駄目ゲーム部活動記録!

よなぷー

文字の大きさ
32 / 62

0032(五)02

しおりを挟む
 9日間はあっという間に過ぎた。よく晴れた日曜日、由紀先輩は『ワタプロ新人発掘オーディション2018』北陸大会に向かった……はずだ。

 俺たち駄ゲー部員は応援には行かなかった。大会主催者のワタプロの意向で、保護者以外の同伴を禁じていたからだ。混雑と混乱を避けるための措置で、やむを得ないといえる。前回由紀先輩が参加したときは、番号順に名前を呼ばれて、8人いる審査員の前でいくつかの質問に答えたという。何しろ若い頃のことなので詳しくは覚えていないそうだ。今回も結局はぶっつけ本番みたいなものらしい。

 俺は両親に隠れて『星をみるひと』を――勉強に追われて、まだクリアしていない――プレイしながら、遠い空のもと、由紀先輩がファイトする姿を心に思い浮かべた。ボーイッシュで、どこか軽いノリのムードメーカー。真樹部長と共に駄ゲー部を引っ張る3年生。何とか夢を、希望を掴んではくれないか。俺は応援せずにはいられなかった。

 結果発表は後日という。由紀先輩が上手く審査員の目に留まってくれることを祈るばかりだった。



 オーディション明けの月曜日早朝。駄ゲー部朝練にぼちぼち人が集まり始めた頃、今話題の中心人物である由紀先輩が、あくびしながら入室してきた。

 俺は弾かれたように立ち上がった。

「どうでしたか、由紀先輩! オーディションの首尾は?」

 由紀先輩は目尻を擦りながら、片手で親指を立ててみせた。

「大丈夫だもん。ボクは出来る子だもん。審査員の皆さんに物怖じせず答えられて、歌まで披露できたもん!」

 白い歯を剥きだす。美夏先輩が拍手した。

「良かった……上手くいったんですね」

「さあどうだかだもん」

 由紀先輩はしかしそっけない態度を取る。己の慢心を戒めるかの風だった。

「オーディションは水物だもん。結果発表まで分からないもん」

 あんまり自信満々で落ちたらみっともないと、防衛本能が働いたのだろう。風林先輩が膝を叩いた。

「まずは一次審査、通過したか否か。ちなみにどれぐらいの割合でこそぎ落とされるのですか?」

「8割が落選するもん」

 俺は甘い夢想が砕け散るのを感じた。

「そんなに……」

 場は静まり返った。



 そして5日後、当落は知らされた。

「合格だもん!」

 由紀先輩は満面の笑顔で駄ゲー部部室に飛び込んできた。文字通り、まろぶようだった。

「これが証拠だもん!」

 突き上げた封筒に駄ゲー部部員の双眸が集中する。『ワタプロ新人発掘オーディション2018』北陸大会結果のお知らせ。欣喜雀躍(きんきじゃくやく)する部員たちの中心で、由紀先輩はもどかしく中身を取り出した。

「『この度は「ワタプロ新人発掘オーディション2018」にご応募頂き、ありがとうございました。厳正なる審査の結果、一次審査通過となり二次審査に進んで頂くことが決定致しました』だそうだもん!」

 俺は手放しで、心の底から賞賛した。

「おおっ! すげーっ!」

 真樹部長が祝福とばかり、由紀先輩の背中を勢いよく叩いた。

「やったな二等兵! まずはお疲れさんだな!」

 雲雀先輩が由紀先輩の手を取って上下に振った。

「素晴らしいですので! どんな審査だったですので?」

 由紀先輩は揉みくちゃにされながら、それでもどうにか席に着く。

「大したことはしてないもん」

 彼女の話によるとこうだ。参加者は1206人。書類選考はなく、応募者のうち10名ずつがグループ面接の形で審査員9名の前に立つ。一回につき3~4分。審査員にしてみれば休憩を挟むとはいえ8時間超もの長丁場となる。ご苦労なことだった。

「審査員は凄かったもん。有名バンドのボーカルや国民的アイドルグループのプロデューサーなんかもいたもん! もちろんワタプロの虎橋(とらはし)さんや三津(みつ)さんみたいな超有名歌手なんかも……」

「それで、どんなアピールをしたんですか?」

 由紀先輩は得意げに両拳を腰に当てた。

「『どうしてアイドルになりたいんですか?』と聞かれたので、『自分のパフォーマンスで周りの皆をハッピーにしたいもん!』と答えたもん。その後特技は? と質問されたので、『歌だもん』と回答したら、『じゃ歌ってみせて』と催促されたので、国民的アイドルグループの名曲のサビをアカペラで歌ったもん。超恥ずかしかったけど、でも頑張ったもん」

 審査員に短時間で印象付けるには、ベタな正攻法で良かったのかもしれない。

「それで、ボクの順番は終わって、隣の人に質問が移っていったもん。そして最後に時間が余ったので、趣味について順々に聞かれたもん」

 それまで意気揚々としていた由紀先輩の顔が、このとき急に曇った。

「ボクはそれに対して、『読書』と答えたもん。『どんな本を?』と畳み掛けられたので、『夏目漱石をわりと』と返したもん。審査員の方たちは感心してたみたいだもん。でも……」

 由紀先輩は雨が降り出す前の暗雲のような相貌だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

負けヒロインに花束を!

遊馬友仁
キャラ文芸
クラス内で空気的存在を自負する立花宗重(たちばなむねしげ)は、行きつけの喫茶店で、クラス委員の上坂部葉月(かみさかべはづき)が、同じくクラス委員ので彼女の幼なじみでもある久々知大成(くくちたいせい)にフラれている場面を目撃する。 葉月の打ち明け話を聞いた宗重は、後日、彼女と大成、その交際相手である名和立夏(めいわりっか)とのカラオケに参加することになってしまう。 その場で、立夏の思惑を知ってしまった宗重は、葉月に彼女の想いを諦めるな、と助言して、大成との仲を取りもとうと行動しはじめるが・・・。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

美人生徒会長は、俺の料理の虜です!~二人きりで過ごす美味しい時間~

root-M
青春
高校一年生の三ツ瀬豪は、入学早々ぼっちになってしまい、昼休みは空き教室で一人寂しく弁当を食べる日々を過ごしていた。 そんなある日、豪の前に目を見張るほどの美人生徒が現れる。彼女は、生徒会長の巴あきら。豪のぼっちを察したあきらは、「一緒に昼食を食べよう」と豪を生徒会室へ誘う。 すると、あきらは豪の手作り弁当に強い興味を示し、卵焼きを食べたことで豪の料理にハマってしまう。一方の豪も、自分の料理を絶賛してもらえたことが嬉しくて仕方ない。 それから二人は、毎日生徒会室でお昼ご飯を食べながら、互いのことを語り合い、ゆっくり親交を深めていく。家庭の味に飢えているあきらは、豪の作るおかずを実に幸せそうに食べてくれるのだった。 やがて、あきらの要求はどんどん過激(?)になっていく。「わたしにもお弁当を作って欲しい」「お弁当以外の料理も食べてみたい」「ゴウくんのおうちに行ってもいい?」 美人生徒会長の頼み、断れるわけがない! でも、この生徒会、なにかちょっとおかしいような……。 ※時代設定は2018年頃。お米も卵も今よりずっと安価です。 ※他のサイトにも投稿しています。 イラスト:siroma様

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

処理中です...