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真夏の死の下で
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俺と大畑が合うのはちょうど一年ぶりになる。
今日も八月らしく暑い日だ。太陽は高く上り、遠くの空には大きな入道雲ができている。蝉は狂ったように鳴き、あまりにも単調な騒音で気が狂いそうだ。
そんな中、僕は田んぼ道に一本だけ立っている木の下で、大畑のことをずっと待っている。約束の時間はとっくに過ぎているのに、大畑は一向に現れない。相変わらずの遅刻魔で、高校性の頃から全く変わっていない。呆れたやつだ。
こんな田舎の町を待ち合わせ場所にした俺も悪いが、それでも遅すぎると思う。今日は一日中待っている。いい加減干からびてしまいそうだ。
連絡をしようにも、電子機器の類は僕を使えないし、そもそも持っていない。
何もない田舎の田んぼ道で、木陰に座り単調な田舎の町を眺める。
こうしている間に、トラクターが三回も俺の前を横切った。
「お、やっと来たか。」
遠くの道から一台の軽自動車がこちらに向かって来た。田舎の町には不調和な明るい色の車で、あの色の車に乗るのはこの町で、大畑以外にいない。
その車は僕のいる木の近くに止まると、中からポロシャツ姿の大畑が出てきた。
「久しぶりだな!遅くなってごめんな。」
「相変わらず遅いなお前は。」
「昨日、仕事を詰めすぎてな。でもまあ、来たんだから許してくれよ。」
「もう来ないかとおもったよ。」
こいつはいつもそうだ。どれだけ遅れても、腑抜けたにやけ顔で平謝りをすだけなのだ。だけど、ある種この顔に安心感があるのはなぜだろう。
「これ買ってきたぞ。お前昔からお茶はこれだよな。」
「おおジャスミンティー!ありがとな。そこに置いといてくれ。」
ジャスミンティー。これは俺たちの青春を語る上で欠かせないものだ。初めて飲んだ時は、学校の自販機に見たことのない味のお茶があり罰ゲームとして俺が飲むことになったのだが、俺が味を気に入ってしまったのだ。
それからはテストの点数や何かの勝負で俺が買ったときに、大畑に奢らせていた。それにしても、ジャスミンティーを持ってきてくれるとは、なかなか粋なことをする。
プシュッという音がして隣を見ると、「俺はこれな。」と言って、大畑が缶コーラを開けた。俺がジャスミンティーを好きなように、大畑はコーラが好きで、俺が勝負に負けたときはよくコーラを奢らされていた。
「あとはこれだよな。」といって、ジャスミンティーの隣に和菓子と漫画雑誌を置いてくれた。
「なあ光。高校の頃に言った夢のこと覚えているか。」
大畑が空を見上げて言う。
「確か。絵で飯を食っていきたいって言っていたやつか。」
「俺さ。今は絵画の修復の仕事やってんだ。」
「すごいじゃないか。夢を叶えたんだな。」
「でも、これが辛くて仕方ないんだ。正直、食うだけでもギリギリだし、まだそんなに仕事が取れるほど、技術があるわけじゃないから仕事も増えないし、このままでいいのかなって思ってる。」
大畑はコーラを一口ゴクリと飲み、ため息をついた。
「光。お前が言われたことを俺は守れそうにないよ。」
「大丈夫。大畑は頑張ってるよ。」
僕らの頭上で鳴く蝉が僕らの間に流れる異質な空気を察知したかのように、飛び立った。ジリジリと地面を焼く太陽は眩しく、遠くにできている入道雲はこれからどこかに大雨を降らせることを予感させる。
「あぁ、なんか懐かしいな。」大畑の言葉には少しだけ湿り気を含んでいる。
「高校の頃はさ、ほんとずっと一緒にいたよな。俺さ、引っ込み思案だからさ入学したときは、友達なんていなくて、学校が楽しくなかったんだ。でもよ、光がさ俺が休み時間に読んでた漫画のことで、話しかけてくれて嬉しかったんだ。それから、いろんなことを教えてくれたな。たぶんさお前と会ってなかったら、今の俺はいないと思うんだよ。」
自分の目頭が熱くなっていくのがわかる。
懐かしくもう戻らない青い日々。俺の時間はあの頃から止まったままだ。
きっと、大畑はどんどん先に行ってしまうのだろう。そして、俺はこのままずっと先には進めない。
僕はそのことがすごく悲しい。
「だめだな。こうして一人で話していると会いたくなってきた。」
「まただな。」と言って、大畑は線香に火を付けた。
その火を線香の端に当てて煙が出てくる。それを僕の雑誌の隣の石に寝かせた。
手を合わせて数秒の間目を閉じて、自分の頬をピシャリと叩いた。
「じゃあ。俺は行くよ。また来年来るから待ってくれよ。」
「幸せな家庭も築くんだぞ。」
「なんか今、光の声が聞こえた気がするわ。」
大畑は少し深呼吸をして、真夏の空に向けて笑った。
今日も八月らしく暑い日だ。太陽は高く上り、遠くの空には大きな入道雲ができている。蝉は狂ったように鳴き、あまりにも単調な騒音で気が狂いそうだ。
そんな中、僕は田んぼ道に一本だけ立っている木の下で、大畑のことをずっと待っている。約束の時間はとっくに過ぎているのに、大畑は一向に現れない。相変わらずの遅刻魔で、高校性の頃から全く変わっていない。呆れたやつだ。
こんな田舎の町を待ち合わせ場所にした俺も悪いが、それでも遅すぎると思う。今日は一日中待っている。いい加減干からびてしまいそうだ。
連絡をしようにも、電子機器の類は僕を使えないし、そもそも持っていない。
何もない田舎の田んぼ道で、木陰に座り単調な田舎の町を眺める。
こうしている間に、トラクターが三回も俺の前を横切った。
「お、やっと来たか。」
遠くの道から一台の軽自動車がこちらに向かって来た。田舎の町には不調和な明るい色の車で、あの色の車に乗るのはこの町で、大畑以外にいない。
その車は僕のいる木の近くに止まると、中からポロシャツ姿の大畑が出てきた。
「久しぶりだな!遅くなってごめんな。」
「相変わらず遅いなお前は。」
「昨日、仕事を詰めすぎてな。でもまあ、来たんだから許してくれよ。」
「もう来ないかとおもったよ。」
こいつはいつもそうだ。どれだけ遅れても、腑抜けたにやけ顔で平謝りをすだけなのだ。だけど、ある種この顔に安心感があるのはなぜだろう。
「これ買ってきたぞ。お前昔からお茶はこれだよな。」
「おおジャスミンティー!ありがとな。そこに置いといてくれ。」
ジャスミンティー。これは俺たちの青春を語る上で欠かせないものだ。初めて飲んだ時は、学校の自販機に見たことのない味のお茶があり罰ゲームとして俺が飲むことになったのだが、俺が味を気に入ってしまったのだ。
それからはテストの点数や何かの勝負で俺が買ったときに、大畑に奢らせていた。それにしても、ジャスミンティーを持ってきてくれるとは、なかなか粋なことをする。
プシュッという音がして隣を見ると、「俺はこれな。」と言って、大畑が缶コーラを開けた。俺がジャスミンティーを好きなように、大畑はコーラが好きで、俺が勝負に負けたときはよくコーラを奢らされていた。
「あとはこれだよな。」といって、ジャスミンティーの隣に和菓子と漫画雑誌を置いてくれた。
「なあ光。高校の頃に言った夢のこと覚えているか。」
大畑が空を見上げて言う。
「確か。絵で飯を食っていきたいって言っていたやつか。」
「俺さ。今は絵画の修復の仕事やってんだ。」
「すごいじゃないか。夢を叶えたんだな。」
「でも、これが辛くて仕方ないんだ。正直、食うだけでもギリギリだし、まだそんなに仕事が取れるほど、技術があるわけじゃないから仕事も増えないし、このままでいいのかなって思ってる。」
大畑はコーラを一口ゴクリと飲み、ため息をついた。
「光。お前が言われたことを俺は守れそうにないよ。」
「大丈夫。大畑は頑張ってるよ。」
僕らの頭上で鳴く蝉が僕らの間に流れる異質な空気を察知したかのように、飛び立った。ジリジリと地面を焼く太陽は眩しく、遠くにできている入道雲はこれからどこかに大雨を降らせることを予感させる。
「あぁ、なんか懐かしいな。」大畑の言葉には少しだけ湿り気を含んでいる。
「高校の頃はさ、ほんとずっと一緒にいたよな。俺さ、引っ込み思案だからさ入学したときは、友達なんていなくて、学校が楽しくなかったんだ。でもよ、光がさ俺が休み時間に読んでた漫画のことで、話しかけてくれて嬉しかったんだ。それから、いろんなことを教えてくれたな。たぶんさお前と会ってなかったら、今の俺はいないと思うんだよ。」
自分の目頭が熱くなっていくのがわかる。
懐かしくもう戻らない青い日々。俺の時間はあの頃から止まったままだ。
きっと、大畑はどんどん先に行ってしまうのだろう。そして、俺はこのままずっと先には進めない。
僕はそのことがすごく悲しい。
「だめだな。こうして一人で話していると会いたくなってきた。」
「まただな。」と言って、大畑は線香に火を付けた。
その火を線香の端に当てて煙が出てくる。それを僕の雑誌の隣の石に寝かせた。
手を合わせて数秒の間目を閉じて、自分の頬をピシャリと叩いた。
「じゃあ。俺は行くよ。また来年来るから待ってくれよ。」
「幸せな家庭も築くんだぞ。」
「なんか今、光の声が聞こえた気がするわ。」
大畑は少し深呼吸をして、真夏の空に向けて笑った。
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