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ー休息ー罰ゲーム※

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行員個人が何か人より劣る……と判断した場合…自分から進んで支店全員分の飲み物を買いに走らねばならない。という、この支店での“暗黙の了解”的なルールがある。

この日、私も女子行員の中で群を抜いてパソコン処理でのミスが目立ってしまった故に!泣く泣く雀の涙程の懐から資金を搾り出して支店全員分の飲み物を購入しに出かける事を密やかに決意した。

うちの支店の近場にお得意様であるお客さん経営の「コンビニ」が存在する。
内務課長に事情を話す。

『ちょっと……買い物に行ってきます……』

内務課長が嬉しそうに言う。

『お?今日は加地殿のおごりか⁉おごちそうになります!』

……………内務課長の方が絶対に収入が良いハズだから…私の代わりに買って下され‼
(まぁ天変地異が起こっても言えませんが)


適温に保たれている支店を1歩外に出る私。だいぶ低い位置に傾いたが、アスファルトを照りつける太陽。額から滲み出てくる塩辛いモノ。
少し小走りになりながらも、そのコンビニを目指す。

『加地くん?加地くんじゃあないか⁉』

道路の背後から聞き慣れた声が耳に入った。
声の方を振り向けば……⁉

『今日は加地くんが何かしでかしたのか?』

ニヤニヤと嫌な笑いを浮かべながら岡田が私に問いかける。

『…………………自主的に皆さんに冷たい飲み物を買いに向かってるだけです!』

私は岡田に構わずにひたすらにコンビニへ。


飲み物しか買った事の無い、お得意様に到着した。
♪ピンポ~ン  ピンポ~ン♪
コンビニ特有の音楽が私を迎え入れる。
♪ピンポ~ン  ピンポ~ン♪
おや?お客さん???…………てか‼
岡田‼‼※実はこのコンビニは岡田担当のお得意様である。

『こんにちは~!(岡田お得意営業スマイル)』

『おぉ!岡田くん!いらっしゃい♪その子…カノジョかい?可愛いね☆』

いやいやいや!断じて違います。そう思うが口には出せなかった私を見抜きながらも、岡田は…

『いやぁ!だったら良いんですがねぇ……ちょっと見させて下さいね♪』

……おや?一瞬胸を駆け抜けた一筋の風は……一体何だったのだろう?
何か少しだけ寂しさを感じたのに私は知らない顔をして急いで用事を済ませる。

えーと……全員分で…確か13本だったよな……(自信なし)
ひとつひとつどれを誰が選ぶか想像しながら選ぶ。
岡田が愛飲のひとつのコーヒーを選び、

『じゃ♪加地くん、後はヨロシク~♡』

私の持っていたカゴに入れ、そのカゴをひょいと取り上げた。
そしてレジのおじさんの元に颯爽と向かった。

あれ⁉私が払うつもりなんだけど?手早くお会計を済ませている岡田を背後からただポケーっと見ていただけの私。

『岡田くん、毎度ありがとうね~♪』

ニコニコと愛想笑いを浮かべるおじさんに会釈をして岡田はコンビニを後にした。急いで私も後に続く。


愛車を手押ししながら飲み物が入った袋を下げて歩く岡田。
気づいた私は慌てて岡田から荷物を奪う。

『私が持ちます!………てか…代金は……?』

財布からかかったであろう飲み物の代金を出そうとしてる私の手を岡田は静かに制止する。

『んなのは良いから……ちょっと寄り道しないか?』

そう言って支店とは違う方向に岡田は愛車を押し始めた。


辿り着いたのは支店近くの小さな公園。(てかこんなとこ…あったの知らなかった…)愛車を公園前に止め、岡田は空いていたベンチに腰掛ける。
ひたすらに着いて行って息が軽く切れてる私に言う。

『さっき買ってた……俺のコーヒーくれないか?』

私は先程のコーヒーを岡田に手渡した。小さく「ありがとう」と呟き、プルタブをプシッと小気味良くあける。
彼はコーヒーをひと口飲んで夕暮れになりつつある景色に目を細めた。
私も岡田の隣を失礼して、橙色の空に目をやった。

その公園には学校帰りの小学生すら寄り付かないようだ。
閑静な住宅街に潜むその公園。ここち良い涼やかなこの場の空気。ただ、静かな時間だけが過ぎていった。

何処か遠くでサイレンが聞こえる。鳥の鳴き声、車のエンジン音。

ひとしきり空気を楽しみ、岡田は手にするコーヒーを一気に飲み切ると、立ち上がり私に言った。

『帰るか!加地くん‼』


ー結末ー
我々が外で呑気に”束の間の休戦時間”を取っている間に、皆さんの為に(岡田が)購入した飲み物は「とてもそのままでは飲めない」っつー程に!温~~~くなり下がっていた。



約半日かけてもこのザマ(笑)
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