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イーリス王国編
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薄れゆく睡魔とともに、ドラゴンとしての感覚が遠のいていく。
そして思考がクリアになり、整理されていくなかで、ナギとしての意識を取り戻す。
(あれがドラゴン・・・・・ちょっともったいなかったな)
先程までナギを苛んでいた頭痛は鳴りを潜め、既にナギは自然体。ぼやける視界から靄を払い、その深い黒瞳を見開くと、冷めた思考で今の状況を俯瞰する。
(僕の名は湊屋凪。だけど同時に聖騎士ドラゴンでもある)
現在のナギは、ナギとしての十五年間の記憶と、ドラゴンとしての少しばかりの記憶を保有していた。
さて、ナギとしての記憶はいざ知れず、ドラゴンとしての記憶があるのは何故か。今までのナギなら、神から与えられた“英霊の種子”によるものだと答えたことだろう。
だが今は違った。
(僕に瓜二つだった・・・・)
白昼夢で見たかの英雄は、まさしくナギそのものだった。
線は細いが芯はしっかりとしており、その面差しはどことなく中性的。ぱっちりとした瞳と長い睫毛、スッと通った鼻筋、理知的な微笑み(作り笑い)を堪えた口を配置した顔は、美男子や美少年とはまではいかないものの、女子受けする顔立ちではある。
唯一違うのは、頭の頂点からスラリと伸びた赤いメッシュくらいだろうか。
こんな偶然があるはずがない。
既にナギは、神々の言葉を疑うようになっていた。
(仮に英霊の種子の話が嘘だとすれば、この記憶は何なんだ? 植え付けられた? 何のために? 戦い方を覚えさせるだけなら、その感覚だけ植え付けてしまえばいい。変に記憶を与えて混乱させるのは得策じゃない。となると・・・・)
四方八方にアプローチをかけ、全神経を使って考えを巡らす。しかし、いくつもの仮定を組み上げながらも、どこかで矛盾や疑問が生まれてしまう。そしてついには分からずじまいとなってしまった。
(くそっ・・・・知識神の眷属性がなければこんなもの、放っておいたのに・・・・)
今のナギは、神の言葉に対する不信感と知識神の眷属になってしまったことで息づいた知識欲によって突き動かされ、もとい、思案に暮れていた。
だがそこで気づいた。
(くそ・・・・か)
基本的に物事に興味関心を抱くことすら珍しいナギが、ましてや悔しがるというのは、彼の記憶上初めてのことだった。
(確かに最初は面白そうだと思っていた異世界だけど・・・・思いの外、真剣だったってわけか)
これもドラゴンの記憶の影響かな、とナギはしみじみと思う。
(さて、次の仮定は・・・・・と)
『その必要はないわ』
どこからか声が聞こえてきた。いや、場所なら分かっている。突如真上に現れたからだ。
上を見てみると、そこにあったのはどでかい二つの丘。否、山だった。どうやら自分は仰向けで寝させられているようだが、そこからダンジョンの肉天井は見えはしなかった。後頭部は柔らかい感触に包み込まれており、仄かに甘い香りが鼻腔をくすぐってくる。
これは一体全体何事か。
ナギの頭を載せる何かがピクンッと身じろぐと、眼前の双山がスゥーと近づいてくる。
――ムギュ。
顔面の左半分がこの世のものとは思えない柔らかさに包み込まれていた。その上、沈んだナギの顔面を押し返すような弾力に富んでおり、陶然とする。
それでもなんとか塞がっていない右目でその柔らかさの正体を探ろうとする。
途端、また不意打ちをくらった。
「んん!?」
ナギの唇が柔らかい感触に塞がれた。
官能的な、柔らかい肉の感触。嘘みたいに甘い吐息が密着した部分から口腔へ侵入してくる。
さすがに分かる。
マウストゥーマウス。つまりは接吻。そしてこの体勢は膝枕だ。
「なにしてんだよ!?」
ナギは我に返って横に転がり去り、件の人物をその視界に映す。
「おはよう」
美しい少女の顔が鮮烈に視界に飛び込む。
それを見てつい呟いてしまった。
「・・・・クレア?」
そこにいたのは初代イーリス国王アレクシス=イーリス。ドラゴンの恋人であった。
一瞬、はっと息をのんだアレクシスの顔がスッと近づいてくる。
そして、再び、ナギとアレクシスの唇が接触する。
ナギは背を反って立ち上がろうとした。
しかし、そうはさせないとばかりにアレクシスが彼の胸を両手で押さえて邪魔する。
どころか、向かい合う恰好で彼の膝の上に尻を下ろす。
そして貪る。舌を彼の口腔に侵入させ、彼の舌を探り当てる。そうしてアレクシスの咥内に引き込み、たっぷりと吸い上げる。
それだけで彼が喜ぶというのを彼女は知っていた。
「・・・・っ! やめ・・・・!」
無言で彼の口を彼女は唇で塞いだ。
「待てって―――」
静止を呼びかける彼の口を、彼女はまた唇で塞いだ。
何度でも塞いで、そして強く吸う。
「――言ってんだろっ」
体を内側に翻し、覆いかぶさるようにしてアレクシスの動きを封じる。
甘い雰囲気は消し飛んだ。ナギにとって、今はそれどころではないからだ。
「必要がないっていうのはどういうことだ」
『決まってるわ。答えをしっているからよ』
「答えって・・・・ドラゴンの記憶についてか!?」
『それ以外にないでしょう?』
「・・・・・ちょっと待て。僕はそれを口にしていないぞ」
『“他心通”。私の持つ異能の力よ』
「字面からして心を読む異能ってところか」
『ええ。“神通力”と呼ばれる神の異能の一つね。ちなみに貴方の竜眼もその一つよ。正式名称は“天眼通”。全てを見通す力であり、その本来の力は前世を視ることにこそ真価を発揮するわ』
「前・・・世・・・・?」
『そうよ。聖騎士ドラゴンは貴方と同じ魂を持った英雄。貴方はドラゴンの転生体なの』
◇
自分の正体がドラゴンの転生体だと言われて、はいそうですか、とは流石にならない。いくら英雄の言葉とはいえ、現地人でないナギには英雄に対する憧憬も尊崇もありはしないからだ。よってそう易々と信じることもない。
先程の一件を一旦保留とし、ナギとアレクシスは他三名(二人+一体)と合流する。
彼らが何をしていたのかといえば、それはまた後程とのこと。
ちなみに、知性ある骨竜は現在その身を人のそれ(骨)へと変えている。あれだけの数のスケルトンを一体に凝縮したのだから、並のスケルトンではありえない戦闘力を有しているのだが、そこは階層主。自制するだけの自我は持ち合わせているらしい。
そんな彼女らがナギ達に頼らざるを得ないこと。それについて聞いた。
『順番にお話しするわ。先程お伝えした通り、私の名はアレクシス=フォン=イーリス。イーリス王国初代国王を務めていたレイスよ』
――レイス。
アンデッドの中では上位に類する魔物だ。魔法を使うのに長けており、またアンデッドに有効な魔法攻撃に耐性を持つため、戦闘では苦難を強いられる。
生前は英雄であった彼女が、死してレイスとなったのは偶然ではないだろう。
『そして現在はこのダンジョンの管理者、ダンジョンマスターの役目を担っているわ』
その言葉にナギ達三人は驚く。
本来ダンジョンとは、核であるダンジョンコアに搭載されているAIのようなプログラムによって管理されている。その一番の要因は、管理者にたる者がそうそう見つからないことにある。そもそもダンジョンコアの演算能力や自治能力は並大抵でない。ダンジョン内に出現した者達を的確に追い詰め、主たる目的である魔力集めを最適の効率で尽力する。その力に勝るどころか及ぶ者すらそうそういない。よって、通常のダンジョンはダンジョンマスターなどいないのが常識である。
だが彼女は自分がダンジョンマスターであると告げた。
ナギ達が驚くのも無理はなかった。
『とは言え、私にそれほど意欲があったわけじゃなかった。ただ、一人でいるのもなんだから一体だけ魔物を造ったの。会話用にね』
そうして生まれたのがこのスケルトン並びに骨竜だった。
(会話用ってひどいな。まあ、そのおかげで僕達はこいつを倒せたんだろうけど)
戦闘用でないのなら、災害級危険種をナギ達三人で倒せたのも頷けるというものだった。
『それ以外は特に何もしてこなかったんだけれど・・・・』
その言葉に一同は呆れる。一体ダンジョンコアは彼女に何を見出したというのか。
『あるとき、ダンジョンコアの管理権限が私の手の元を離れたの』
(((そりゃそうだろうな!!)))
流石にずっと放置というのはダンジョンコアにとっても困るだろう。一同はそう思ったのだが、
『私も最初はそう思ったわ。だけどどうやらそうじゃないみたいなのよ』
そうじゃない、とアレクシスは言う。
ダンジョンコアの意思ではなく、奪われたのだ、と。
『元英雄だとは言え、現在はレイス―――アンデッドであることに変わりはないわ。魔力は穢れていて、絶えず瘴気を発生させていた。どうやらコアはその瘴気のことを、私を示す鍵のようなものとして認識していたようね。そして―――私の瘴気を上回るほどの穢れを持つ瘴気によって、私は管理者権限を乗っ取られたわ』
しかしその何者かは権限をすぐさま放棄。権限はアレクシスの元へ還ることなく、ダンジョンの自治はコアに委託された。
それから悪夢が始まった。
『私が彼女を造ってから一度として使われず、ただただ貯まり募っていた魔力が、コアによって一気に解き放たれたわ。そしてそれは一つの魔物を象った』
魔物の名は“黒騎士”。
漆黒のプレートアーマーをまとう、災害級危険種である。いや、ともすればそのプレートアーマー自体が魔物そのものなのかもしれない。
以前のマスターやその魔物について一切を顧みないコアによって造りだされた黒騎士は、当然の如く彼女らに襲い掛かった。
アレクシスと骨竜の両名曰く、鎧袖一触の魔物。
エレノアの第三位階を食らってもなお斃れなかった骨竜の装甲を、そいつは一刀で打ち破ったらしい。
得意の大量スケルトン化でどうにか逃げおおせたようだが、問題が解決したわけではない。
『私たちが依頼するのは災害級危険種“黒騎士”の討伐。どうかお願いするわ?』
つまりはそういうことらしい。
そして思考がクリアになり、整理されていくなかで、ナギとしての意識を取り戻す。
(あれがドラゴン・・・・・ちょっともったいなかったな)
先程までナギを苛んでいた頭痛は鳴りを潜め、既にナギは自然体。ぼやける視界から靄を払い、その深い黒瞳を見開くと、冷めた思考で今の状況を俯瞰する。
(僕の名は湊屋凪。だけど同時に聖騎士ドラゴンでもある)
現在のナギは、ナギとしての十五年間の記憶と、ドラゴンとしての少しばかりの記憶を保有していた。
さて、ナギとしての記憶はいざ知れず、ドラゴンとしての記憶があるのは何故か。今までのナギなら、神から与えられた“英霊の種子”によるものだと答えたことだろう。
だが今は違った。
(僕に瓜二つだった・・・・)
白昼夢で見たかの英雄は、まさしくナギそのものだった。
線は細いが芯はしっかりとしており、その面差しはどことなく中性的。ぱっちりとした瞳と長い睫毛、スッと通った鼻筋、理知的な微笑み(作り笑い)を堪えた口を配置した顔は、美男子や美少年とはまではいかないものの、女子受けする顔立ちではある。
唯一違うのは、頭の頂点からスラリと伸びた赤いメッシュくらいだろうか。
こんな偶然があるはずがない。
既にナギは、神々の言葉を疑うようになっていた。
(仮に英霊の種子の話が嘘だとすれば、この記憶は何なんだ? 植え付けられた? 何のために? 戦い方を覚えさせるだけなら、その感覚だけ植え付けてしまえばいい。変に記憶を与えて混乱させるのは得策じゃない。となると・・・・)
四方八方にアプローチをかけ、全神経を使って考えを巡らす。しかし、いくつもの仮定を組み上げながらも、どこかで矛盾や疑問が生まれてしまう。そしてついには分からずじまいとなってしまった。
(くそっ・・・・知識神の眷属性がなければこんなもの、放っておいたのに・・・・)
今のナギは、神の言葉に対する不信感と知識神の眷属になってしまったことで息づいた知識欲によって突き動かされ、もとい、思案に暮れていた。
だがそこで気づいた。
(くそ・・・・か)
基本的に物事に興味関心を抱くことすら珍しいナギが、ましてや悔しがるというのは、彼の記憶上初めてのことだった。
(確かに最初は面白そうだと思っていた異世界だけど・・・・思いの外、真剣だったってわけか)
これもドラゴンの記憶の影響かな、とナギはしみじみと思う。
(さて、次の仮定は・・・・・と)
『その必要はないわ』
どこからか声が聞こえてきた。いや、場所なら分かっている。突如真上に現れたからだ。
上を見てみると、そこにあったのはどでかい二つの丘。否、山だった。どうやら自分は仰向けで寝させられているようだが、そこからダンジョンの肉天井は見えはしなかった。後頭部は柔らかい感触に包み込まれており、仄かに甘い香りが鼻腔をくすぐってくる。
これは一体全体何事か。
ナギの頭を載せる何かがピクンッと身じろぐと、眼前の双山がスゥーと近づいてくる。
――ムギュ。
顔面の左半分がこの世のものとは思えない柔らかさに包み込まれていた。その上、沈んだナギの顔面を押し返すような弾力に富んでおり、陶然とする。
それでもなんとか塞がっていない右目でその柔らかさの正体を探ろうとする。
途端、また不意打ちをくらった。
「んん!?」
ナギの唇が柔らかい感触に塞がれた。
官能的な、柔らかい肉の感触。嘘みたいに甘い吐息が密着した部分から口腔へ侵入してくる。
さすがに分かる。
マウストゥーマウス。つまりは接吻。そしてこの体勢は膝枕だ。
「なにしてんだよ!?」
ナギは我に返って横に転がり去り、件の人物をその視界に映す。
「おはよう」
美しい少女の顔が鮮烈に視界に飛び込む。
それを見てつい呟いてしまった。
「・・・・クレア?」
そこにいたのは初代イーリス国王アレクシス=イーリス。ドラゴンの恋人であった。
一瞬、はっと息をのんだアレクシスの顔がスッと近づいてくる。
そして、再び、ナギとアレクシスの唇が接触する。
ナギは背を反って立ち上がろうとした。
しかし、そうはさせないとばかりにアレクシスが彼の胸を両手で押さえて邪魔する。
どころか、向かい合う恰好で彼の膝の上に尻を下ろす。
そして貪る。舌を彼の口腔に侵入させ、彼の舌を探り当てる。そうしてアレクシスの咥内に引き込み、たっぷりと吸い上げる。
それだけで彼が喜ぶというのを彼女は知っていた。
「・・・・っ! やめ・・・・!」
無言で彼の口を彼女は唇で塞いだ。
「待てって―――」
静止を呼びかける彼の口を、彼女はまた唇で塞いだ。
何度でも塞いで、そして強く吸う。
「――言ってんだろっ」
体を内側に翻し、覆いかぶさるようにしてアレクシスの動きを封じる。
甘い雰囲気は消し飛んだ。ナギにとって、今はそれどころではないからだ。
「必要がないっていうのはどういうことだ」
『決まってるわ。答えをしっているからよ』
「答えって・・・・ドラゴンの記憶についてか!?」
『それ以外にないでしょう?』
「・・・・・ちょっと待て。僕はそれを口にしていないぞ」
『“他心通”。私の持つ異能の力よ』
「字面からして心を読む異能ってところか」
『ええ。“神通力”と呼ばれる神の異能の一つね。ちなみに貴方の竜眼もその一つよ。正式名称は“天眼通”。全てを見通す力であり、その本来の力は前世を視ることにこそ真価を発揮するわ』
「前・・・世・・・・?」
『そうよ。聖騎士ドラゴンは貴方と同じ魂を持った英雄。貴方はドラゴンの転生体なの』
◇
自分の正体がドラゴンの転生体だと言われて、はいそうですか、とは流石にならない。いくら英雄の言葉とはいえ、現地人でないナギには英雄に対する憧憬も尊崇もありはしないからだ。よってそう易々と信じることもない。
先程の一件を一旦保留とし、ナギとアレクシスは他三名(二人+一体)と合流する。
彼らが何をしていたのかといえば、それはまた後程とのこと。
ちなみに、知性ある骨竜は現在その身を人のそれ(骨)へと変えている。あれだけの数のスケルトンを一体に凝縮したのだから、並のスケルトンではありえない戦闘力を有しているのだが、そこは階層主。自制するだけの自我は持ち合わせているらしい。
そんな彼女らがナギ達に頼らざるを得ないこと。それについて聞いた。
『順番にお話しするわ。先程お伝えした通り、私の名はアレクシス=フォン=イーリス。イーリス王国初代国王を務めていたレイスよ』
――レイス。
アンデッドの中では上位に類する魔物だ。魔法を使うのに長けており、またアンデッドに有効な魔法攻撃に耐性を持つため、戦闘では苦難を強いられる。
生前は英雄であった彼女が、死してレイスとなったのは偶然ではないだろう。
『そして現在はこのダンジョンの管理者、ダンジョンマスターの役目を担っているわ』
その言葉にナギ達三人は驚く。
本来ダンジョンとは、核であるダンジョンコアに搭載されているAIのようなプログラムによって管理されている。その一番の要因は、管理者にたる者がそうそう見つからないことにある。そもそもダンジョンコアの演算能力や自治能力は並大抵でない。ダンジョン内に出現した者達を的確に追い詰め、主たる目的である魔力集めを最適の効率で尽力する。その力に勝るどころか及ぶ者すらそうそういない。よって、通常のダンジョンはダンジョンマスターなどいないのが常識である。
だが彼女は自分がダンジョンマスターであると告げた。
ナギ達が驚くのも無理はなかった。
『とは言え、私にそれほど意欲があったわけじゃなかった。ただ、一人でいるのもなんだから一体だけ魔物を造ったの。会話用にね』
そうして生まれたのがこのスケルトン並びに骨竜だった。
(会話用ってひどいな。まあ、そのおかげで僕達はこいつを倒せたんだろうけど)
戦闘用でないのなら、災害級危険種をナギ達三人で倒せたのも頷けるというものだった。
『それ以外は特に何もしてこなかったんだけれど・・・・』
その言葉に一同は呆れる。一体ダンジョンコアは彼女に何を見出したというのか。
『あるとき、ダンジョンコアの管理権限が私の手の元を離れたの』
(((そりゃそうだろうな!!)))
流石にずっと放置というのはダンジョンコアにとっても困るだろう。一同はそう思ったのだが、
『私も最初はそう思ったわ。だけどどうやらそうじゃないみたいなのよ』
そうじゃない、とアレクシスは言う。
ダンジョンコアの意思ではなく、奪われたのだ、と。
『元英雄だとは言え、現在はレイス―――アンデッドであることに変わりはないわ。魔力は穢れていて、絶えず瘴気を発生させていた。どうやらコアはその瘴気のことを、私を示す鍵のようなものとして認識していたようね。そして―――私の瘴気を上回るほどの穢れを持つ瘴気によって、私は管理者権限を乗っ取られたわ』
しかしその何者かは権限をすぐさま放棄。権限はアレクシスの元へ還ることなく、ダンジョンの自治はコアに委託された。
それから悪夢が始まった。
『私が彼女を造ってから一度として使われず、ただただ貯まり募っていた魔力が、コアによって一気に解き放たれたわ。そしてそれは一つの魔物を象った』
魔物の名は“黒騎士”。
漆黒のプレートアーマーをまとう、災害級危険種である。いや、ともすればそのプレートアーマー自体が魔物そのものなのかもしれない。
以前のマスターやその魔物について一切を顧みないコアによって造りだされた黒騎士は、当然の如く彼女らに襲い掛かった。
アレクシスと骨竜の両名曰く、鎧袖一触の魔物。
エレノアの第三位階を食らってもなお斃れなかった骨竜の装甲を、そいつは一刀で打ち破ったらしい。
得意の大量スケルトン化でどうにか逃げおおせたようだが、問題が解決したわけではない。
『私たちが依頼するのは災害級危険種“黒騎士”の討伐。どうかお願いするわ?』
つまりはそういうことらしい。
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