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みんな襲われてるのに、どうやら俺は相手にされてないようだ。

9. 逃げない

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 正随と名乗る裸の大学生は肩の辺りが傷だらけだった。あちこちにマァンティスに噛まれた痕がある。

「まぁ、手当てしないと」

 もみこは手際よく消毒した後、自家製と思われる謎の液体を塗り葉っぱを貼って包帯を巻いた。

「ありがとう。名前は?」
「池田もみこと申します」
「そう、もみこちゃんって言うんだ。可愛いねえ」

 ……こいつ、軽いな! さっきまで黄昏てたのに。それにマァンティスの死骸と血だらけの部屋でニヤニヤしてるし、頭イカれてるのかよ?

「では、一緒に静岡へ参りましょうね」
「うん、行く行く」

 彼は何ごとも無かったかの様に、散らかった部屋を片付け身支度を整えた。いや、俺も死骸の処理を手伝わされたが。

「もみこちゃん、何歳? 彼氏いるの?」

 何なんだ、こいつ? 鬱陶しい。こんなヤツと一緒に行動するとは思わなかった。折角二人っきりのデートチックな気分を味わってたのに残念だ。

「で、青葉っちもスカウトされたんだ」

 ……青葉っちねえ。

「まあ、そんなところだ」
「僕たち、何するんだろうね」

 それを俺に聞くな。知りたいのは山々なんだよ。

「詳細は現地で説明しますわ」
「一つだけ、聞いていいかな」
「はい、青葉さん。何でしょう?」
「彼は普通にマァンティスに襲われた。だが俺は、いつも避けられてる気がしてならない。何故だ?」
「……移動しながらで良いですか?」
「う、うんまぁ」
「それと絶対に逃げないって約束してください」

 ……は? 逃げることを警戒して詳細を話さないのか? いや、俺は薄々わかってるぞ。恐らくマァンティス狩りの手伝いでもやらされるんだろう。もみこは特殊な能力がある様だし。だけど俺は一般人だぞ?

「約束……しよう。今後、君に守って貰わなければならないしな」
「わたくしが守る? うふふ。青葉さん、ご自身のこと理解されてない様ですね」
「何のことだ?」
「貴方もわたくしと同等、マァンティスを倒せる力があるのですよ」

 何だって? この俺が? んなアホな!
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