黒白

真辺悠

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黒と白の二人の世界

二人の転移者

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「彩乃はどのくらい前にこの世界に来たの?」
「多分三〇分くらい前だと思う。しばらくここら辺を彷徨ってたけど向こうに道が見えたから行こうとしたら狼に襲われて」

 三〇分ならば、黒い端末のことを知らなくてもしょうがないか。今回襲われたのは運が悪かっただけだ。運が悪かったので死んだ、というのは納得できないが生き残ったので不運だったで済ます。

「俺もその道に行こうとしてここに来たんだよ。どこでもいいから人がたくさんいる場所に行きたくてね」
「それなら一緒に行く?」

 俺が承諾すると彼女も立ち上がる。ふと気になったことを聞いてみる。

「その服はもともと彩乃が着ていたもの?」
「え?」
「いや、俺はこの世界に来た時にはこんな格好になってたからさ」

 俺の今の衣装は全身真っ黒の服だ。ゲームなどで見かけるようなコスプレ衣装だ。それに引き換え彩乃は白を基調とした服を着ている。アイテム袋の光の渦も白黒だったしどうなっているのだろう。

 色の話はなんだって構わないが、彩乃の服はあれだな。いいな。彼女自信も可愛いと素直に思う。口に出したりはしないが学校にいても多分声も掛けられない感じの人だ。もちろんそれは嘘だけど。

「そういえば…。こんな服持っていなかったはずなんだけど」
「だと思ったよ。ところで、彩乃は何歳?見た感じ俺と同じぐらいだけど」
「一七。……高校、二年生」
「俺と同じだね。今後ともよろしく」

 彼女は同じ転移者だ。この世界で一人は心細いので今後とも友好的な関係を気付きたい。せめて家に帰れる間でも一緒に入れられれば嬉しい。

「ありがとう。レイはいつからここにいるの?」
「んー、だいたい一時半ぐらい前かな?黒い端末について調べたり森を彷徨ったりして今に至るよ」
「もし良かったら私に黒の端末について教えてくれない?」

 横に並んで歩いている彩乃が少し前かがみになって上目遣いで頼んでくる。そんな可愛い仕草をされたら断る男子はいないだろう。そうでなくとも彩乃には教えておこうと思っていたので街までの道のりで俺が知っている限りのことをできるだけ詳しく教えることにした。

 その後も世間話程度の他愛無い会話を交わしながら街に向かって歩いていた。

 しばらくすると街が見えてきた。これまたアニメなのでよく見る感じのファンタジー世界の街だ。大きな壁で囲まれている。思うのだが、これ作るの大変だろうな。やるじゃん。だれ。

 門には門番がいてこちらを見ていた。怖い。

「お前たちどうして徒歩できた?馬車はどうした」

 とのことだ。残念ながら馬車などない。そもそもそんなものがあったら苦労はない。

「さっきまでは近隣の森にいてね。それで、入ってもいいかな」
「…冒険者か?見ない顔だな。それにその格好も。一般入領だと一〇〇〇ドル払ってもらうことになるがお前たちは冒険者なのか?ならギルドカードを出してくれ」

 俺たちは黒い端末でギルドカードを出すことができる。現金がなかったので助かった。

「彩乃、黒い端末使える?さっき言ったみたいにギルドカードになっている部分を二回タップすれば普通のギルドカードとして使えるようになるよ」
「わかった。やってみるわね」

 門番の人には、ギルドカードが黒いことに驚かれ怪しまれたがそれほど問題なく街の中に入ることができた。

 普通ギルドカードは白いらしい。そんなこと知らないしどうしようもないので適当にスルーしておく。

「さっきの門番の人に宿の場所を教えてもらえばよかったね」
「確かにそうね。でもさ、お金はどうしたらいいのかな?一応ギルドカードがクレカとか電子マネーみたいな役割をしているみたいだけどどのお店で使えるかわからないよね。」

 これも世界の管理者が用意してくれたものなのだろう。ギルドカードには残高という欄があり一〇万ドルと書かれている。

 円マークなのだが、ドル読みらしい。不思議だ。この世界の物価もなにも知らないので慎重に使わなければならないだろう。どこに落とし穴があるかわからない。

「見て、あそこ。人がそこそこいるわ。あそこで聞いてみましょう」
「それがいいね。休憩を含めて情報収集かな」

 ギルドにやってきた。冒険者ギルドと商業ギルドが大きな一つの建物に併設されており、人口密度が高い。今の時間は商業ギルドに来ている人が多いのだろう。周りは冒険者というより商人という風格の人ばかりだ。と思ってはみるが、俺には商人と冒険者を見分けることはできない。会ったことがないから。

 俺たちは周りをキョロキョロしながらも互いに見失わないように注意しながら空いていると思われる冒険者ギルドがある方へと向かう。ギルドの中に入れば、案の定、人は少なく受付にいるギルド職員もつまらなそうにしていた。

「あんまり人がいないわね」
「冒険者は朝が早いかお寝坊さんなのかも?」

 他愛ない会話をしながら受付へ向かって声を掛ける。まずは体を休ませることができる場所を探さなければならない。

「ちょっと聞きたいことがあるんだけどいい?」
「はい。なんでしょうか?」
「ギルドカードに入っているお金を使いたいんですが使い方がわからなくて…」

 彩乃が説明する。同時に宿の位置まで聞き、相手の名前まで聞いてみせた。コミュニケーション力は俺の数倍あるかもしれない。

 受付嬢のカレラさんが言うには、ギルドカードに入っているお金は商業ギルドで現金に変えることができるそうだ。常識である。なんで知らないの、って反応だった。

 このシステムは、冒険者や商人が旅の途中で無駄な金を持ち歩かなくて良いようにあるらしい。ギルドカードは、登録者以外は使えないので防犯対策にもなっているとのことだ。一〇万ドルもあるんだし暫くは大丈夫だろう。

「あともう一つ聞きたいんだけど、ここはウルフの買い取りとかしてる?この街に来る前に三匹ほど倒してね」
「魔物の買い取りはあちらで行っています。討伐依頼は受けていらっしゃいませんか?」
「生憎依頼は受けてない」

 討伐依頼を受けないと依頼達成の見做されず依頼料をもらえないらしい。でも魔物の買い取りはしてくれるとのことなのでカレラさんにお礼を言って先ずは魔物の買い取りをしてもらいに行く。

「魔物を買い取ってもらっていいですか」
「なんの魔物でしょうか?」
「えっと…」

 彩乃がこちらを向いた。ウルフは俺が持っている。ここは俺が話をしなければならないだろう。

「ウルフ三匹。どこか出せる場所はある?」
「ウルフですね。解体はギルドの方でしてしまってよろしいのですか」
「え、うん。できないし」

 普通は自分たちで解体するのか?どちらにせよ、俺たちに解体スキルなどないのでギルドの方で処理してもらうことにする。

 ウルフを買い取ってもらいお金を受け取る。脳天を一撃で仕留めているのでとてもきれいだ。でも、血が流れるから俺には無理。

 ギルド職員には驚かれどのように倒したのか聞かれたが黒い端末というチート装備を使っていますとは答えられないので秘密ということにしておいた。

 秘密があると人から興味を惹かれやすい、これ常識。

 魔物の素材は傷が少ないほど高価で取引されるらしい。確かに傷が多いものを欲しがる人はいないだろう。そう考えると銃と命中補正の組み合わせは魔物討伐においてベストマッチかもしれない。

 俺たちは二一〇〇〇ドル受け取り続いて商業ギルドへ行く。扉一枚隔てた先にあるのですぐに到着する。

「こっちは人が多いのね」

 彩乃が商業ギルドの中に入ると呟く。確かに冒険者ギルドに比べると人が多い。どんなものが取引されているのか調べてみるのもいいかもしれない。

「あそこ、何か売っているみたいだよ。商業ギルドの直売所といったところかな。まだ時間もあるし見てく?」
「そうね。たくさん歩いたからお腹空いちゃった」

 えへへ、とお腹の当たりに手を添えて笑う。微笑ましいものだ。

 日本にいた頃はちゃんと学校に通っていたのに休日遊ぶ相手もいなかった。この世界に来てこんな可愛い女の子と知り合えて一緒にいるのは今でも信じ難い。本当に助けられて良かった。

 ギルドカードに入っているお金を一万ドル現金に換える。これだけあれば当分大丈夫だろう。

 手数料が取られるのは痛いがこういうのはそういうものなのでしっかり払う。税金と同じだ。払わなければ福祉は受けられない。

 彩乃はウルフ代をもらうことに抵抗していたが、半ば無理矢理に押し付けた。ここまで二人で来たのに全額自分のものにするのは気が引けたからだ。

 彼女のためというよりはむしろ自分の良心のためだ。だからそんなに重みに感じることでは決してない。

 現金はアイテム袋に仕舞う。街に来るまでの間で俺が必須だと思ったアイテム袋と地図は彼女も使えるようになっていた。

 商業ギルド直売所には、卵や魔物の毛皮などいろいろなものが売っていた。特に気になったのがいろんな色、形をしたきれいな石だ。色は赤、青、黄色、緑、透明で丸いのもあればとんがったものなどさまざまだ。

 木札には魔石と書かれている。何に使うのか気になったが、多分この世界では子供でも知っている常識を知らない冒険者として馬鹿にされる気がしたのでスルーする。そのうち知ることになるだろう。

 一通り見た後、屋台がある方に行き昼食を食べる。この世界の初めての食べ物だ。俺が買ったのは広島焼?のようなソースが付いた麺を解いた卵で巻いてあるやつだ。

 そして彩乃はサラダや鶏肉がクレープ生地に巻かれたものを買っていた。どちらもおいしそうだ。

「それじゃ頂こう。美味し糧を!」
「あはは。…それ、なんか聞いたことがある」

 頭より上にあげて挨拶すると彩乃も少しだけあげて応えてくれた。いつも一人だったから食事中は話さない。俺は家族と食べる時だってあまり話さない人だったのでこの時ばかりは静かだった。

「おいし?」
「うん」

 こんなもん。初めてのデートで緊張しているカップルみたいだ。いや、そうなのかも知らないほど俺はこういう経験ないんだけどね。気不味い。

 昼食をとった後は、宿屋に向かう。早く行かなければ部屋が埋まってしまうかもしれない。

「二部屋空いてる?どこでも良いんだけど」

 宿屋に着くと早速部屋を用意してもらう。部屋は空いているようだ。俺たちは一〇日分の宿泊代を懐から取り出す、ように見せかける。実際はアイテム袋から出している。

 実は、先ほどウルフを買い取ってもらう時にウルフの綺麗さ以上に驚かれたことがある。それがこのアイテム袋の存在だ。

 白黒の光の渦巻きが突如現れウルフを出したことがこの世界の人にとってはショッキングだったらしい。

 もちろんそれは俺たちも同じなのだが、自分がしていることに驚くことほど滑稽なものなどないので平気を装った。

 近くにいたギルド職員はじめ冒険者ギルドにいた冒険者たちが騒いでいたのも全て無視だ。

 しかし、頻繁に騒ぎになるのも困るので俺と彩乃は相談し、なるべく人に見られないようにアイテム袋を使うようにしようと決めたのだ。

 宿を確保した俺たちはこの街の地図を作るため探索に向かった。

 まずは情報を集める必要がある。家に帰るかどうかは考えない。運営からこの世界で暮らすようにと言われているので帰れる気がしないので足掻いても無駄だと思う。もちろん、高校は卒業しておきたいし、できるなら進学も考えているが、彩乃を置いてひとりだけ帰る気にはならなかった。

 ならば、彩乃としっかりこの世界で生きられるように尽くすのが良いと思うのだ。情報収集はその土台となる。土台は大切。これ常識。だから頑張るのである。
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