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一.夫が美しい青年になりました
10.泉の前で
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二人が出会う場所となった泉へは、村から歩いてもさほど時間はかからない。
それなのに、ミリアが泉で村人と出会う事は一度もなかった。
今思えば、水神様が出現するくらいだから、よほど神聖な場所だったのだろう……と、軽率な行動を取ってしまった自分を恥ずかしく思った。
(でも、水神様は怒っていなかったみたいだったし……アクアまで授けてくださったのだから、きっと大丈夫よね……)
だけど、もしもう一度会えたのなら、改めて感謝を伝えなければ……と、アクアに手を引かれながら、ミリアはそう決めていた。
◇◇◇
空から降り注ぐ木漏れ日を浴び、緩やかに揺らぐ水面が光を反射しキラキラと煌めいている。
もう何度訪れたかも分からない泉を前にして、ミリアは気持ちが安らいでいくのを感じた。
「懐かしい……なんだか、もうずいぶんと来ていなかった気がします」
「そうだね。しばらく顔を出さなかったから、水神様に怒られそうだな」
苦笑いしながら、冗談っぽく言うアクアも泉を前にして嬉しそうにしている。
そして呆れるように呟いた。
「まあ、あの人の事だから、どうせ僕たちの様子は見られていただろうけどね」
「え……? 見られていた……?」
「ああ、あの人は自分が気に入った相手の生活をたびたびのぞき見しているんだよ。悪趣味だろう」
「……のぞき見……?」
笑顔でさらりと告げられた言葉に、ミリアは衝撃を受ける。
「え……それじゃあ……もしかして私たちの事も、水神様は見ていらしたと……?」
「そうだね。何度か見られていたと思うよ」
「……そうなのですか!?」
思わずミリアは泉に向かって問いかけるが、泉からは何の反応も見られない。
アクアが思わず噴き出すと、笑いながらミリアに言う。
「ははっ……無駄だよ。あの人はある条件を満たさないと姿を現わさないんだ」
「ある条件……?」
「うん。だけど、あまり不用意に呼び出さない方がいい。触らぬ神に祟りなし、ってやつだね」
「……?」
アクアの言っている事はよく分からなかったが、とりあえず水神様に会うのは難しいのだとミリアは理解した。
するとアクアは泉のすぐ前まで近付き、その場に腰を下ろした。
その隣で、ミリアも同じようにして草むらに腰を掛けた。
それからしばらくの間、沈黙の時間が続き――アクアが口を開いた。
「ミリアは、僕が水神様の手によって作られた存在だと思っているみたいだけど……僕は元々は人間だったんだ」
「え……そうなのですか?」
「ああ。僕もあの村の住人だったんだ」
「……!」
(でも……村の人たちはアクアを見て何も言わなかったわ……)
驚きに目を見開くミリアに柔らかく微笑み、アクアは穏やかな口調で続けた。
「もうずっと昔の話になるから、僕を知る人はいないんだ」
「……」
驚く事ばかりだが、ミリアは静かにアクアの話に耳を傾けた。
少し切なげな表情を浮かべたアクアがゆっくりと告げた。
「僕は昔、婚約者に殺されてこの泉に捨てられたんだ」
「……!?」
その衝撃的な告白から始まり――アクアは自分の過去を語り始めた。
それなのに、ミリアが泉で村人と出会う事は一度もなかった。
今思えば、水神様が出現するくらいだから、よほど神聖な場所だったのだろう……と、軽率な行動を取ってしまった自分を恥ずかしく思った。
(でも、水神様は怒っていなかったみたいだったし……アクアまで授けてくださったのだから、きっと大丈夫よね……)
だけど、もしもう一度会えたのなら、改めて感謝を伝えなければ……と、アクアに手を引かれながら、ミリアはそう決めていた。
◇◇◇
空から降り注ぐ木漏れ日を浴び、緩やかに揺らぐ水面が光を反射しキラキラと煌めいている。
もう何度訪れたかも分からない泉を前にして、ミリアは気持ちが安らいでいくのを感じた。
「懐かしい……なんだか、もうずいぶんと来ていなかった気がします」
「そうだね。しばらく顔を出さなかったから、水神様に怒られそうだな」
苦笑いしながら、冗談っぽく言うアクアも泉を前にして嬉しそうにしている。
そして呆れるように呟いた。
「まあ、あの人の事だから、どうせ僕たちの様子は見られていただろうけどね」
「え……? 見られていた……?」
「ああ、あの人は自分が気に入った相手の生活をたびたびのぞき見しているんだよ。悪趣味だろう」
「……のぞき見……?」
笑顔でさらりと告げられた言葉に、ミリアは衝撃を受ける。
「え……それじゃあ……もしかして私たちの事も、水神様は見ていらしたと……?」
「そうだね。何度か見られていたと思うよ」
「……そうなのですか!?」
思わずミリアは泉に向かって問いかけるが、泉からは何の反応も見られない。
アクアが思わず噴き出すと、笑いながらミリアに言う。
「ははっ……無駄だよ。あの人はある条件を満たさないと姿を現わさないんだ」
「ある条件……?」
「うん。だけど、あまり不用意に呼び出さない方がいい。触らぬ神に祟りなし、ってやつだね」
「……?」
アクアの言っている事はよく分からなかったが、とりあえず水神様に会うのは難しいのだとミリアは理解した。
するとアクアは泉のすぐ前まで近付き、その場に腰を下ろした。
その隣で、ミリアも同じようにして草むらに腰を掛けた。
それからしばらくの間、沈黙の時間が続き――アクアが口を開いた。
「ミリアは、僕が水神様の手によって作られた存在だと思っているみたいだけど……僕は元々は人間だったんだ」
「え……そうなのですか?」
「ああ。僕もあの村の住人だったんだ」
「……!」
(でも……村の人たちはアクアを見て何も言わなかったわ……)
驚きに目を見開くミリアに柔らかく微笑み、アクアは穏やかな口調で続けた。
「もうずっと昔の話になるから、僕を知る人はいないんだ」
「……」
驚く事ばかりだが、ミリアは静かにアクアの話に耳を傾けた。
少し切なげな表情を浮かべたアクアがゆっくりと告げた。
「僕は昔、婚約者に殺されてこの泉に捨てられたんだ」
「……!?」
その衝撃的な告白から始まり――アクアは自分の過去を語り始めた。
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