青い春を漂う

CHIKA(*´▽`*)

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不思議なあの人

待ち時間と金魚とあの人と

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待っている間に暇だった。ということで屋台を巡ることに。
 とても沢山あった。タピオカ屋に唐揚げ屋にアイス屋に焼きそば屋と他にも様々なお店が。
 タピオカ屋に行きあたしは王道のミルクティー、文香はほうじ茶ラテを頼んだ。
 あまり流行りには乗らない方なのだけど、タピオカのもちもち感には一瞬で落ちた。
 食感がとても癖になる。
 それ以降はたまにタピオカ屋を見かけると、入るくらいにハマってしまったのだ。
 ナタデココとまた違った魅力をタピオカには感じる。
 ちなみに金魚のあいつはどこにいるのかと言うと全く分からない。
 いつもそうだ。いつもどこかぶらぶらと散歩しているのだ。
 それで家に帰るといつの間にかいる。それが毎日のことだ。もう慣れてしまった。

 タピオカの入ったミルクティーを飲みながら上機嫌に歩いていると、ある屋台が目に入ってきた。
 金魚すくいだった。夏にはよく見かける。けど秋には見かけたことがない。
 秋だと季節感が合っていないからなんて理由なのだろうか。
 全く分からないことだけど。
 「へえ~金魚すくいか」
 金魚なんて飽きる程に毎日見ている。
 けど何故か立ち止まってしまったのだ。
 「そうだね~ちょっと私すくって来るね!」
 と言い文香は金魚すくいの屋台の方へと走って行った。

 と同時に頭の中に声が再生された。
 『俺は大丈夫だから。心配すんな』
 『まっ……待ってるからねっ。……君の言葉……信じてるからっ……!』
 自分の声と男性の声。名前を言ってるであろう部分にはノイズが聞こえた。
 いつどこでの時の記憶かは分からない。
 けどきっとあの人のことが本当に大切だったんだ。
 改めてそう思えた。どんな場面で何をしているか分からないけども。
 でも何で今まで忘れていたのかということになる。
 こんなに大切な人のことなら忘れることなどない、はずなのに。
 何かあったのだろうか。現段階ではそうとしか考えられない。

 「結ちゃ~んっ」
 金魚の入った水の袋を片腕に通してその手でほうじ茶ラテを持った文香が走って来る。
 「お~どうだっ……たぁ?!」
 つい驚いてしまった。文香の持っている袋には尋常じゃない程の金魚がいたから。
 「これ……あんたが全部取ったの?」
 文香は笑顔で思い切り頷いた。いや軽く10匹以上はいるぞ、おい。
 屋台のおじさんなのかおばさんなのか。分からないけどもう屋台にいる金魚いなくなっただろう。
 今から店じまいするんじゃないかな。おじさんかおばさんドンマイ。
 と誰にも聞こえない謎の励ましを心の中でしていた。

 「それ……どうすんの」
 文香は袋を開けた。金魚たちは次々と袋の外に出て行き青空を泳いで行った。
 多分、屋台の金魚はこの町で育った金魚ではなかったのだろう。
 だから普通に水の中で泳いでいた。
 でも文香が袋を開けたことにより、自分達は空を泳げると知り出て行った。
 その光景はとても幻想的だった。まるで夢の中だと思ってしまうほどに。
「自由にしてあげたかったの。君達は水の中以外でも泳げるよ~って教えたかったの」

 ぼそっと文香が呟いた。その言葉を聞いて確信した。
 今日はいつも通りの文香じゃないと、文香は本当にテンションが高い。
 いつも通りの文香なら自ら効果音でも言いながら勢いよく袋を開けていただろう。
 それ以外はいつも通りの文香だったのん気に
 「金魚、飛んで行っちゃったぁ。ちょっとは残るかなぁって思ったのに。ぴえん」
 なんて言っていた。でもまるで誤魔化す為に言ったようにしか思えなかった。
 長年の付き合いだ。それくらい、すぐに分かる。
 何を悩んでいるの、と聞きたかった。でもそうしなかった。
 何故か今は知らない方がいいような気がしたから。
 誰も知らない文香を知ってしまう……。そんな気がしたのだ。

 お昼ご飯は焼きそばを食べた。
 屋台で食べる焼きそばと家で食べる焼きそばは違うように感じる。
 味としては大した違いはないと思う。だけどこれが屋台の魅力だろうか。
 そんなことを考えながらミルクティーと交互に食べていた。

 にしても占いが終わってからの人々の顔はみんな晴れ晴れとしている。みんな悩みが解決したのだろう。
 上機嫌にスキップをする人、ハンカチで涙を抑えながら歩いている人、爽やかな笑顔で走り去る人。
 どの人もまるで重荷が降りたように足取りが軽い。
 泣いていた人も思い切り泣いてから、涙を拭いて明るい表情で去って行った。

 ミルクティーを飲んでいる時も焼きそばを食べている時も微かに考えていた。
 あの人のことを。
 忘れていたことはまあ仕方が無いにして何故、今思い出したのかが気になっていた。
 色々と考えたが何も分からなかった。ただあの人は大切な存在だった。
 それだけは揺るぎない真実。

 早く自分の番が来て欲しかった。別に何も手がつかないほどという訳ではなかった。
 ただ何をしても頭の中の片隅にはいつもあの人がいた。
 このような感じは今日だけじゃなかった気がする。何故か懐かしいようなそんな気持ち。
 この気持ちは……きっと今日だけじゃない。もっと前に何度も何度も感じていた。そんな気がする。
 根拠があるのかって言われたらそんなものは何もない。
 そう感じる。ただそれだけの話。
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