黒白

真辺悠

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黒と白の二人の世界

新しいスキル

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 ランさんがキノコグラタンを持ってきてくれた。

「美味しい。キノコの味と香りがしっかりしていてホワイトソースにも合う」
「レイがそこまで絶賛するのは凄いわね。ギルド前で食べた屋台の料理とは反応が全然違うわ。ねえ、ちょっと頂戴」

 彩乃は若干引き気味であったが、お腹が空いているのだろう。同じ料理を頼んだはずなので俺の分まで食べようとしてきた。しかしこんなことで揉めたくないのでスプーンで救った一口を彩乃の口元まで運ぶ。

「うん、美味い。鶏肉とかブロッコリーからも味が出てて本当に美味しい」

 どうやら彩乃の口にもあったようである。彩乃の料理が来るまで俺はおしゃべりをしてゆっくりと食べる。ここで無口になって彩乃の料理が来る前に食べ終わってしまったらデート失格である。

 美味しく楽しい食事を終わると俺は彩乃の部屋に行った。彩乃のスキルについて考えるのが目的だ。いかがわしいこともなければセクシーシーンもありはしない。子どもが見ても大丈夫な健全な場面だ。残念でした。

「俺は前衛で戦うスタイルで行くから彩乃は後方でそれを支援して欲しい」
「後方支援って具体的にはどんな事すればいいの?」
「んー、そうだね」

 少し考えて黒い端末でメモを取っていく。
『・ランさんにキノコグラタンのレシピを教えてもらう
 ・対象を見えなくする魔法
 ・相手の動きを封じる魔法
 ・魔法防御、物理防御
 ・長距離でも短距離でも使える攻撃方法(電撃?)』

 メモしたものを彩乃に見せる。

「キノコグラタン……気に入ったの?」

 もともとキノコは好きだ。俺は微笑み先を促すだけに留める。

「魔法でこんなこと出来るのかな?ギルドで教えてもらったんだけど魔法って自分が持っている魔力を火・水・風・土に変えたり、使役することって言ってたよ」
「黒い端末の性能は計り知れないし何とかならないかな?魔力を電気に変えることぐらいやってのけると思うんだけど」
「対象を見えなくする魔法って何に使うの?」

 それは彩乃が作った魔術具を戦場に撒いて見えないトラップを作るのだ。どんな魔術具が作れるのかはわからないが、何かしらの罠を仕掛けるのに見えると見えないのでは大きく違う、と思う。

 そのいい例が地雷だろうか?あれの原理は知らないが、多分振動を感知して爆発させたりするのだろう。もしくは重量を感知しているのかもしれない。そこは適当で良いが、要するにトラップは見えてしまったら誰も近寄らない。

 そのことを説明すると納得してくれた。

「魔術具ってどうやって作るの?」
「魔術具の効果を思い浮かべながら魔力を流すとできるよ。でも、素材の質とか使う魔力量によって魔術具の性能の幅も変わるみたい」

 指輪を魔術具を作る前に練習したという魔石を見せてくれる。
 大きさは大小それぞれで一見どれも同じように見えるが、その性能は違うらしい。魔石の質は大きければ良いというわけでもないらしい。

「魔術具を作るのって案外簡単?」
「どうだろ?ケイさんの話だと魔術具を作る職人がいるみたいだけど」
「ケイさん?」

 ケイさんは彩乃に魔法について教えてくれたギルド職員だそうだ。思うのだが、彩乃は友達作りが上手い。俺に教えて。

 魔術具を作る職人は生活に必要な光る魔石や水を出す魔石を作っているらしい。なんて素敵な仕事だろうか。尊敬する。人にではなく、仕事に。インフラ整備の仕事は好きだ。威張ってないのにすごく重要なところがいい。

「私の場合は黒い端末のスキルだから職人が作るのとは違うんだと思う」
「あー、それは考えられるね」

 その後も話を続け、一つだけスキルを買うことにした。

『<白雷びゃくらい> 指先から一直線上に細く白い雷を出す。』

 距離が関係なく撃てるので便利そうだ。あとは、ポイントを上げてから順次増やしていくことになった。やはりまずは攻撃手段があった方がいいと思いこのスキルにした。攻撃は最大の防御なのである。

「レイはどんなスキルを持ってるの?」
「銃は見たことあるよね?あれは、魔力で実弾を作って発射するスキルでスキルが使える五分間なら何発でも撃てるよ。使う魔力量によって威力も上下するね。あと、もう一つ細剣があってとにかく切れるようになってるよ」

 最後の方は物凄く省略したが大体そんな感じだ。難しいことはどうでもいい。俺も説明できるほど分かっていない。

「次スキルを買う時は防御壁を優先して買ってもらえる?」

 防御壁があれば魔物討伐に行っても危険が少なくなるだろう。彩乃には殺しより無力化の術をつけてもらいたい。まあ、それは俺の自己満足なんだと思うけどね。

 とりあえずそんな感じで話していると眠くなってきたので俺は席を立った。夜の挨拶をしてから自分の部屋に戻り、布団に入るとすぐに眠りにつく。おやすみ。一瞬で朝になった。おはよう。

 実際に朝夜が逆転したわけでなく寝ているとそう感じるだけということだ。

 俺は顔を洗ってから<着替えユニフォーム>で服を着替える。足元にあった白黒の光が半分くらい上がってきたときに思い出した。

「血っ!」

 光が消えるとすぐに服が汚れていたところをかくに、ん?

「汚れてない?血の臭いもしない」

 考えられることは、スキルで着替えると汚れがなかったことになるということか。そういえば、最近は髪もしっかり洗えてないのにごわごわしたりもしていない。服だけでなく身体の汚れも落とせるのなら黒い端末の力はやはり凄い。

 実験として袖を濡らしもう一度<着替えユニフォーム>を使い白い部屋着姿に戻るとさらに黒い服になる。

「乾いてる。濡れてない」

 乾いていた。これは凄い。どういう理由かは知らないが汚れがなかったことになり毎度新品同然の服を着ることになるのだ。ずっと同じ服というのはなんとも変な気分だが、汚れてもすぐにきれいにできるのならさほど問題あるまい。同じ服を何着も持っていると思えばいい。

 気分を切り替え、一階の食堂へ行く。昨日と同じ席に彩乃がいた。俺は彼女の元へ行くと服がきれいになった事実を雄弁に語り聞かせた。

 初めは驚いていたが、すぐに興味を無くしたのか。その後はつまらなそうにご飯を食べていた。申し訳ねえ。

 朝食を食べたあとは二人で冒険者ギルドへ向かう。昨日確認したときはゴブリン情報がなかったが、今朝はあった。

「ゴブリン討伐 報酬一五〇〇ドルか。昨日いたところから近いね」
「ゴブリン討伐を受けるの?」
「うん。昨日依頼を受けずに倒したからそれも消化したいしね」

 というわけで今日はゴブリン討伐をすることになった。一人ならば身体強化し走ればよいが彩乃もいるので馬車を借りる。

 目的地の近くまで行くと降ろしてもらいここからは歩いて行く。馬車を運転してくれたおじさんは日陰で休んでいるそうだ。

 実はこのおじさん、数年前まで冒険者をしていたらしくて魔物が来ても問題ないのだと豪語していた。心配だ。

 心配だが、俺にはどうしようもないので魔物が現れないことを祈って馬車から離れるようにとぼとぼと歩く。

 目指せ、ゴブリン討伐依頼達成。
 やるぞ、ゴブリン討伐依頼達成。
 絶対吐かないぞ、ゴブリン討伐気分最悪。
 彩乃の前だぞ、カッコつけていこう。

 さあ、始めますか!

 黒い端末の地図機能を使って昨日ゴブリンを見つけた場所を確認する。

「ん?彩乃見て」
「どうしたの。…なにこのマーク」

 ところどころあるいは密集してマークされていた。適当にそのマークを押せばゴブリンと吹き出しが出てくる。

「もしかして魔物の位置を表しているのかも。この密集しているところは昨日俺がゴブリンと戦ったところらへん」
「ちょっと数が多くない?」
「数は多いけど一体一体は弱いからそれほど問題はないかな。たとえば、木に登って上から銃と白雷で攻撃すれば向こうは手も足も出せず倒せるでしょう」
「そうなの?わかった。それじゃ行こっか」

 最悪、彩乃を抱えて逃げるよ、といいながら彼女の頭に手を置いてから先導するように森に入る。

 身長差があるとやりやすいんだろうけど、俺たちは悲しいことに同じくらいなものだからやりにくい。手を繋ぐのにはいい感じなんだろうけどね。それに、これはやる方も恥ずかしかったりするのだ。道化けていないとこんなことできない。自分が自分じゃないみたいだ。私はだれ。

 雑談も程々にして獣道を歩いていると、ゴブリンが密集しているところにたどり着いた。ここまでで既に七体のゴブリンを仕留めている。全部彩乃の白雷だ。一度も外すことなくゴブリンに穴をあけていた。器用である。

「それじゃ、木に登るから。目を閉じて」
「え?何するの。なんで目を…」

 一歩引けば一歩詰める。黒い端末を操作し、<強化ブースト>を掛ければ一瞬で彩乃をお姫様抱っこした。

「それじゃ行くよ」

 そういって一度のジャンプで手ごろな枝に飛びあがる。安全を確認し、彩乃を降ろした。

「目開けてたの?」
「うん。でも大丈夫だった」
「それなら良かった。落ちないように気を付けて。それから俺はそっちの木にいるから何かあったら大声で叫んで」

 それだけ伝えて二本先の木に行く。ゴブリンはまだ俺たちに気付いていない。アイテム袋から銃と細剣を取り出しスキルを使う。

 剣は木に刺して落ちないように支えにした。銃を近くのゴブリン目掛けれ発射する。開戦だ。

 突如一体のゴブリンが倒れると周りのゴブリンがそれに気付き騒ぎ出す。俺は心を落ち着けて次々と引き金を引いた。命中補正の性能があまり高くないからか当たる弾と当たらない弾があるが、敵の数は減っていく。

 少しずつ数を減らす俺の横では、白い雷が何体ものゴブリンを蹂躙していく。洞窟に近いゴブリンが一斉に洞窟内に駆け込むのが見えたがスルーした。

 俺がスルーしたゴブリン目掛けて黒い雷が横から放たれた。

「なに、あれ」

 彩乃が知らないうちにスキルを買っていたのだろう。黒い雷は広範囲に広がり、次々とゴブリンが倒れていく。辛うじて生き残ったゴブリンも彩乃の白雷で倒れた。

 俺は彩乃がいる木に飛ぶ。満足げな目でこちらを見ている彩乃がいた。

「さっきの黒い雷はなに?」
「<黒稲妻>っていうスキル。昨日レイが寝ちゃったあとに白雷以外にも広範囲に攻撃できる方がいいかなって思って買ってみたの。だめだった?」
「そんなことないよ。ちょっと驚いただけ」

 そもそも彼女のポイントは彼女が自由に使うべきポイントだ。俺が口を出す方が間違っている。

「洞窟の中にはまたゴブリンがいるけど行く?」

 そう言いながら地図上に映るゴブリンの反応を見せる。外にいた倍以上の反応だ。

「行くわ。まだいるのがわかっているのに帰れないでしょう」
「それもそうか。さっきの黒い雷、<黒稲妻>を洞窟の中に入れてもらえる?」
「わかったわ」

 俺たちは木から降り倒れているゴブリンを通り過ぎ洞窟の前に来る。

 彩乃の<黒稲妻>が吸い込まれるように洞窟の中に入っていく。なかなか強力で轟音とともにゴブリンの悲鳴のような声が聞こえた。

「それじゃ、行こうか。基本、彩乃に任せるよ。俺は撃ち漏らしたのを倒すから」

 役割を決めて中に入るとゴブリンの死体があちらこちらで転がっていた。回収しながら進むとそこそこ広い場所に出る。そこには生きているゴブリンがいた。この前倒したちょっと大きいゴブリン。ホブゴブリンだ。さらにホブゴブリンの後ろにある穴からより大きいゴブリンが出てくる。

 彩乃が一歩後退り、決意を決めたように顔を上げ<黒稲妻>を大きいゴブリン目掛けて飛ばす。

 大きいゴブリンは逃げることもせず黒稲妻を手で防いでみせた。だが、ホブゴブリンの方は防ぎきることができず倒れた。すぐには倒せなかったが動くこともできずにいると追い討ちの白い雷の一閃を喰らい絶命する。

「ぐおうぅぅぅぅ」

 怒り狂ったように吠え、ゴブリンは大きな剣を持ってこちらに走ってくる。

「彩乃、下がってて!」

 細剣に高周波を纏わせ、身体強化した身体で一歩前に出る。彩乃が下がったのを確認し、思い切り踏み込み走り出した。一瞬でゴブリンの懐に入り白く輝く高周波を纏った細剣で腕をなでる。

「がうううぅぅぅぅ」

 一旦引き、間合いを取ると細剣を顔の横に持っていき突きの構えをとった。

 ゴブリンは痛みに叫ぶとこちらを睨んでくる。ドスンと地面が揺れるような大きな物音が洞窟内に響いた。他にも何かが近づいているのかもしれない。

「終わらせるよ。彩乃、こいつに<白雷びゃくらい>を撃って、倒せなくても麻痺ぐらいはするでしょう」
「わ、わかったわ…<白雷>ッッッッ!!!」

 動きが鈍くなった瞬間に走り出し心臓目掛けて突く。突き専用スキル<万物貫通イクサクシス>だ。

 心臓を潰された大きいゴブリンは後ろに倒れる。倒したとみていいだろう。念のため少し様子を見る。

「レイッ!危ない!」

 彼女の声を聞き、咄嗟にその場を離れる。彩乃の隣まで来ると先ほど自分がいた方を睨んだ。

 大きさは先ほど倒したゴブリンと同じか一回り大きいくらい。だが、その内に秘めた魔力はなかなかに増大で自分の仲間を殺された怒りが今にも漏れ出さんばかりの表情でこちらを睨んでいる。

 俺は黒い端末を操作しすべてのスキルを再度使用可能にする。途中で時間切れにならないようにするためだ。俺の様子を見ていた彩乃もスキルを使い直し、アイテム袋から練習で作った魔術具の魔石を取り出す。

「レイ、これ。魔力を流すと火が出てくるようになってる」
「ありがとう。大切にするよ」

 わざと緊張と恐怖を緩和出来たらと思い、大切過ぎて使わずに倒しちゃっても怒らないでね、と言ってみる。

「ふふ、もうこんな時に冗談はやめて」

 どうやら成功したみたいだ。だが、火って効くのだろうか?

「彩乃は指輪の魔石で盾を作って、悪いけどあいつは俺が頂くよ!」

 目の前のゴブリン目掛けて最短距離を走る。右手に握る細剣に高周波を纏わせゴブリンの目の前で振り下ろす。

 ゴブリンは先ほど倒したゴブリンが持っていた剣を取り防ごうとした。

「その剣ごと切るから」

 剣を真っ二つにしゴブリンの体に大きく傷をつける。さすがに堅い。高周波を纏った剣で切られても傷は浅かった。

「それなら、これはどう?」

 <万物貫通イクサクシス>で足、腕、腹、胸を連続で突く。最後に彩乃から貰った火の魔術具を魔力を流して投げた。残念ながらゴブリンに火がつくことはなかったが、若干数秒の時間稼ぎ程度の目眩しにはなった。その間に一度距離を取り、彩乃に言う。

「<黒稲妻>を」

 彼女はこくりと頷くと指先から黒い雷が出てきてゴブリン目掛けて飛んでいく。その雷は大きいゴブリンを覆うように広がっていき動きを完全に封じた。

 細剣に高周波を纏わせ走り出す。ゴブリンは動かない。軽くジャンプしゴブリンの顔の位置まで上がると細剣を横薙ぎにして首を落とした。

 動かないのを確認すると彩乃が駆け寄ってくる。俺は手の平を彼女に向けるとハイタッチした。

 俺たち、なかなか良いパートナーではないだろうか。
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