ひとり旅

ゴン君

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#2 峠パーティー

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 脱社会人プロジェクト当日、前日に準備したカバンを背負い上げて、お気に入りの車に乗り込む。早く、解放されたいの思いが先走ったせいで、太陽の顔が見える前に乗り込んでいたことなど、お構いなしにアイドリングを開始していた。洗車も燃料も満タン、自由金の万全。車から出て、下回りLEDを眺めながら、いい回転数になって再び車に乗り込んだ。
 カバンにもシートベルトを付けて、車を発進させた。いつもは、この道を右に曲がるのだが、今日は左に曲がるこの瞬間に興奮を抑えきれず車の中一人で怪しい笑みを浮かべていたのだろう。対向車線を通り過ぎて行ったトラック運転手がもし俺の顔を見えていたら気味悪がられたと今では思うが、当時の俺には解放された感覚が嬉しくて笑みが止まらなかった。

 峠に差し掛かる。初めて来る道に緊張と不安を抱きながらも、法定速度で峠に挑む。譲り車線にすぐに入り、後ろの車を先に行かせるが、思いっきり吹かしながら、抜かすのでそんなにイラ立っていたのか。仕事で、峠を何度も使うなんて羨ましいな。自由な選択肢の中から、自分のルートを見つけるのは、実に楽しそうだな。なんて考えていたが、争いなんてしようなど考えていなかった。自由がない俺なら、その行動にも頭に血が登るだろうに、水を得た魚のように機嫌がほんとによかった。

 昨日の祝いに食べた、食べ物が余っていたのを途中で思い出し、峠の急カーブなのに関わらず、カバンの中を漁り当てる。直進に戻るタイミングで、食べ物を取り上げ、器用に片手で食べ始めるも自分の中ではそれすら幸せに思ってしまっていた。この瞬間は、些細な事すら全てにおいて幸せに感じて、この世に生まれた喜びを全身で表現する事が出来ていた。
 峠の中部に差し掛かり、展望台もあるので、運転休憩タイムを自ら作るのもこの、自由な世界の贅沢な一つだと心が喜んでいた。体感時間は、そこまで経っていないのに気が付けば車のライトは不要にまで明るくなっていた。
 車の外に出ると、峠ならではの冷たいような空気を肺にたっくさん吸い込み「俺は自由だ!!」周囲が居ようが居ないだろうが、お構いなしに大声で叫んでいた。
 きっと、その場に誰かが居ても清々しい顔を浮かべてニコッと笑顔をしているだけだろう。周囲の顔色など気にしない瞬間は、ほんとに気分のいいもの過ぎて涙が出る程だった。

 その後、周囲を見るとベンチすらないので自分の車をオープンにして、靴を脱いで背もたれにお尻を乗っけて、昨日買い過ぎた甘い飲物と食べ物を口に入れながら、優雅に雲の動きを眺めていた。これぞ、オープンカーの特権。風を肌で感じれるこの雰囲気も、この車の特権なのだ。

 休憩を終えて、峠の最終局面に差し掛かり、街の方面へ車を走らせた。

 ちなみに休憩中からはずっとオープンで走っていたのはここだけの秘密で!
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