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一.夫が美しい青年になりました
2.ミリアの過去
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ミリアが物心のついた頃には、人里から離れた場所にある孤児院で暮らしていた。
自分の生い立ちについて気になる時期もあったが、考えても仕方がない、とすぐに割り切った。
孤児院を経営する神父とその家族、自分と同じ境遇の子供たちに囲まれ、ミリアは貧しくも充実した日々を送っていた。
自分よりも幼い子供たちの世話をしたり、農作業に精を出し、出来上がった作物を街へ売り出しにと。真面目なミリアは不満の一つも言う事無く、共に暮らす家族のために、自分が出来る事に精一杯励んだ。
そんなミリアが十六を迎えた時、美しく成長した彼女とぜひ結婚したいと、多くの貴族が名乗りをあげた。
最初は知らない相手との結婚を渋っていたミリアだったが、孤児院の経営難を知り、気持ちを改めた。
そして孤児院に多額の寄付金を贈ると申し出た、当時伯爵位を継いだばかりのケビンとの結婚を決意したのだった。
だが、そんな二人の結婚生活はすぐに暗転した。
ミリアは美人で優しい性格であったが、感情表現が乏しく言葉数も少なかった。
ケビンの話を、お手本のような微笑みで聞きながら相槌を打つだけで、その会話も長く続かなかった。
最初はベタ惚れだったケビンも、次第にミリアをつまらない女だと思うようになった。
二人が結婚して半年後――。
ケビンは顔見知りの人間にそそのかされ、ギャンブルに手を出し大きな損失を背負い、爵位も剥奪された。
反対を押し切りミリアと結婚したケビンは親からも見放され、二人を助けてくれる人物は誰もいなかった。
居場所を失い、逃げるように首都から離れた二人は辺境にある小さな村へと行きついた。
そこで空き家となっていた古びた家を住処として、ほそぼそと暮らし始めた。
それまでの贅沢な暮らしは一変し、使用人も居ない地味な生活。
家のあちこちは劣化が酷く、雨の日はあちこちからの雨漏りに悩まされる日々。
それでも、ミリアはこれまでの経験を生かして村の農作業を手伝い、生計を立て始めた。
一方でケビンはというと、平民の暮らしに耐えられず、積み重なった苛立ちは暴言、暴力となりミリアに発散するようになっていた。
そのくせ働きもせず、家で自堕落な生活を送りながら、ふらっと何処かへ出かけていく。
そして帰って来た時には、女性が身に付ける香水と思われる香りを体から漂わせていた。
あからさまに不貞を働く夫。
それを知っても、ミリアは何も言わず、自分の夫を見放す事もしなかった。
ミリアは毎日、生活に必要な水を確保するため、荷車を引いて村に隣接する森にある泉へと足を運んだ。
村に井戸はあるのだが、ケビンの横柄な態度に腹を立てた村長が、二人に対して井戸の使用許可を出さなかったため、自分たちで水を確保するしかなかった。
たとえどんなに天候が荒れていたとしても……体調が優れなくとも――ミリアは毎朝足しげく泉へ通い続けた。
そんなミリアを、ケビンは一度も手伝った事などなかった。
そんな薄情な夫が今日、一緒に泉へ行くと言い出したのだ。
今まで自分を気に掛けた事もなかった夫が、急にそんな事を言い出したので、さすがにミリアも驚いた。
だが、それ以上に嬉しい気持ちで満たされた。
もしかしたら、これからは二人で協力し合って生活していけるのではと、淡い期待を抱いた。
そんなミリアの気持ちをこの男は一瞬で裏切った。
泉に到着し、水を汲もうとしたミリアを背後から襲い掛かり――殺そうとしたのだ。
自分の生い立ちについて気になる時期もあったが、考えても仕方がない、とすぐに割り切った。
孤児院を経営する神父とその家族、自分と同じ境遇の子供たちに囲まれ、ミリアは貧しくも充実した日々を送っていた。
自分よりも幼い子供たちの世話をしたり、農作業に精を出し、出来上がった作物を街へ売り出しにと。真面目なミリアは不満の一つも言う事無く、共に暮らす家族のために、自分が出来る事に精一杯励んだ。
そんなミリアが十六を迎えた時、美しく成長した彼女とぜひ結婚したいと、多くの貴族が名乗りをあげた。
最初は知らない相手との結婚を渋っていたミリアだったが、孤児院の経営難を知り、気持ちを改めた。
そして孤児院に多額の寄付金を贈ると申し出た、当時伯爵位を継いだばかりのケビンとの結婚を決意したのだった。
だが、そんな二人の結婚生活はすぐに暗転した。
ミリアは美人で優しい性格であったが、感情表現が乏しく言葉数も少なかった。
ケビンの話を、お手本のような微笑みで聞きながら相槌を打つだけで、その会話も長く続かなかった。
最初はベタ惚れだったケビンも、次第にミリアをつまらない女だと思うようになった。
二人が結婚して半年後――。
ケビンは顔見知りの人間にそそのかされ、ギャンブルに手を出し大きな損失を背負い、爵位も剥奪された。
反対を押し切りミリアと結婚したケビンは親からも見放され、二人を助けてくれる人物は誰もいなかった。
居場所を失い、逃げるように首都から離れた二人は辺境にある小さな村へと行きついた。
そこで空き家となっていた古びた家を住処として、ほそぼそと暮らし始めた。
それまでの贅沢な暮らしは一変し、使用人も居ない地味な生活。
家のあちこちは劣化が酷く、雨の日はあちこちからの雨漏りに悩まされる日々。
それでも、ミリアはこれまでの経験を生かして村の農作業を手伝い、生計を立て始めた。
一方でケビンはというと、平民の暮らしに耐えられず、積み重なった苛立ちは暴言、暴力となりミリアに発散するようになっていた。
そのくせ働きもせず、家で自堕落な生活を送りながら、ふらっと何処かへ出かけていく。
そして帰って来た時には、女性が身に付ける香水と思われる香りを体から漂わせていた。
あからさまに不貞を働く夫。
それを知っても、ミリアは何も言わず、自分の夫を見放す事もしなかった。
ミリアは毎日、生活に必要な水を確保するため、荷車を引いて村に隣接する森にある泉へと足を運んだ。
村に井戸はあるのだが、ケビンの横柄な態度に腹を立てた村長が、二人に対して井戸の使用許可を出さなかったため、自分たちで水を確保するしかなかった。
たとえどんなに天候が荒れていたとしても……体調が優れなくとも――ミリアは毎朝足しげく泉へ通い続けた。
そんなミリアを、ケビンは一度も手伝った事などなかった。
そんな薄情な夫が今日、一緒に泉へ行くと言い出したのだ。
今まで自分を気に掛けた事もなかった夫が、急にそんな事を言い出したので、さすがにミリアも驚いた。
だが、それ以上に嬉しい気持ちで満たされた。
もしかしたら、これからは二人で協力し合って生活していけるのではと、淡い期待を抱いた。
そんなミリアの気持ちをこの男は一瞬で裏切った。
泉に到着し、水を汲もうとしたミリアを背後から襲い掛かり――殺そうとしたのだ。
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