65 / 389
第65話
旅というものは、あまり贅沢をしなくても、それなりに宿代・食事代が必要なのだが、私の所持金は、少しも減ることがなかった。
……何故かと言うと、エリスがいつも『ここは私が払います』『支払いは、私にお任せください』『お師匠様に、お金を払わせるわけにはいきません』と言い、すべての会計を済ませてくれるからだ。
もちろん、エリスも富豪ではないので、無限にお金があるわけではないのだが、実はエリスは正式な『冒険者資格』を持っており、旅の合間合間に冒険者ギルドに立ち寄っては、何らかの依頼を受け、きっちり旅費を稼いでくるのである。
エリスは以前、自分のことを『社会不適合者』だと卑下していたが、ちゃんと社会のルールに従ってお金を手に入れ、私の分まで旅費を稼いできてくれるのだから、全然まともである。いや、ほんとに、尊敬するわ。
それに比べて私は……
私は……
かなりのダメ人間になりつつあった。
この一ヶ月、エリスの好意と厚意に甘えっぱなしで、なんて言うか、『自分一人で生き抜いていく』という気概が、すっかりなくなってしまったのである。
今夜も、エリスのお金で泊まった宿の一室にて、私はベッドに横になりながら、エリスのお金で買ったお酒を飲み、エリスのお金で買ったおつまみを食べ、ダラダラと過ごしている。しかも、エリスに足のマッサージをさせながらだ。
エリスは手先が器用で、背中を流すのが上手いのはすでにご承知の通りだが、マッサージはもっと上手い。絶妙な力加減でふくらはぎを揉まれ、私はうっとりとした声を漏らす。
「あぁ~、そこそこ、いい感じ。左足も、そんな感じでお願いね~」
「はぁい。こんな感じでしょうか?」
「ん~、そうそうそう~、上手よ~、ああ~、余は満足じゃ~」
そこで私は、はたと正気に返った。
何やってるの私!
何が『余は満足じゃ~』よ!
これじゃ私、エリスにたかってるヒモみたいじゃないの!
自分を客観視することで、いきなり冷静になった私は、これまでの態度を大いに恥じた。私は自分の頬をピシャリと叩くと、ぶんぶん頭を振って酔いを醒まし、エリスに謝罪する。
「ごめんなさい、エリス。私、どうかしてたわ。あなたがあまりにも甲斐甲斐しく尽くしてくれるから、それに頼り切っちゃって、完全に堕落してた。もっとちゃんとしないと」
突然謝りだした私を、エリスは不思議そうな顔で見つめ、マッサージを続けながら言う。
「どうして謝るんですか? 弟子が師に尽くすのは当たり前ですし、私はお師匠様に頼ってもらえて、とても嬉しいです」
こやつめ。
なかなか可愛いことを言いおる。
……何故かと言うと、エリスがいつも『ここは私が払います』『支払いは、私にお任せください』『お師匠様に、お金を払わせるわけにはいきません』と言い、すべての会計を済ませてくれるからだ。
もちろん、エリスも富豪ではないので、無限にお金があるわけではないのだが、実はエリスは正式な『冒険者資格』を持っており、旅の合間合間に冒険者ギルドに立ち寄っては、何らかの依頼を受け、きっちり旅費を稼いでくるのである。
エリスは以前、自分のことを『社会不適合者』だと卑下していたが、ちゃんと社会のルールに従ってお金を手に入れ、私の分まで旅費を稼いできてくれるのだから、全然まともである。いや、ほんとに、尊敬するわ。
それに比べて私は……
私は……
かなりのダメ人間になりつつあった。
この一ヶ月、エリスの好意と厚意に甘えっぱなしで、なんて言うか、『自分一人で生き抜いていく』という気概が、すっかりなくなってしまったのである。
今夜も、エリスのお金で泊まった宿の一室にて、私はベッドに横になりながら、エリスのお金で買ったお酒を飲み、エリスのお金で買ったおつまみを食べ、ダラダラと過ごしている。しかも、エリスに足のマッサージをさせながらだ。
エリスは手先が器用で、背中を流すのが上手いのはすでにご承知の通りだが、マッサージはもっと上手い。絶妙な力加減でふくらはぎを揉まれ、私はうっとりとした声を漏らす。
「あぁ~、そこそこ、いい感じ。左足も、そんな感じでお願いね~」
「はぁい。こんな感じでしょうか?」
「ん~、そうそうそう~、上手よ~、ああ~、余は満足じゃ~」
そこで私は、はたと正気に返った。
何やってるの私!
何が『余は満足じゃ~』よ!
これじゃ私、エリスにたかってるヒモみたいじゃないの!
自分を客観視することで、いきなり冷静になった私は、これまでの態度を大いに恥じた。私は自分の頬をピシャリと叩くと、ぶんぶん頭を振って酔いを醒まし、エリスに謝罪する。
「ごめんなさい、エリス。私、どうかしてたわ。あなたがあまりにも甲斐甲斐しく尽くしてくれるから、それに頼り切っちゃって、完全に堕落してた。もっとちゃんとしないと」
突然謝りだした私を、エリスは不思議そうな顔で見つめ、マッサージを続けながら言う。
「どうして謝るんですか? 弟子が師に尽くすのは当たり前ですし、私はお師匠様に頼ってもらえて、とても嬉しいです」
こやつめ。
なかなか可愛いことを言いおる。
あなたにおすすめの小説
「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった
歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。
だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」
追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。
一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。
誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。
「その言葉は、もう翻訳できません」
「お前がいると息が詰まる」と追放された令嬢——翌週から公爵家の予定が全て狂った
歩人
ファンタジー
クラリッサは公爵家の日程管理を一手に担う令嬢。前世の社畜経験を活かし、行事計画、来客対応、予算管理まで完璧にこなしていた。
だが婚約者ヴィクトルは言った。「お前がいると息が詰まる。もっと華やかな女がいい」
追放されたクラリッサが去った翌週、公爵家の予定が全て狂い始める。
舞踏会の招待状は届かず、外交晩餐会の料理は手配されず、決算書類は行方不明。
一方クラリッサは、若き領主の元で「定時退社」という夢を叶えていた。
「もう、残業はしません」
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです
ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」
宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。
聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。
しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。
冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。
追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて
だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。
敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。
決して追放に備えていた訳では無いのよ?
何もしなかっただけです
希臘楽園
ファンタジー
公爵令嬢であり王太子の婚約者であった私は、「地味だ」という理由で婚約を破棄され、王宮を去った。
それまで私が担っていた役目を、誰も知らないまま。
――ただ何もしなくなっただけで、すべては静かに崩れていく。
AIに書かせてみた第14弾は、「追放ざまぁ」系の短編。
地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ
タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。
灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。
だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。
ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。
婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。
嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。
その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。
翌朝、追放の命が下る。
砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。
――“真実を映す者、偽りを滅ぼす”
彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。
地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。