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第ニ章 芸州編 山村の警護役
第16話 大きな溜池
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今日は朝から富盛の道場で、辰三郎をはじめとする門下生たちに稽古をつけていた。
「おーい、忠次郎。お前も竹刀を持ったらどうだ?」
辰三郎は忠次郎を見るたびにからかうのが常だ。
「私は結構です!」
「じゃあ、何でここにいるんだ?」
「大助さまのお供をしてるだけです。私に構わないでください!」
「ああ、そうかい! チッ!」
忠次郎は、俺が富盛家を訪れるのを嫌がっているようだ。辰三郎が苦手なのだろう。監視役として仕方なく付き合っているのだ。本来なら「福島藩お預かり」の俺を見張るのは役人の仕事だが、その役目は国宗家に押し付けられている。まあ、その方が気楽だが。
「辰三郎、よそ見せずにかかってこい!」
「おう、大助! 今日こそは倒してやる!」
辰三郎はいつもの変則的な動きで俺の隙を狙う。
「あぃやややあああああっ!」
正面から竹刀を縦に振ると見せかけ、左前に踏み込みながら横から攻めてくる。だが、その動きは完全に読めている。
「はい」
俺は竹刀を払いつつ、辰三郎の顎を軽く叩いた。
「あ痛っ!」
「もう一丁だ」
「ク、クソお!」
辰三郎はすぐに感情的になる。無茶苦茶に竹刀を振り回して突進してきたが、それを軽くかわして背中を叩いた。
「あー痛っ! なんでお前、そんなに強いんだ!?」
「お前より冷静だからかな?」
「なるほど! 冷静か、冷静だ!」
「単純だな。あ、ちょっと待て」
「何だ、大助」
「お前はもういい」
「おいおい、わいはもう終わりか?」
「師範代はいるのか?」
「さあな。今日は見てないぞ。それより勝負だ!」
「辰二郎は親父らを迎えに出かけたわよ」
ふいにお雪が姿を見せた。
「あ、姐御! 今日、親父が帰ってくるのか!?」
「ああ、そうみたいだね」
「じゃあ、あれはうまくいったんか!?」
「お黙り、この馬鹿!」
「お雪、帰ってきたら御当主に挨拶したいんだが」
「大助、しばらくはやめときな。機嫌悪いだろうから」
「姐御、もしかして不首尾だったのか?」
「だから、馬鹿は黙ってなさい!」
「チッ」
「大助、外歩こうか?」
「ん?」
「富盛の縄張り、案内してあげるよ」
ほう、これはいい機会だ。山村の東側が見られる。
「そうだな。溜池とか見たい」
「お安い御用さ」
お雪に連れられ、道場の裏手から畦道を進んで溜池まで歩いていった。一面に広がる立派な田んぼは壮大な景色だ。途中、富盛の下人と見られる男たちが用水路を修繕していた。お雪に会釈している。
「ねえ大助、辰三郎の馬鹿が口走ってたのはね、仕官が駄目だったって話だよ」
「仕官? 福島さまの旗本になろうとしたのか」
「うん。ウチはね、今は郷士だけど、もともとは武家の出なの。いつか返り咲くのが親父の夢なんだ」
「そうか。まあ、残念だったな」
「うふふ。辰三郎なんか、山村の知行地をもらって、大助を家来にするって期待してたらしいよ」
「それは勘弁だ」
「まあ、私は今のままでいいんだけどね。親父ったら木嶋の嫡男と夫婦にしようと画策してさ、迷惑だったんだよ」
「なに!? それは誠でございますか!?」
「なんで六郎が反応するんだ?」
「い、いやあ……つい。へへへ」
溜池の前で、お雪が縄張りを説明してくれた。
「この池の向こうは押村。だから、ここは共同の水場なんだよ。あの杭までは富盛の領域さ」
「大きな溜池だな。よく見ると魚もたくさんいる」
「そうだよ。ウナギとかね。たまに釣れるよ」
「ウナギとはご馳走ですな。お雪さん、ところで、さっき用水路を修繕していた男たちは富盛家の方ですか?」
「六郎、なんでそんなこと聞くんだ?」
「いやあ、知り合いに似てたもんで、はい」
「ああ、ウチに下働きで雇った兄弟だよ。よく働くんだ。出身はたしか……摂津だったかしら」
「摂津ですか。それじゃ、私の勘違いですな」
六郎はむりやり会話に入ろうとしているようだったが、何か気になるのだろうか。
それにしても富盛の縄張りは見事だ。
溜池や二郷川上流の滝など、水の確保がしっかりしており、田畠に供給する用水路も整備が行き届いている。国宗家とは一概に比べられないが、村づくりには見習うべき点が多い。俺は感心しながら、彼らの努力を目に焼き付けていた。
「おーい、忠次郎。お前も竹刀を持ったらどうだ?」
辰三郎は忠次郎を見るたびにからかうのが常だ。
「私は結構です!」
「じゃあ、何でここにいるんだ?」
「大助さまのお供をしてるだけです。私に構わないでください!」
「ああ、そうかい! チッ!」
忠次郎は、俺が富盛家を訪れるのを嫌がっているようだ。辰三郎が苦手なのだろう。監視役として仕方なく付き合っているのだ。本来なら「福島藩お預かり」の俺を見張るのは役人の仕事だが、その役目は国宗家に押し付けられている。まあ、その方が気楽だが。
「辰三郎、よそ見せずにかかってこい!」
「おう、大助! 今日こそは倒してやる!」
辰三郎はいつもの変則的な動きで俺の隙を狙う。
「あぃやややあああああっ!」
正面から竹刀を縦に振ると見せかけ、左前に踏み込みながら横から攻めてくる。だが、その動きは完全に読めている。
「はい」
俺は竹刀を払いつつ、辰三郎の顎を軽く叩いた。
「あ痛っ!」
「もう一丁だ」
「ク、クソお!」
辰三郎はすぐに感情的になる。無茶苦茶に竹刀を振り回して突進してきたが、それを軽くかわして背中を叩いた。
「あー痛っ! なんでお前、そんなに強いんだ!?」
「お前より冷静だからかな?」
「なるほど! 冷静か、冷静だ!」
「単純だな。あ、ちょっと待て」
「何だ、大助」
「お前はもういい」
「おいおい、わいはもう終わりか?」
「師範代はいるのか?」
「さあな。今日は見てないぞ。それより勝負だ!」
「辰二郎は親父らを迎えに出かけたわよ」
ふいにお雪が姿を見せた。
「あ、姐御! 今日、親父が帰ってくるのか!?」
「ああ、そうみたいだね」
「じゃあ、あれはうまくいったんか!?」
「お黙り、この馬鹿!」
「お雪、帰ってきたら御当主に挨拶したいんだが」
「大助、しばらくはやめときな。機嫌悪いだろうから」
「姐御、もしかして不首尾だったのか?」
「だから、馬鹿は黙ってなさい!」
「チッ」
「大助、外歩こうか?」
「ん?」
「富盛の縄張り、案内してあげるよ」
ほう、これはいい機会だ。山村の東側が見られる。
「そうだな。溜池とか見たい」
「お安い御用さ」
お雪に連れられ、道場の裏手から畦道を進んで溜池まで歩いていった。一面に広がる立派な田んぼは壮大な景色だ。途中、富盛の下人と見られる男たちが用水路を修繕していた。お雪に会釈している。
「ねえ大助、辰三郎の馬鹿が口走ってたのはね、仕官が駄目だったって話だよ」
「仕官? 福島さまの旗本になろうとしたのか」
「うん。ウチはね、今は郷士だけど、もともとは武家の出なの。いつか返り咲くのが親父の夢なんだ」
「そうか。まあ、残念だったな」
「うふふ。辰三郎なんか、山村の知行地をもらって、大助を家来にするって期待してたらしいよ」
「それは勘弁だ」
「まあ、私は今のままでいいんだけどね。親父ったら木嶋の嫡男と夫婦にしようと画策してさ、迷惑だったんだよ」
「なに!? それは誠でございますか!?」
「なんで六郎が反応するんだ?」
「い、いやあ……つい。へへへ」
溜池の前で、お雪が縄張りを説明してくれた。
「この池の向こうは押村。だから、ここは共同の水場なんだよ。あの杭までは富盛の領域さ」
「大きな溜池だな。よく見ると魚もたくさんいる」
「そうだよ。ウナギとかね。たまに釣れるよ」
「ウナギとはご馳走ですな。お雪さん、ところで、さっき用水路を修繕していた男たちは富盛家の方ですか?」
「六郎、なんでそんなこと聞くんだ?」
「いやあ、知り合いに似てたもんで、はい」
「ああ、ウチに下働きで雇った兄弟だよ。よく働くんだ。出身はたしか……摂津だったかしら」
「摂津ですか。それじゃ、私の勘違いですな」
六郎はむりやり会話に入ろうとしているようだったが、何か気になるのだろうか。
それにしても富盛の縄張りは見事だ。
溜池や二郷川上流の滝など、水の確保がしっかりしており、田畠に供給する用水路も整備が行き届いている。国宗家とは一概に比べられないが、村づくりには見習うべき点が多い。俺は感心しながら、彼らの努力を目に焼き付けていた。
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スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
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