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3.監視官
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「あー、良い天気ねえー、うーむ…」
潮の風が心地よい。わたくしは船の甲板に立ち、もう二度と戻れないであろう王都を眺めている。そしておもっきり背伸びをした。気持ちいい。
でもさっきから鋭い視線を感じる。一緒に乗り込んだ事務官。眼鏡を掛けて薄い唇が特徴の男性だ。
何だか愛想のない御方ね。
彼は一言も話さず、じーっと睨んでおいでです。ちょっと不気味で怖いけど気にすまい。わたくしを送り届ける役目なんだろう。
やがて、ペチェア島の小さな港に着いた。何やら手を振ってる男性が居る。黄色系ゴールドの髪色でセミロングヘアの人だ。
「何だあいつは…」
初めて事務官の声を聞いた。
「ようこそ、ペチェア島へ!ささ、どうぞー!」
屈託のない可愛らしい笑顔で出迎えられて嬉しかった。わたくしは差し出された手を握り下船する。
「初めまして!いやあ、噂に聞いてたけどアニエス様ってお美しい!」
「あ、ありがとう」
「僕は貴女の監視役と言うか、お世話をするバルナバと申します。二十二歳、独身です!あ、そうだ、一軒家をご用意してますから案内しますね」
ハイテンションの彼に少々たじろいだけど、明るいのは何よりね。島生活に不安があったのも吹っ飛んだ気分になる。でも事務官がその良い雰囲気をぶち壊した。
「おい、お前。何を勘違いしてるんだ?」
「え?あ、そう言えば貴方は…どなたですか?」
「俺は王都から派遣された監視官、ブリスだ。この島に住むことになった。いいか、アニエスに“様”など不要。こいつは要人ではない。ただの罪人だ。それを忘れるな!」
「…い、いや、まあそう固いこと言わず…彼女は特別待遇なんだし。と言うか王都からの派遣って聞いてないですよお」
「後でジェラール殿下に話しとく。お前はさっさと罪人の住まいへ案内しろ!」
「いてっ!」
監視官…いえ、この薄唇さんは冷酷な眼差しで彼を軽く小突いた。わたくしは『ジェラール殿下』という言葉にドキッとしたけど、直ぐにその感情は掻き消される。
「あの、監視官殿。暴力はいけませんわ」
「なんだと?」
「あー、僕は全然大丈夫だから!」
「いえ、いけません」
「お前、罪人の癖に私に歯向かうつもりか?」
「罪人の分際で申し訳ありません。でも…」
その瞬間、薄唇さんから正拳突きが飛んだ。なんと、殴りかかってきたのだ。思わず躱して彼の喉元へわたくしの拳を突き上げる。寸止めだけど。
「……」
「あ、ごめんなさい。つい反応して」
「ふん、流石は悪役令嬢だ。そうやって同級生を虐めてきたのか?あ、王太子も倒したそうだな。そりゃあ婚約破棄される訳だ」
な、何とでも言うがいいわ。何にも知らない癖に。
「凄いです、アニエス様!カッコいいです!」
「だーかーらー、“様”を付けるな!」
「バルナバさん、ありがとう。お家へ案内して!」
「はい、アニエス様!」
「……チッ」
それから薄唇さんは何も言わなくなった。わたくしは親切で陽気なバルナバさんと一緒に一軒家へ向かう。
「ここがご用意した古民家です。おっきくて広々としてますよー、ほら、お庭も十分でしょう!」
「まあ、素敵!海も見えて最高だわ!」
目の前に広がる美しい光景と味のある古民家、何だか嬉しくなっちゃいます。思わず感動したわたくしに薄唇さんがまたしても水を差す。
「おい、俺はこれからペチェア城へ向かう。お前、ちゃらちゃらせず、しっかり監視しとけよ!」
「はーい、かしこまりました。監視官殿!」
敬礼したバルナバさんは不満げな彼が去った後、わたくしに向かって舌を出した。
「うふふ」
「ヘンな奴が来たけど気にしない、気にしない」
「そうね~」
さて、改めて古民家を眺める。
ああ、ここがわたくしの故郷になるのね…。
潮の風が心地よい。わたくしは船の甲板に立ち、もう二度と戻れないであろう王都を眺めている。そしておもっきり背伸びをした。気持ちいい。
でもさっきから鋭い視線を感じる。一緒に乗り込んだ事務官。眼鏡を掛けて薄い唇が特徴の男性だ。
何だか愛想のない御方ね。
彼は一言も話さず、じーっと睨んでおいでです。ちょっと不気味で怖いけど気にすまい。わたくしを送り届ける役目なんだろう。
やがて、ペチェア島の小さな港に着いた。何やら手を振ってる男性が居る。黄色系ゴールドの髪色でセミロングヘアの人だ。
「何だあいつは…」
初めて事務官の声を聞いた。
「ようこそ、ペチェア島へ!ささ、どうぞー!」
屈託のない可愛らしい笑顔で出迎えられて嬉しかった。わたくしは差し出された手を握り下船する。
「初めまして!いやあ、噂に聞いてたけどアニエス様ってお美しい!」
「あ、ありがとう」
「僕は貴女の監視役と言うか、お世話をするバルナバと申します。二十二歳、独身です!あ、そうだ、一軒家をご用意してますから案内しますね」
ハイテンションの彼に少々たじろいだけど、明るいのは何よりね。島生活に不安があったのも吹っ飛んだ気分になる。でも事務官がその良い雰囲気をぶち壊した。
「おい、お前。何を勘違いしてるんだ?」
「え?あ、そう言えば貴方は…どなたですか?」
「俺は王都から派遣された監視官、ブリスだ。この島に住むことになった。いいか、アニエスに“様”など不要。こいつは要人ではない。ただの罪人だ。それを忘れるな!」
「…い、いや、まあそう固いこと言わず…彼女は特別待遇なんだし。と言うか王都からの派遣って聞いてないですよお」
「後でジェラール殿下に話しとく。お前はさっさと罪人の住まいへ案内しろ!」
「いてっ!」
監視官…いえ、この薄唇さんは冷酷な眼差しで彼を軽く小突いた。わたくしは『ジェラール殿下』という言葉にドキッとしたけど、直ぐにその感情は掻き消される。
「あの、監視官殿。暴力はいけませんわ」
「なんだと?」
「あー、僕は全然大丈夫だから!」
「いえ、いけません」
「お前、罪人の癖に私に歯向かうつもりか?」
「罪人の分際で申し訳ありません。でも…」
その瞬間、薄唇さんから正拳突きが飛んだ。なんと、殴りかかってきたのだ。思わず躱して彼の喉元へわたくしの拳を突き上げる。寸止めだけど。
「……」
「あ、ごめんなさい。つい反応して」
「ふん、流石は悪役令嬢だ。そうやって同級生を虐めてきたのか?あ、王太子も倒したそうだな。そりゃあ婚約破棄される訳だ」
な、何とでも言うがいいわ。何にも知らない癖に。
「凄いです、アニエス様!カッコいいです!」
「だーかーらー、“様”を付けるな!」
「バルナバさん、ありがとう。お家へ案内して!」
「はい、アニエス様!」
「……チッ」
それから薄唇さんは何も言わなくなった。わたくしは親切で陽気なバルナバさんと一緒に一軒家へ向かう。
「ここがご用意した古民家です。おっきくて広々としてますよー、ほら、お庭も十分でしょう!」
「まあ、素敵!海も見えて最高だわ!」
目の前に広がる美しい光景と味のある古民家、何だか嬉しくなっちゃいます。思わず感動したわたくしに薄唇さんがまたしても水を差す。
「おい、俺はこれからペチェア城へ向かう。お前、ちゃらちゃらせず、しっかり監視しとけよ!」
「はーい、かしこまりました。監視官殿!」
敬礼したバルナバさんは不満げな彼が去った後、わたくしに向かって舌を出した。
「うふふ」
「ヘンな奴が来たけど気にしない、気にしない」
「そうね~」
さて、改めて古民家を眺める。
ああ、ここがわたくしの故郷になるのね…。
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