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黒と白の二人の世界
パラサイト考察と調理器具
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「それじゃ、調理器具を買いに行くよ」
「レイはギルドに行かなくて大丈夫なの?昨日話してた魔物がどうなったのかもわからないし」
彩乃が言っているのはパラサイトのことだろう。正直関わりたくないのだが、たしかに気になるには気になる。パラサイトという情報もジジが言ったことで本当かわからない。
「少し寄ってみる?」
「私もちょっと気になる」
ジジも気になるとのことなのでギルドに行くことにする。
「彩乃さん、レイ君も来てもらえますか?」
クエストが提示されている掲示板を見ていたら知らない職員から声を掛けられた。
「ケイさん、どうされたんですか?」
ケイさんは、確か彩乃が魔法について教わった人だ。最近気づいてきたが、女性のギルド職員からは君付けされている。他の冒険者はさん付けや呼び捨てなのに俺だけ君付けというのも変だ。
「レイ君が昨日受けた依頼の報告を元にギルドの方で話し合った結果ミニオンはパラサイトに寄生されかかっているという結論になりました」
どうやらジジの考えと一緒らしい。魔物博士ジジ、恐るべし知識量だ。
「パラサイトに寄生されるとどうなる」
「パラサイトは植物に寄生することがほとんどなのですが、稀に動物にも寄生します。寄生された動物はパラサイトに栄養を吸い取られ生きていけません」
ミニオンが苦しんでいたのは、パラサイトを体内から追い出そうとしていたからか。あれから一晩経っているしもう寄生も完了しているかもしれない。
「これからどうする?下手に討伐しようとしたら次は人に寄生するんじゃないの?」
「問題はそこです。二日後からミニオンの様子を調査する依頼を出す予定なのですが何があるかわかりません。ギルドとしてはレイ君たちにお願いしたいと思っているのですが、引き受けてもらえませんか?」
あの林には蛇がたくさんいたから彩乃やジジは危ないかもしれない。それにジジの戦闘力は何も知らないのだ。
「見に行くだけ?あの辺りはバイパーって魔物がたくさんいたから出来れば遠慮したいけど」
「そうですか、わかりました。もし引き受けていただけるのでしたらいつでも言ってください」
ペコリと軽くお辞儀をして去っていく。見に行ってパラサイトに寄生でもされたら堪ったものではないので遠慮したい。それに不可解な点もある。
「ジジ、パラサイトはどんな形をした魔物か知ってる?」
「パラサイトに形はないよ。絶えず生物に寄生して栄養を吸収し続けないといけないなくて、多分誰も見たことない。たぶん見えないくらい小さいんだと思う」
形がない魔物。<魔物探知地図>にも映らなかったところを見れば魔物でもないのかもしれない。たとえば、細菌とか。
「寄生というより感染に近いのかも。パラサイトは<魔物探知地図>に映らなかった。寄生力が強くて栄養を吸い取る細菌を魔物と言ってるだけなら人の目にはわからないのも頷ける」
唯一、救いがあるとしたら増殖しにくいということか?
生物を絶命させるほどの栄養を吸い取るなら増殖しているかもしれないがあの場にいた俺は今のところ問題はない。
「もしレイが言っていることが本当なら手の出しようがないと思うわよ?消毒液を撒くぐらい?」
「サイキンってなに?」
「細菌は人の目には映らないくらい小さな菌よ。いろいろいるけど人に感染すると風邪をひいたり体調が悪くなったりするわ」
ジジの疑問に彩乃が答える。もしパラサイトが寄生力が強い細菌のようなものなら形がないというのも頷ける。
「仮説を立てても仕方ないね。増殖しないことを祈ろう」
「依頼は受けないの?」
「今の俺たちに出来ることはないよ」
「少なくともレイの仮説をギルドには報告しておいた方がいいと思うわ。知らずに他の冒険者が受けて感染したらこの街は終わりよ」
それもそうか。ミニオンがいた場所にいた俺に何もないということは空気感染ではないと思うが他の冒険者が接触して感染するという可能性も考えられる。
「ケイさん、少しいい?」
「どうしましたか。パラサイトの調査受けてくれるんですか?」
期待しているところ悪いがそれはできない。
「俺たちにはちょっと無理かな」
「そうですか」
そう残念そうな顔をしても出来ないものは出来ない。自分の力量を正しく推し量らないと命を落としかねない。
そして、家を建てた今、ここで死ぬ訳にはいかない。
「でも、そのパラサイトについて話したいことがある。聞いてくれる?」
「は、はい。あっ、少し待ってもらっていいですか?ギルドマスターを呼んできます」
ケイさんはいそいそとギルドマスターを呼びに行く。ギルドの方は今回の事態を思った以上に重く受け止めているらしい。
「レイ君。ギルドマスターの部屋まで来てもらえますか?」
戻ってきたケイさんに案内され俺たち三人はギルマス部屋に入る。
「ん?そっちの嬢ちゃんは誰だ」
「俺たちの新しい仲間だよ。ジジは魔物に詳しくていろいろ聞いて俺たちの方でも考えたんだけど」
ジジを紹介してから接客用の椅子に座り、パラサイトの正体について考察を述べる手筈だ。
「パラサイトってどうやって寄生するか知ってる?」
「いや、わからない。そもそもパラサイトを見たものはいない。たまに木々や魔物が枯れ果てているがこれはパラサイトの仕業ではないかと考えられているだけだ」
やはりパラサイトが魔物と誤認されているだけなのかもしれないな。馬鹿らしい話だけど。
「ギルドマスターは、細菌やウイルスって知ってますか?」
どう説明しようかと思っていると横に座る彩乃がギルマスに問う。
「なんだそれは、知らないな」
「俺たちはパラサイトの正体は魔物ではなくウイルスに類するものと考えている。ウイルスというのは人の目には見えないくらい小さく、人や動物に感染して栄養を吸い取ることで自分を分裂させ増殖するんだ」
あまり詳しいことは知らないので一般的な知識だけになるが彩乃もたまに補足説明を加えてくるのでなんとか説明していく。
「つまり、パラサイトがウイルスの一種なら人を近づけるのはやめた方が良い。下手に近づけばこの街にいる人全員、感染した商人が他の街へ行けばさらにパラサイトが広がる可能性がある」
元の世界でも世界的な感染が流行することがあった。日本史上でも天然痘は良く起こり多くの者が死んだと習ったことがある。
「お前たちの話はわかった。パラサイトの正体も確かにそれで説明は付く。だが、どうすれば良い?何もせずにパラサイトが消えるのを待つしかないのか」
正体が分かっても対処の仕様がない。消毒薬もないのだ。
「そこは俺たちもわからない。パラサイトを抹消する術がないからな。出来るとしたらミニオンのアジトになっている辺りを燃やし尽くすくらいじゃないか?」
周りには木も多く生えているし山火事になる危険もある。人はいないだろうが、動物や魔物は生活の場が無くなり困るだろう。それで人里に来られても嫌だ。
「私は騎士団に出てもらった方が良いと思うわ。貴族は冒険者が持っていない魔術具をたくさん持っていたからもしかしたら対応できるかもしれないもの」
「そうだな。領主に報告をしそれから決めよう」
冒険者に依頼を出すのを一旦阻止したので一安心だ。念のため冒険者や商人に湖の近くには行かないように広めてもらうことになった。
「私たちの話信じてもらえてよかったわね」
「そうだね。本当のことかもわからないはずなのに」
ギルドを出ると鍛冶屋が多くある一角に移動する。その中でフライパンや鍋を売っている店に入った。
「ジジは好きな料理とかある?」
「私は焼いたお魚が好き。香ばしいバターの匂いがして凄く美味しいの」
ムニエルのことかな?ムニエルってどんな魚を使うんだろ?やっぱり焼き魚なら醤油が欲しいよな。そうなると米もあるといいんだけど。
そう言えば、ポイントでおにぎりを買ったことあるな。
確か初めて彩乃に会った時だ。彼女も日本から来たと知った俺はおにぎりを買って渡した気がする。ということはこの世界にもあるのかもしれない、米が。
「ジジはお米って知ってる?この街では見たことないけど」
「お米?知らない、それは食べ物なの?」
「やっぱりレイもご飯食べたいよね!」
ジジと話していると料理器具を見ていた彩乃が話に入って来た。ちなみに俺は圧倒的なパン派だ。ご飯とパンを並べられたら迷わずパンを取る。
「パンしかないとご飯が恋しくなるね。焼き魚ならやっぱりご飯で食べたい」
人は失ってからその価値を知るときがある。魚だけ残ると猶更だ。
「それはどんな食べ物なの?」
「んー、なんていうのかしら。もともとは小麦みたいに稲なんだけど精米していくと白くなって美味しいのよ」
確かに米を知らない人に米を説明するのは難しいな。ジジもまだわからない感じだ。
「米か、懐かしいな。だが、嬢ちゃんが言ったような白いものじゃなかったな」
店の奥から男性が出てきて話しかけてきた。どうやら米を知っているらしい。
「それ本当?どこにあるの?」
「さあな。俺もだいぶ前に食べたことがあるくらいだから」
わからないらしい。でもあるのだ。米が。是非欲しい。探すか。
「彩乃、ジジ。生活に慣れてきたら王都に行ってみよう。王都には色んなものがあるって聞いたことがある」
「賛成よ。他の街にも行ってみたいわ」
「わ、私も行きたい!」
ジジが自分の存在を主張するように大きく手を挙げた。
みんな観光旅行が好きなようだ。楽しみが増える。王都、どんな街かな。米の有無も気になるし今度領主に聞いてみよう。色々知ってそうだ。知らないことは調べてくれそうだし、便利だ。
「おじさん、フライパンや鍋ってどれが良いかな?なるべく軽い方が良いんだけど」
「そうだな。これとかいいじゃないか?取っ手の部分が熱くならないようになっている」
どんな調理器具がいいか説明を聞きながら皆で相談していろいろと買ってみた。フライパンと鍋、ボール、包丁、御玉、フライ返しなど様々だ。
「包丁は数本あったほうがいいよね。みんなで料理できるし食材ごとにいちいち洗うのも大変だから」
「そうね、鍋も大きいのと小さいのがあった方がいいと思うわ」
「…なにを買えばいいのかわからないよ」
俺と彩乃が欲しいものを言いながら買うものを決めるが、ジジは料理をしたことがないためどれが必要なのかわからない様子だ。
「これだけあればいいじゃないかな。ちょっと多い気がするけど」
「一気にこんなに買うのか?金属を使っているから高いぞ?」
これくらいなら買える金は残っている。また魔物討伐して稼がなければならないだろうが、宿代が必要なくなり食事も自分たちでするようになるので節約にもなるだろう。
明日からは本格的に仕事開始だ。
「レイはギルドに行かなくて大丈夫なの?昨日話してた魔物がどうなったのかもわからないし」
彩乃が言っているのはパラサイトのことだろう。正直関わりたくないのだが、たしかに気になるには気になる。パラサイトという情報もジジが言ったことで本当かわからない。
「少し寄ってみる?」
「私もちょっと気になる」
ジジも気になるとのことなのでギルドに行くことにする。
「彩乃さん、レイ君も来てもらえますか?」
クエストが提示されている掲示板を見ていたら知らない職員から声を掛けられた。
「ケイさん、どうされたんですか?」
ケイさんは、確か彩乃が魔法について教わった人だ。最近気づいてきたが、女性のギルド職員からは君付けされている。他の冒険者はさん付けや呼び捨てなのに俺だけ君付けというのも変だ。
「レイ君が昨日受けた依頼の報告を元にギルドの方で話し合った結果ミニオンはパラサイトに寄生されかかっているという結論になりました」
どうやらジジの考えと一緒らしい。魔物博士ジジ、恐るべし知識量だ。
「パラサイトに寄生されるとどうなる」
「パラサイトは植物に寄生することがほとんどなのですが、稀に動物にも寄生します。寄生された動物はパラサイトに栄養を吸い取られ生きていけません」
ミニオンが苦しんでいたのは、パラサイトを体内から追い出そうとしていたからか。あれから一晩経っているしもう寄生も完了しているかもしれない。
「これからどうする?下手に討伐しようとしたら次は人に寄生するんじゃないの?」
「問題はそこです。二日後からミニオンの様子を調査する依頼を出す予定なのですが何があるかわかりません。ギルドとしてはレイ君たちにお願いしたいと思っているのですが、引き受けてもらえませんか?」
あの林には蛇がたくさんいたから彩乃やジジは危ないかもしれない。それにジジの戦闘力は何も知らないのだ。
「見に行くだけ?あの辺りはバイパーって魔物がたくさんいたから出来れば遠慮したいけど」
「そうですか、わかりました。もし引き受けていただけるのでしたらいつでも言ってください」
ペコリと軽くお辞儀をして去っていく。見に行ってパラサイトに寄生でもされたら堪ったものではないので遠慮したい。それに不可解な点もある。
「ジジ、パラサイトはどんな形をした魔物か知ってる?」
「パラサイトに形はないよ。絶えず生物に寄生して栄養を吸収し続けないといけないなくて、多分誰も見たことない。たぶん見えないくらい小さいんだと思う」
形がない魔物。<魔物探知地図>にも映らなかったところを見れば魔物でもないのかもしれない。たとえば、細菌とか。
「寄生というより感染に近いのかも。パラサイトは<魔物探知地図>に映らなかった。寄生力が強くて栄養を吸い取る細菌を魔物と言ってるだけなら人の目にはわからないのも頷ける」
唯一、救いがあるとしたら増殖しにくいということか?
生物を絶命させるほどの栄養を吸い取るなら増殖しているかもしれないがあの場にいた俺は今のところ問題はない。
「もしレイが言っていることが本当なら手の出しようがないと思うわよ?消毒液を撒くぐらい?」
「サイキンってなに?」
「細菌は人の目には映らないくらい小さな菌よ。いろいろいるけど人に感染すると風邪をひいたり体調が悪くなったりするわ」
ジジの疑問に彩乃が答える。もしパラサイトが寄生力が強い細菌のようなものなら形がないというのも頷ける。
「仮説を立てても仕方ないね。増殖しないことを祈ろう」
「依頼は受けないの?」
「今の俺たちに出来ることはないよ」
「少なくともレイの仮説をギルドには報告しておいた方がいいと思うわ。知らずに他の冒険者が受けて感染したらこの街は終わりよ」
それもそうか。ミニオンがいた場所にいた俺に何もないということは空気感染ではないと思うが他の冒険者が接触して感染するという可能性も考えられる。
「ケイさん、少しいい?」
「どうしましたか。パラサイトの調査受けてくれるんですか?」
期待しているところ悪いがそれはできない。
「俺たちにはちょっと無理かな」
「そうですか」
そう残念そうな顔をしても出来ないものは出来ない。自分の力量を正しく推し量らないと命を落としかねない。
そして、家を建てた今、ここで死ぬ訳にはいかない。
「でも、そのパラサイトについて話したいことがある。聞いてくれる?」
「は、はい。あっ、少し待ってもらっていいですか?ギルドマスターを呼んできます」
ケイさんはいそいそとギルドマスターを呼びに行く。ギルドの方は今回の事態を思った以上に重く受け止めているらしい。
「レイ君。ギルドマスターの部屋まで来てもらえますか?」
戻ってきたケイさんに案内され俺たち三人はギルマス部屋に入る。
「ん?そっちの嬢ちゃんは誰だ」
「俺たちの新しい仲間だよ。ジジは魔物に詳しくていろいろ聞いて俺たちの方でも考えたんだけど」
ジジを紹介してから接客用の椅子に座り、パラサイトの正体について考察を述べる手筈だ。
「パラサイトってどうやって寄生するか知ってる?」
「いや、わからない。そもそもパラサイトを見たものはいない。たまに木々や魔物が枯れ果てているがこれはパラサイトの仕業ではないかと考えられているだけだ」
やはりパラサイトが魔物と誤認されているだけなのかもしれないな。馬鹿らしい話だけど。
「ギルドマスターは、細菌やウイルスって知ってますか?」
どう説明しようかと思っていると横に座る彩乃がギルマスに問う。
「なんだそれは、知らないな」
「俺たちはパラサイトの正体は魔物ではなくウイルスに類するものと考えている。ウイルスというのは人の目には見えないくらい小さく、人や動物に感染して栄養を吸い取ることで自分を分裂させ増殖するんだ」
あまり詳しいことは知らないので一般的な知識だけになるが彩乃もたまに補足説明を加えてくるのでなんとか説明していく。
「つまり、パラサイトがウイルスの一種なら人を近づけるのはやめた方が良い。下手に近づけばこの街にいる人全員、感染した商人が他の街へ行けばさらにパラサイトが広がる可能性がある」
元の世界でも世界的な感染が流行することがあった。日本史上でも天然痘は良く起こり多くの者が死んだと習ったことがある。
「お前たちの話はわかった。パラサイトの正体も確かにそれで説明は付く。だが、どうすれば良い?何もせずにパラサイトが消えるのを待つしかないのか」
正体が分かっても対処の仕様がない。消毒薬もないのだ。
「そこは俺たちもわからない。パラサイトを抹消する術がないからな。出来るとしたらミニオンのアジトになっている辺りを燃やし尽くすくらいじゃないか?」
周りには木も多く生えているし山火事になる危険もある。人はいないだろうが、動物や魔物は生活の場が無くなり困るだろう。それで人里に来られても嫌だ。
「私は騎士団に出てもらった方が良いと思うわ。貴族は冒険者が持っていない魔術具をたくさん持っていたからもしかしたら対応できるかもしれないもの」
「そうだな。領主に報告をしそれから決めよう」
冒険者に依頼を出すのを一旦阻止したので一安心だ。念のため冒険者や商人に湖の近くには行かないように広めてもらうことになった。
「私たちの話信じてもらえてよかったわね」
「そうだね。本当のことかもわからないはずなのに」
ギルドを出ると鍛冶屋が多くある一角に移動する。その中でフライパンや鍋を売っている店に入った。
「ジジは好きな料理とかある?」
「私は焼いたお魚が好き。香ばしいバターの匂いがして凄く美味しいの」
ムニエルのことかな?ムニエルってどんな魚を使うんだろ?やっぱり焼き魚なら醤油が欲しいよな。そうなると米もあるといいんだけど。
そう言えば、ポイントでおにぎりを買ったことあるな。
確か初めて彩乃に会った時だ。彼女も日本から来たと知った俺はおにぎりを買って渡した気がする。ということはこの世界にもあるのかもしれない、米が。
「ジジはお米って知ってる?この街では見たことないけど」
「お米?知らない、それは食べ物なの?」
「やっぱりレイもご飯食べたいよね!」
ジジと話していると料理器具を見ていた彩乃が話に入って来た。ちなみに俺は圧倒的なパン派だ。ご飯とパンを並べられたら迷わずパンを取る。
「パンしかないとご飯が恋しくなるね。焼き魚ならやっぱりご飯で食べたい」
人は失ってからその価値を知るときがある。魚だけ残ると猶更だ。
「それはどんな食べ物なの?」
「んー、なんていうのかしら。もともとは小麦みたいに稲なんだけど精米していくと白くなって美味しいのよ」
確かに米を知らない人に米を説明するのは難しいな。ジジもまだわからない感じだ。
「米か、懐かしいな。だが、嬢ちゃんが言ったような白いものじゃなかったな」
店の奥から男性が出てきて話しかけてきた。どうやら米を知っているらしい。
「それ本当?どこにあるの?」
「さあな。俺もだいぶ前に食べたことがあるくらいだから」
わからないらしい。でもあるのだ。米が。是非欲しい。探すか。
「彩乃、ジジ。生活に慣れてきたら王都に行ってみよう。王都には色んなものがあるって聞いたことがある」
「賛成よ。他の街にも行ってみたいわ」
「わ、私も行きたい!」
ジジが自分の存在を主張するように大きく手を挙げた。
みんな観光旅行が好きなようだ。楽しみが増える。王都、どんな街かな。米の有無も気になるし今度領主に聞いてみよう。色々知ってそうだ。知らないことは調べてくれそうだし、便利だ。
「おじさん、フライパンや鍋ってどれが良いかな?なるべく軽い方が良いんだけど」
「そうだな。これとかいいじゃないか?取っ手の部分が熱くならないようになっている」
どんな調理器具がいいか説明を聞きながら皆で相談していろいろと買ってみた。フライパンと鍋、ボール、包丁、御玉、フライ返しなど様々だ。
「包丁は数本あったほうがいいよね。みんなで料理できるし食材ごとにいちいち洗うのも大変だから」
「そうね、鍋も大きいのと小さいのがあった方がいいと思うわ」
「…なにを買えばいいのかわからないよ」
俺と彩乃が欲しいものを言いながら買うものを決めるが、ジジは料理をしたことがないためどれが必要なのかわからない様子だ。
「これだけあればいいじゃないかな。ちょっと多い気がするけど」
「一気にこんなに買うのか?金属を使っているから高いぞ?」
これくらいなら買える金は残っている。また魔物討伐して稼がなければならないだろうが、宿代が必要なくなり食事も自分たちでするようになるので節約にもなるだろう。
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