寒く、湿度も高いそこは、人が暮らすにはあまりにも劣悪な環境だが、ワインの保存にはこれ以上ないほど適していた。
棚に並んだ高級ワインのコレクションを見て、カレンの母はほくそ笑んだ。夫が材木業で成功したこともあり、この家の収入は相当なものだった。しかし彼女はまだまだ満足しておらず、コレクションを、これからさらに増やしていくつもりだった。
「うふふ。今日は気分がいいし、一本あけようかしら。お金ならいくらでもあるし、また買い足せばいいものね」
カレンの母は、一本の瓶を手に取り、愛おしむように撫でる。薄暗い地下室の中で、深い黒色にきらめくその瓶に、何かが映り込んでいた。
それは、人の顔だった。
活発な子供を思わせる、幼い顔だった。
そして、おぞましい悪意のこもった顔だった。
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