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Ⅰ.貴方様と私の計略 ~ 出会いそして約束 ~
72.魔族と生い立ち
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そんな笑顔が出来ますのね。初めて見ましたわ。
ペンダントの呼び出しに、私は皆の前で躊躇なく呪を口にし、答える。
今回、呼び出しがあったのは、魔王陛下に繋がるものだった。
「久しいな。ミリュエラ嬢」
魔王陛下が何故か、ミリュエラと呼ぶのか若干不思議に思いながら、私は返答する。
「お久しぶりですわ。魔王陛下。如何なされましたか」
「いや。なに、セレミオとは話すのに、私と話してくれないのは何故かと思ってな」
魔王陛下の言葉に、私は魔王陛下に話を通していなかったことを思い出す。
「申し訳ありません。まずは、魔王陛下にお話を通すべきでした」
通信装置の向こうで、言葉を無くされたような沈黙と忍び笑いが聞こえてくる。
私は、首をかしげながらあちらの返答を待つ。
「そういうことではない」
魔王陛下は、それきり黙ってしまわれ、私は戸惑う。
「えっと・・・?」
助けを求めるように、ユミナ様とマルクス、ヘーゼルを見やる。
マルクスは、面白がるような呆れたような表情をし、
ヘーゼルは、苦虫をかみつぶしたような表情をしていた。
ユミナ様は、眉間に皺を寄せ、若干不機嫌そうな表情をされている。
えっと・・・皆の表情の意味もわからないわ・・・なぜ?
「くく・・・テイラー嬢は、あまり気にしなくていいですよ。
クロービス様が子どもっぽいだけです」
「え、ええ・・・でも、それも意味が分からないわ・・・」
戸惑いをそのまま口に乗せれば、
「まぁ、そうですよね」
と、セレミオ様が笑いを押し殺したように返してきました。
何かしら・・・何となくですけれど、私以外は意味を理解しているような?
「んんっ!まぁ、クロービス様の意味のわからない行動は、脇に寄せておいてですね、先日の調査結果を報告させてもらってもよいですか?」
セレミオ様は、咳払いをひとつされ、話題を切り替えてきました。
私は、解せぬと思いつつ、話題の転換に乗ることにする。
「ええ。よろしくお願いします」
今日の夕方目処と仰っていましたのに、随分と早いですわ。
今はお昼過ぎ。午後のお茶の時間まで、まだ、だいぶある時間帯ですもの。
「ありがとうございます。
魔族暴走ですが、我々が意図的に起こしたものではありません」
我々・・・ね。
こちらとしても、クロービス魔王陛下を疑っているわけではないわ。
先日会ったばかりですけれど、彼ならこんな手間のかかる手段は選ばない。そんな気がしますわ。
「それは・・・」
「それは、わかっている」
私の返答に被せるように、ユミナ様が返答される。
「もう一度言うが、それはわかっている。
別にクロービスを怪しんでいるわけではない。とは言え、裏付けはとらせてもらったが。
時間が惜しい。腹の探り合いをしたいたなら、よそでやってもらえないか」
ユミナ様は、若干不機嫌そうに話されている。
痛くもない腹を探られたから?
あるいは、痛い何かがあるのかしら?
いえ、どちらも違う気がする。
何というか、もっと感情的な部分で不快感を表していらっしゃるような・・・そんな感じがしますわ。
「はぁ。だから言っただろう。それは、ユミナの機嫌を損ねると」
沈黙をされていた、魔王陛下がセレミオ様に呆れたように口を出される。
「ユミナの裏づけだって、施政者であれば当たり前だ。
身内であれ、疑わしきもの調べねばならん。あたりまえだろうが。
そもそもだ、こちらを信用していないなら、我らに聞いてこぬと思うぞ」
「しかしですね、クロービス様。
我らとて侮られるわけには・・・」
セレミオ様がそこで口を閉じる。
「なるほど、お前は私が侮られると考えたわけだな?」
魔王陛下の声は、地を這うように低いものになり、不機嫌を隠していない。
恐らくですけれど、顔も怒っていらっしゃるのではないかしら。
とは言え、内輪揉めはよそでやっていただきたいわね。
「大変申し訳ございません。クロービス魔王陛下。
シュトラウス様におかれましても、無礼をお許しください」
・・・セレミオ様に何があったのかしら?
そう、疑わずにはいられないほど、彼は慇懃な態度をとっている。
いえ、これが本来の彼なのかしら?
「まぁ、よかろう。ユミナもよいか」
「かまわない。時間が惜しい。先に進めてもらえるか」
ユミナ様、表情は険しいままですが、不機嫌な感じは和らいでいるように感じます。
「承知いたしました。
先ほどもお伝えした通り、我らクロービス魔王陛下配下の者によって、起こされたものではありません。
しかし、魔族が起こしたものであることも間違いではありません。
皆様は、こちらの魔王陛下についてどれ程の知識がおありでしょうか」
私達は、その問いにお互いを見つめ、順に答えていく。
「私は魔界は4人の魔王陛下によって納められ、その1柱をクロービス魔王陛下がになっておられると言うこと。
魔界に住む魔族と私達人族では、根本的な思想や思考に違いが多くあるということ。でしょうか」
「自分は、それに加えて、クロービス魔王陛下の管轄領とシュトラウス辺境伯領とが特殊な道で繋がっていること。
代々の辺境伯とクロービス魔王陛下が密約を交わしていること。ぐらいか」
「皆、よく知ってんね。俺は、特殊な道を通る条件と魔族の生まれ方と魔王陛下がどうやって選出されるか。とかかな」
「私は、ヘーゼルとマルクスの知識に戦いているんだが。
そうだな。現在魔界をすべる王は、クロービスの他に、
魔王カストロト、魔王ルージュ、魔王セレスティンだったか。
魔王達の間にも、序列が存在していて、中央を納めるクロービスが筆頭だったか?
ただ、力で言えば、カストロトとは同列だと聞いたことがあるな。
魔王セレスティンは、魔力が優れる学者肌、
魔王ルージュは、快楽主義者だったか」
ユミナ様の口から零れる、魔界と魔王の知識に私は、素直に凄いと思いました。
恐らく、人としてこれ程、現在の魔界情勢に詳しい方はほぼいないと思います。
「なるほど。皆様の情報を統合されれば、こちらの現在の情勢としては、概ね間違いの無い情報です。
付け加えるなら、ルージュ様がクロービス様に懸想されお困りなのとカストロト様が対抗意識を持たれていること、セレスティン様とは一応協力体制にあること。でしょうか」
あ、ルージュ魔王陛下は、女性に分類されるのかしら。
あら、でも魔王陛下は、男性しかなれないとお聞きした事があったような?
私が疑問を浮かべていると、マルクスが耳打ちしてきます。
「女性の魔王陛下も存在したことはあるけど、現在の魔王陛下は、生物学的には全員男だよ」
まぁ。では、ルージュ様は、心は女性という方なのかしら?
「マルクス、近い」
ユミナ様が、そう言いマルクスと私の距離を開く。
「へいへい。でも、旦那にそれ言う資格まだ無いんじゃね?」
マルクスの言葉に、疑問符を浮かべつつユミナ様を見やれば、苦虫をかみつぶしたような表情をされています。
「あのー話を続けても?」
セレミオ様の問いかけに、ユミナ様は大きく息をつかれる。
「すまない。続けてくれ」
「では、つづけます。
今回、魔族暴走でこちらが把握できていないもので、引き取り人として出向いていたものですが、セレスティン様の所に務める侍従の者達でした。
そして、問題を起こしていたのは、恐らくカストロト様の領地の者達と推測されます。
理由の一つは、問題を起こしている種族がカストロト様の領地に多く居るというのもありますが、セレスティン様の元には集わない類の者達が多いというのもあります。
因みに、ルージュ様については、問題から外しても良いかもしれません。まぁ、今の所はといった感じではありますが・・・
で、セレスティン様の侍従に手伝いを頼んだのかと、我が部署に確認してみたところ、ちょっと問題がありました。
部署としての回答は、そんなことはしていない。というもの。
当たり前ではあるんです。部署には、私やクロービス様の許可無く、他部署含む増援を禁じています。
それにもかかわらず、侍従が一人だけ手が回らなかったので、増援を頼んだと答えました。
調べてみたところ、近年侍従に昇格したもので、セレスティン様の領地出身であることがわかりました。
彼の親類縁者をあらったところ、孤児でありセレスティン様直轄の孤児院出身でした。
繋がりを証明できるだけの何かは、出てこなかったのですが、黒寄りのグレーと言ったところでしょうか」
セレミオ様の話を一通り聞いたところで、私は気になる事を聞くことにしました。
「引き取り人として出向かれていた侍従の名前と増援したと答えた侍従の名前はわかりますか。
あと、特徴があれば教えてください」
「ちょっとお待ちを」
セレミオ様の声と一緒に、紙をくる音が聞こえてくる。
「あった。えっとですね、
そちらに出向いたものは、3人。
ジェット、クレイ、ミャガーですね。
彼らの特徴は、シュトラウス様が把握されている以上のものはありません。
個人の印章ではなく種族の印章のみを保持するだけのクラスです。
孤児の侍従は、ハーミット。
特徴は、種族の印章すら保持しない下位クラス。
髪は灰に近い緑。耳は狐の耳で、肌は白い。いや、青白いと言った方が正かもしれません。
目は、髪と同じ色で、瞳孔が狐のそれに近い。
肉体的には、魔族としては小柄で細身。
人族と比べると、平均的といった感じでしょうか」
私は、4人の名前を頭に刻み、マルクスとヘーゼルを見やります。
特徴に合致するものが、調査に浮上していないかを確認するために、口を開こうとすれば、ヘーゼルに止められる。
「もう一つ掘り下げておきたいのだが、魔王カストロト領のものだと判断した理由について話してくれ」
ユミナ様が、セレミオ様へと問いかけます。
「はい。それについては、憶測の域を出る確証は何も出てきていません。
ただ、近年の情勢を鑑みて判断したとしか言えません。
また、セレスティン様の元に集うタイプの種族ではないと言うのもあります。
今回問題を起こしているのは、カストロト様を心酔する種族でした。
傾向として、ルージュ様の元にはルージュ様のような方々多く集われ、セレスティン様の元には頭脳派タイプが多く集います。
カストロト様の元には、強さを求めるものが多く集っているようです。
力で言えば、クロービス様も劣っていないなずですが、何故かカストロト様の元へと集われる傾向にあります」
「・・・何か問題でもあるのか」
クロービス魔王陛下が、思わずと言ったとように口を開かれる。
うん。何となく理由がわかる気もするわ。
魔王カストロトがどんな方か知らないから、言わないけれど。
「いいえ?ただ、何故なのかなと思っただけです」
「・・・そうか」
この主従は、何というか面白い感じですわよね。
セレミオ様は何故、クロービス魔王陛下に着いたのかしら。
何となくだけれど、セレミオ様は主と仰ぐ人をとても選ぶような気がするのよね。
「魔王カストロトか。
俺の記憶では、武人と言った感じだった気がする。
筋肉だるまと誰かが呼んでいるのを聞いたことがあるけど、綺麗に隆起した筋肉を持っている御仁だよね。
でも、頭の方も筋肉質だった記憶もあるんだけど」
マルクスが、魔王カストロトについて言っています。
・・・あなた、もしかしなくても、4人の魔王全てを把握しているのではなくて?
私が胡乱な目を向けているのに気付いたのか、マルクスは、やらかしたと言った風な表情をして、後でと声無く伝えてきます。
私は、ため息一つつき、頷き返しておきます。
「クロービス。一つ確認したい」
「なんだ?」
ユミナ様は、少しだけ逡巡した後、魔王陛下に確認をとる。
「クロービスは、今回の件に介入するか?」
「・・・そうだな。私が魔王として侮られていることが、要因の一つではあるのだが・・・あまり、介入する気はないな。
とゆうか、私が介入しなくともユミナが手痛いしっぺ返しをしてくれそうと言うのもあるが・・・
現状、侮りたければ侮らせておけばよいと思っている。
ただ、直接私に手を出すわけではなく、周りに手を出してるあたりは、少々頭にきてはいるが」
ユミナ様は、少しだけ考えられた上で、更に言葉を重ねられる。
「なるほど。では、クロービスは、共倒れを狙った。そういうスタンスでいろ。
恐らく、クロービスの責任問題を追求したいのだと思うが」
「そうだな。私のあずかり知らぬ処で、私の領分で問題が起きた。と、したいのだろうな。
まぁ、こちらとしても気づいているから、そううまい話はないわけなんだが」
魔王陛下は、鼻で笑うように話されている。
「事後でよければ、子細を渡すがどうする」
「ふむ。事後というのは」
魔王陛下が少しだけ逡巡する気配を感じる。
「いや。情報規制をしておきたいだけだ。
別に、クロービスを疑うわけではないが、今回の件を鑑みるに、クロービス領にも間者がいるだろう」
「なるほどな。まぁ、それでよい。こちらは、その時間に間者を一掃・・・と言いたいが、全てを把握して泳がせておこうか。
何かしら、そちらに関する情報が出れば、知らせよう」
私は、魔王陛下が魔王陛下たる所以を垣間見た気がしましたわ。
クロービス魔王陛下は、魔王随一の武力を持ちながら、頭もキレる。
敵には回したくない、御仁のお一人ですわね。私では、勝てる気がしませんもの。
そんな事を考えていれば、ユミナ様の手が頭へとのび、撫でられる。
え?
突然のユミナ様との触れ合いに、昨日のことを思い出しかけて、行き着いた結論も同時に思い出す。
あ、あれは、深い意味は無い。きっと、多分辺境伯領の挨拶なのですわ。
「それで構わない。こちらも、クロービスに直接関するものがあれば、随時連携しよう」
私が、慌てふためいてる内に、ユミナ様が魔王陛下と話を付けられ、通信が終わりました。
な、なにかしら。私の役立たず感が・・・
「さてと。あちらとは、話が付いたわけだが、マルクス。私に話しておくことあるかい?」
ユミナ様は、マルクスの違和感に気づかれた?
いえ、多分先ほどの知識で何か感じるものがあったのかも。
マルクスは、私へと視線を投げかけてきます。
「・・・マルクスが話しても良いと思うなら話せば良いし、そう思わないなら話さなければ良いと思いますわ。
マルクスが、どうしたいかに委ねますし、それによってユミナ様がどうするかにも」
ユミナ様の手は、相変わらず私の頭を撫でていたのですけれど、言い終わる頃には動きが止まっていた。
というか、震えている?
少しだけ心配になり、ユミナ様を見上げれば、笑いを堪えるように震えていらっしゃいました。
「んん。いや、すまない。別に、話さなくても問題はないんだ。
ミリィの言葉を聞けば、話されないのは私の信用の問題のようだからね」
「ああ。なるほど。俺は、一瞬あちらの人間かを疑われたわけですね。
心外だと言いたいところですが、旦那の考えも理解できるからなぁ」
マルクスは、少し考えて腹を決めたのか、話すことにしたようです。
私は、そっと盗聴防止のペンダントを作動させる。
「お嬢には、後で話そうと思ってたし、丁度良いか。
まぁ、俺の生い立ちに関する、つまんない話ですよ。
お嬢には前に話したけれど、系譜を辿ると俺とクロービス魔王陛下は、血族になる。
とは言え、遠い血族だ。俺から数えて10ほど遡ってクォーターといった感じ。
ただ、クロービス魔王陛下からすれば、妹君の血族になる。
魔族の寿命は人と同等と言われているが、魔王陛下は例外に属する。
クロービス魔王陛下のお年も千を越えているはずだ。
あと、魔族との婚姻が少ないせいで、あまり知られてはいないが、人と縁を結んだ魔族は、少しだけ短命になる。
とは言っても、100が70になるくらいの話なんだけど。
で、俺の系譜はクロービス魔王陛下の妹君の系譜になるわけ。
それで、ちょっと厄介なのが俺。
俺は、先祖返りと言われている。
魔族の系譜の先祖返りなんてろくなのがいないってのを後で知った。
奇形だったり、精神に異常をきたしていたりとか、そんな感じ。
まぁ、俺は奇跡的にまだましな方だと思ってる」
そこまで話して、マルクスは少しだけ自嘲気味に笑みを見せる。
「でだ、先祖帰りの俺は、魔族としての姿も持っててな、実は魔界に籍がある。
クロービス魔王陛下の血族って事で、クロービス領に所属しているわけだけど、一応中立って位置を取ってる。
俺と魔界の俺が、繋がるのはクロービス魔王陛下位かな。
一応、こちらとあちらに籍があることは届け出てあるけど、魔族として正規にこちらにいる者達は、大体そうだからあまり問題視されてないし、俺であるとも認識されてないと思う。
お嬢、そこの鏡見て」
マルクスの言葉に、執務室にある調度品としての鏡を見れば、マルクスとは違う人物が写っていた。
目の白目の部分が黒く、瞳の白い反転した目を除けば、整った顔立ち。
羊の角のようで、それよりも力強さを感じる角が、片側に一つ。
耳が少しだけ尖っているようだけれど、人と同じ様な姿形。
「それが、魔族としての俺。
人としての血を持ちながら、角持ちの上位魔族扱い。
本来は2本の角があるものらしいが、俺の場合は1本で2本並みの力を備えてるらしいよ」
鏡を眺めながら、魔族としてのマルクスをマジマジと眺めていれば、少しだけ揺らぎ、普段のマルクスの姿へと変わっていた。
「因みに、実は魔力も仕えるから、通信装置とかもろもろ使えたりするし、感知が出来たりする。
あと、転移魔術も仕えるから、王都との行き来も俺の場合は、時間差が発生するから2刻くらいで出来たりする」
なんだろう。マルクスが有能というよりは異常?
実は、私たちの中で一番凄いのではなくて?
「あと、今話したの知ってるのは、ヘーゼルだけ。侯爵殿も知らないかな。
それからお嬢。単純な戦闘力ならヘーゼルが上だよ。俺、勝てたことないから」
思わずヘーゼルへと目を向ければ、目線をそらされる。
ヘーゼルも普通ではないと思っていたけれど、思っていた以上でしたわ。
「・・・聞かなければ良かった。知らなきゃ、有能だなで済んだ内容だった」
ユミナ様が少しだけうなだれて、恨み言を呟いている。
まぁ、わからなくはないですけれど。
「で、お嬢。これ知っても、俺を使う?」
マルクスの問に、私は首をかしげる。
マルクスはマルクスなのでは?
「そうですわね。それによって、マルクスがマルクスでなくなると言うなら、問題なのですけれど、マルクスはマルクスなのでしょう?」
私の言葉にマルクスは、少し笑ったようです。
「旦那は?」
ユミナ様は、長く思いため息をつかれ、口を開かれる。
「そうだな。君がミリィを裏切らない内は信用しよう」
え?何故、私ですの?
「私としては、力あるものがミリィの側に居ることは、安心できるしな」
困惑していた、私はユミナ様が続けられた一言を聞き逃したしまいました。
ユミナ様へ問おうと思い、目を向ければマルクスを真剣な表情で見つめられていたため、口を挟むことを憚られました。
「旦那はそれでいいのかい?」
マルクスが可笑しそうに、ユミナ様へと問う。
「構わない。私が裏切られてもミリィを裏切らないのならば。
それに、そうなった場合、ミリィを守るために必要だと言う事だろう」
私は、少しだけ心配になり、ユミナ様の袖を引く。
それに気づいたユミナ様は、私へと顔を向けてくださる。
「どうしたの?」
「私、ユミナ様が私のためにユミナ様を切り捨てる事は望みませんよ?」
ユミナ様は、ピキリと固まられ高と思えば、項垂れる。
「なんで、(二人きりではない)今言うかな・・・」
ユミナ様の言葉に、言うべきではなかったかと、不安になり袖から手を離せば、ユミナ様から手を握られ指を絡ませられる。
「だそうだよ」
「ふ。お嬢の一人勝ちだね」
マルクスの言葉に、え?と顔を向ければ、優しく笑っている笑顔が目に入る。
マルクスのあんな表情見たことないですわね。
「ふむ。自分の生い立ちも話しておくか?」
今まで黙っていたヘーゼルが口を開く。
それに、慌てたのはユミナ様で
「いや。ヘーゼルは、いいよ。先日のやり取りでミリィを裏切らないだろう事はわかってるし、何よりもう藪はつつきたくない」
まぁ。わからなくもないですわ。
ヘーゼルの生い立ちも、間違いなく重い話ですし、いわくもありますし。
あら?そう考えると、私の周りは、こう普通ではない人達が多いことになりますわね?何故かしら?
「そうか・・・」
ヘーゼルは、何故残念そうですの?話したかったの?
少し残念そうな、返答に困惑しながら見つめていると、ヘーゼルが首をかしげてくる。
私は、わけがわからないので、同じように首をかしげる。
しばらくそうしていれば、マルクスとユミナ様の方から、吹き出すような小さな声が聞こえた。
「くくっ・・・何やってんの2人して」
マルクスが笑いながら、私とヘーゼルに言う。
「何とは?分からないから、首をかしげただけですけれど」
「同じく」
私とヘーゼルの返答に、もう駄目だとばかりに、マルクスが声を出して笑いだす。
しかも、お腹を抱えて笑ってますわ。何故ですの。
「うん。仲が良さそうで、何よりだよ。少しだけ・・・」
少しだけの後の言葉は、小さくてマルクスの笑い声にかき消えてしまったけれど、ユミナ様は優しくこちらを見ていました。
そして、繋がれたままの手に今更ながら、恥ずかしさを感じる。
繋がれた手は、私よりも体温が低いのか、少しだけ冷たく感じる。
でも、絡められた指先からは、妖しさと熱を感じていて。
私は、早く離して欲しいと思いながら、このまま繋がれていたいという矛盾した思いを抱いていた。
無意識に手に力を込め、握り返していたことに気づかぬまま・・・
ペンダントの呼び出しに、私は皆の前で躊躇なく呪を口にし、答える。
今回、呼び出しがあったのは、魔王陛下に繋がるものだった。
「久しいな。ミリュエラ嬢」
魔王陛下が何故か、ミリュエラと呼ぶのか若干不思議に思いながら、私は返答する。
「お久しぶりですわ。魔王陛下。如何なされましたか」
「いや。なに、セレミオとは話すのに、私と話してくれないのは何故かと思ってな」
魔王陛下の言葉に、私は魔王陛下に話を通していなかったことを思い出す。
「申し訳ありません。まずは、魔王陛下にお話を通すべきでした」
通信装置の向こうで、言葉を無くされたような沈黙と忍び笑いが聞こえてくる。
私は、首をかしげながらあちらの返答を待つ。
「そういうことではない」
魔王陛下は、それきり黙ってしまわれ、私は戸惑う。
「えっと・・・?」
助けを求めるように、ユミナ様とマルクス、ヘーゼルを見やる。
マルクスは、面白がるような呆れたような表情をし、
ヘーゼルは、苦虫をかみつぶしたような表情をしていた。
ユミナ様は、眉間に皺を寄せ、若干不機嫌そうな表情をされている。
えっと・・・皆の表情の意味もわからないわ・・・なぜ?
「くく・・・テイラー嬢は、あまり気にしなくていいですよ。
クロービス様が子どもっぽいだけです」
「え、ええ・・・でも、それも意味が分からないわ・・・」
戸惑いをそのまま口に乗せれば、
「まぁ、そうですよね」
と、セレミオ様が笑いを押し殺したように返してきました。
何かしら・・・何となくですけれど、私以外は意味を理解しているような?
「んんっ!まぁ、クロービス様の意味のわからない行動は、脇に寄せておいてですね、先日の調査結果を報告させてもらってもよいですか?」
セレミオ様は、咳払いをひとつされ、話題を切り替えてきました。
私は、解せぬと思いつつ、話題の転換に乗ることにする。
「ええ。よろしくお願いします」
今日の夕方目処と仰っていましたのに、随分と早いですわ。
今はお昼過ぎ。午後のお茶の時間まで、まだ、だいぶある時間帯ですもの。
「ありがとうございます。
魔族暴走ですが、我々が意図的に起こしたものではありません」
我々・・・ね。
こちらとしても、クロービス魔王陛下を疑っているわけではないわ。
先日会ったばかりですけれど、彼ならこんな手間のかかる手段は選ばない。そんな気がしますわ。
「それは・・・」
「それは、わかっている」
私の返答に被せるように、ユミナ様が返答される。
「もう一度言うが、それはわかっている。
別にクロービスを怪しんでいるわけではない。とは言え、裏付けはとらせてもらったが。
時間が惜しい。腹の探り合いをしたいたなら、よそでやってもらえないか」
ユミナ様は、若干不機嫌そうに話されている。
痛くもない腹を探られたから?
あるいは、痛い何かがあるのかしら?
いえ、どちらも違う気がする。
何というか、もっと感情的な部分で不快感を表していらっしゃるような・・・そんな感じがしますわ。
「はぁ。だから言っただろう。それは、ユミナの機嫌を損ねると」
沈黙をされていた、魔王陛下がセレミオ様に呆れたように口を出される。
「ユミナの裏づけだって、施政者であれば当たり前だ。
身内であれ、疑わしきもの調べねばならん。あたりまえだろうが。
そもそもだ、こちらを信用していないなら、我らに聞いてこぬと思うぞ」
「しかしですね、クロービス様。
我らとて侮られるわけには・・・」
セレミオ様がそこで口を閉じる。
「なるほど、お前は私が侮られると考えたわけだな?」
魔王陛下の声は、地を這うように低いものになり、不機嫌を隠していない。
恐らくですけれど、顔も怒っていらっしゃるのではないかしら。
とは言え、内輪揉めはよそでやっていただきたいわね。
「大変申し訳ございません。クロービス魔王陛下。
シュトラウス様におかれましても、無礼をお許しください」
・・・セレミオ様に何があったのかしら?
そう、疑わずにはいられないほど、彼は慇懃な態度をとっている。
いえ、これが本来の彼なのかしら?
「まぁ、よかろう。ユミナもよいか」
「かまわない。時間が惜しい。先に進めてもらえるか」
ユミナ様、表情は険しいままですが、不機嫌な感じは和らいでいるように感じます。
「承知いたしました。
先ほどもお伝えした通り、我らクロービス魔王陛下配下の者によって、起こされたものではありません。
しかし、魔族が起こしたものであることも間違いではありません。
皆様は、こちらの魔王陛下についてどれ程の知識がおありでしょうか」
私達は、その問いにお互いを見つめ、順に答えていく。
「私は魔界は4人の魔王陛下によって納められ、その1柱をクロービス魔王陛下がになっておられると言うこと。
魔界に住む魔族と私達人族では、根本的な思想や思考に違いが多くあるということ。でしょうか」
「自分は、それに加えて、クロービス魔王陛下の管轄領とシュトラウス辺境伯領とが特殊な道で繋がっていること。
代々の辺境伯とクロービス魔王陛下が密約を交わしていること。ぐらいか」
「皆、よく知ってんね。俺は、特殊な道を通る条件と魔族の生まれ方と魔王陛下がどうやって選出されるか。とかかな」
「私は、ヘーゼルとマルクスの知識に戦いているんだが。
そうだな。現在魔界をすべる王は、クロービスの他に、
魔王カストロト、魔王ルージュ、魔王セレスティンだったか。
魔王達の間にも、序列が存在していて、中央を納めるクロービスが筆頭だったか?
ただ、力で言えば、カストロトとは同列だと聞いたことがあるな。
魔王セレスティンは、魔力が優れる学者肌、
魔王ルージュは、快楽主義者だったか」
ユミナ様の口から零れる、魔界と魔王の知識に私は、素直に凄いと思いました。
恐らく、人としてこれ程、現在の魔界情勢に詳しい方はほぼいないと思います。
「なるほど。皆様の情報を統合されれば、こちらの現在の情勢としては、概ね間違いの無い情報です。
付け加えるなら、ルージュ様がクロービス様に懸想されお困りなのとカストロト様が対抗意識を持たれていること、セレスティン様とは一応協力体制にあること。でしょうか」
あ、ルージュ魔王陛下は、女性に分類されるのかしら。
あら、でも魔王陛下は、男性しかなれないとお聞きした事があったような?
私が疑問を浮かべていると、マルクスが耳打ちしてきます。
「女性の魔王陛下も存在したことはあるけど、現在の魔王陛下は、生物学的には全員男だよ」
まぁ。では、ルージュ様は、心は女性という方なのかしら?
「マルクス、近い」
ユミナ様が、そう言いマルクスと私の距離を開く。
「へいへい。でも、旦那にそれ言う資格まだ無いんじゃね?」
マルクスの言葉に、疑問符を浮かべつつユミナ様を見やれば、苦虫をかみつぶしたような表情をされています。
「あのー話を続けても?」
セレミオ様の問いかけに、ユミナ様は大きく息をつかれる。
「すまない。続けてくれ」
「では、つづけます。
今回、魔族暴走でこちらが把握できていないもので、引き取り人として出向いていたものですが、セレスティン様の所に務める侍従の者達でした。
そして、問題を起こしていたのは、恐らくカストロト様の領地の者達と推測されます。
理由の一つは、問題を起こしている種族がカストロト様の領地に多く居るというのもありますが、セレスティン様の元には集わない類の者達が多いというのもあります。
因みに、ルージュ様については、問題から外しても良いかもしれません。まぁ、今の所はといった感じではありますが・・・
で、セレスティン様の侍従に手伝いを頼んだのかと、我が部署に確認してみたところ、ちょっと問題がありました。
部署としての回答は、そんなことはしていない。というもの。
当たり前ではあるんです。部署には、私やクロービス様の許可無く、他部署含む増援を禁じています。
それにもかかわらず、侍従が一人だけ手が回らなかったので、増援を頼んだと答えました。
調べてみたところ、近年侍従に昇格したもので、セレスティン様の領地出身であることがわかりました。
彼の親類縁者をあらったところ、孤児でありセレスティン様直轄の孤児院出身でした。
繋がりを証明できるだけの何かは、出てこなかったのですが、黒寄りのグレーと言ったところでしょうか」
セレミオ様の話を一通り聞いたところで、私は気になる事を聞くことにしました。
「引き取り人として出向かれていた侍従の名前と増援したと答えた侍従の名前はわかりますか。
あと、特徴があれば教えてください」
「ちょっとお待ちを」
セレミオ様の声と一緒に、紙をくる音が聞こえてくる。
「あった。えっとですね、
そちらに出向いたものは、3人。
ジェット、クレイ、ミャガーですね。
彼らの特徴は、シュトラウス様が把握されている以上のものはありません。
個人の印章ではなく種族の印章のみを保持するだけのクラスです。
孤児の侍従は、ハーミット。
特徴は、種族の印章すら保持しない下位クラス。
髪は灰に近い緑。耳は狐の耳で、肌は白い。いや、青白いと言った方が正かもしれません。
目は、髪と同じ色で、瞳孔が狐のそれに近い。
肉体的には、魔族としては小柄で細身。
人族と比べると、平均的といった感じでしょうか」
私は、4人の名前を頭に刻み、マルクスとヘーゼルを見やります。
特徴に合致するものが、調査に浮上していないかを確認するために、口を開こうとすれば、ヘーゼルに止められる。
「もう一つ掘り下げておきたいのだが、魔王カストロト領のものだと判断した理由について話してくれ」
ユミナ様が、セレミオ様へと問いかけます。
「はい。それについては、憶測の域を出る確証は何も出てきていません。
ただ、近年の情勢を鑑みて判断したとしか言えません。
また、セレスティン様の元に集うタイプの種族ではないと言うのもあります。
今回問題を起こしているのは、カストロト様を心酔する種族でした。
傾向として、ルージュ様の元にはルージュ様のような方々多く集われ、セレスティン様の元には頭脳派タイプが多く集います。
カストロト様の元には、強さを求めるものが多く集っているようです。
力で言えば、クロービス様も劣っていないなずですが、何故かカストロト様の元へと集われる傾向にあります」
「・・・何か問題でもあるのか」
クロービス魔王陛下が、思わずと言ったとように口を開かれる。
うん。何となく理由がわかる気もするわ。
魔王カストロトがどんな方か知らないから、言わないけれど。
「いいえ?ただ、何故なのかなと思っただけです」
「・・・そうか」
この主従は、何というか面白い感じですわよね。
セレミオ様は何故、クロービス魔王陛下に着いたのかしら。
何となくだけれど、セレミオ様は主と仰ぐ人をとても選ぶような気がするのよね。
「魔王カストロトか。
俺の記憶では、武人と言った感じだった気がする。
筋肉だるまと誰かが呼んでいるのを聞いたことがあるけど、綺麗に隆起した筋肉を持っている御仁だよね。
でも、頭の方も筋肉質だった記憶もあるんだけど」
マルクスが、魔王カストロトについて言っています。
・・・あなた、もしかしなくても、4人の魔王全てを把握しているのではなくて?
私が胡乱な目を向けているのに気付いたのか、マルクスは、やらかしたと言った風な表情をして、後でと声無く伝えてきます。
私は、ため息一つつき、頷き返しておきます。
「クロービス。一つ確認したい」
「なんだ?」
ユミナ様は、少しだけ逡巡した後、魔王陛下に確認をとる。
「クロービスは、今回の件に介入するか?」
「・・・そうだな。私が魔王として侮られていることが、要因の一つではあるのだが・・・あまり、介入する気はないな。
とゆうか、私が介入しなくともユミナが手痛いしっぺ返しをしてくれそうと言うのもあるが・・・
現状、侮りたければ侮らせておけばよいと思っている。
ただ、直接私に手を出すわけではなく、周りに手を出してるあたりは、少々頭にきてはいるが」
ユミナ様は、少しだけ考えられた上で、更に言葉を重ねられる。
「なるほど。では、クロービスは、共倒れを狙った。そういうスタンスでいろ。
恐らく、クロービスの責任問題を追求したいのだと思うが」
「そうだな。私のあずかり知らぬ処で、私の領分で問題が起きた。と、したいのだろうな。
まぁ、こちらとしても気づいているから、そううまい話はないわけなんだが」
魔王陛下は、鼻で笑うように話されている。
「事後でよければ、子細を渡すがどうする」
「ふむ。事後というのは」
魔王陛下が少しだけ逡巡する気配を感じる。
「いや。情報規制をしておきたいだけだ。
別に、クロービスを疑うわけではないが、今回の件を鑑みるに、クロービス領にも間者がいるだろう」
「なるほどな。まぁ、それでよい。こちらは、その時間に間者を一掃・・・と言いたいが、全てを把握して泳がせておこうか。
何かしら、そちらに関する情報が出れば、知らせよう」
私は、魔王陛下が魔王陛下たる所以を垣間見た気がしましたわ。
クロービス魔王陛下は、魔王随一の武力を持ちながら、頭もキレる。
敵には回したくない、御仁のお一人ですわね。私では、勝てる気がしませんもの。
そんな事を考えていれば、ユミナ様の手が頭へとのび、撫でられる。
え?
突然のユミナ様との触れ合いに、昨日のことを思い出しかけて、行き着いた結論も同時に思い出す。
あ、あれは、深い意味は無い。きっと、多分辺境伯領の挨拶なのですわ。
「それで構わない。こちらも、クロービスに直接関するものがあれば、随時連携しよう」
私が、慌てふためいてる内に、ユミナ様が魔王陛下と話を付けられ、通信が終わりました。
な、なにかしら。私の役立たず感が・・・
「さてと。あちらとは、話が付いたわけだが、マルクス。私に話しておくことあるかい?」
ユミナ様は、マルクスの違和感に気づかれた?
いえ、多分先ほどの知識で何か感じるものがあったのかも。
マルクスは、私へと視線を投げかけてきます。
「・・・マルクスが話しても良いと思うなら話せば良いし、そう思わないなら話さなければ良いと思いますわ。
マルクスが、どうしたいかに委ねますし、それによってユミナ様がどうするかにも」
ユミナ様の手は、相変わらず私の頭を撫でていたのですけれど、言い終わる頃には動きが止まっていた。
というか、震えている?
少しだけ心配になり、ユミナ様を見上げれば、笑いを堪えるように震えていらっしゃいました。
「んん。いや、すまない。別に、話さなくても問題はないんだ。
ミリィの言葉を聞けば、話されないのは私の信用の問題のようだからね」
「ああ。なるほど。俺は、一瞬あちらの人間かを疑われたわけですね。
心外だと言いたいところですが、旦那の考えも理解できるからなぁ」
マルクスは、少し考えて腹を決めたのか、話すことにしたようです。
私は、そっと盗聴防止のペンダントを作動させる。
「お嬢には、後で話そうと思ってたし、丁度良いか。
まぁ、俺の生い立ちに関する、つまんない話ですよ。
お嬢には前に話したけれど、系譜を辿ると俺とクロービス魔王陛下は、血族になる。
とは言え、遠い血族だ。俺から数えて10ほど遡ってクォーターといった感じ。
ただ、クロービス魔王陛下からすれば、妹君の血族になる。
魔族の寿命は人と同等と言われているが、魔王陛下は例外に属する。
クロービス魔王陛下のお年も千を越えているはずだ。
あと、魔族との婚姻が少ないせいで、あまり知られてはいないが、人と縁を結んだ魔族は、少しだけ短命になる。
とは言っても、100が70になるくらいの話なんだけど。
で、俺の系譜はクロービス魔王陛下の妹君の系譜になるわけ。
それで、ちょっと厄介なのが俺。
俺は、先祖返りと言われている。
魔族の系譜の先祖返りなんてろくなのがいないってのを後で知った。
奇形だったり、精神に異常をきたしていたりとか、そんな感じ。
まぁ、俺は奇跡的にまだましな方だと思ってる」
そこまで話して、マルクスは少しだけ自嘲気味に笑みを見せる。
「でだ、先祖帰りの俺は、魔族としての姿も持っててな、実は魔界に籍がある。
クロービス魔王陛下の血族って事で、クロービス領に所属しているわけだけど、一応中立って位置を取ってる。
俺と魔界の俺が、繋がるのはクロービス魔王陛下位かな。
一応、こちらとあちらに籍があることは届け出てあるけど、魔族として正規にこちらにいる者達は、大体そうだからあまり問題視されてないし、俺であるとも認識されてないと思う。
お嬢、そこの鏡見て」
マルクスの言葉に、執務室にある調度品としての鏡を見れば、マルクスとは違う人物が写っていた。
目の白目の部分が黒く、瞳の白い反転した目を除けば、整った顔立ち。
羊の角のようで、それよりも力強さを感じる角が、片側に一つ。
耳が少しだけ尖っているようだけれど、人と同じ様な姿形。
「それが、魔族としての俺。
人としての血を持ちながら、角持ちの上位魔族扱い。
本来は2本の角があるものらしいが、俺の場合は1本で2本並みの力を備えてるらしいよ」
鏡を眺めながら、魔族としてのマルクスをマジマジと眺めていれば、少しだけ揺らぎ、普段のマルクスの姿へと変わっていた。
「因みに、実は魔力も仕えるから、通信装置とかもろもろ使えたりするし、感知が出来たりする。
あと、転移魔術も仕えるから、王都との行き来も俺の場合は、時間差が発生するから2刻くらいで出来たりする」
なんだろう。マルクスが有能というよりは異常?
実は、私たちの中で一番凄いのではなくて?
「あと、今話したの知ってるのは、ヘーゼルだけ。侯爵殿も知らないかな。
それからお嬢。単純な戦闘力ならヘーゼルが上だよ。俺、勝てたことないから」
思わずヘーゼルへと目を向ければ、目線をそらされる。
ヘーゼルも普通ではないと思っていたけれど、思っていた以上でしたわ。
「・・・聞かなければ良かった。知らなきゃ、有能だなで済んだ内容だった」
ユミナ様が少しだけうなだれて、恨み言を呟いている。
まぁ、わからなくはないですけれど。
「で、お嬢。これ知っても、俺を使う?」
マルクスの問に、私は首をかしげる。
マルクスはマルクスなのでは?
「そうですわね。それによって、マルクスがマルクスでなくなると言うなら、問題なのですけれど、マルクスはマルクスなのでしょう?」
私の言葉にマルクスは、少し笑ったようです。
「旦那は?」
ユミナ様は、長く思いため息をつかれ、口を開かれる。
「そうだな。君がミリィを裏切らない内は信用しよう」
え?何故、私ですの?
「私としては、力あるものがミリィの側に居ることは、安心できるしな」
困惑していた、私はユミナ様が続けられた一言を聞き逃したしまいました。
ユミナ様へ問おうと思い、目を向ければマルクスを真剣な表情で見つめられていたため、口を挟むことを憚られました。
「旦那はそれでいいのかい?」
マルクスが可笑しそうに、ユミナ様へと問う。
「構わない。私が裏切られてもミリィを裏切らないのならば。
それに、そうなった場合、ミリィを守るために必要だと言う事だろう」
私は、少しだけ心配になり、ユミナ様の袖を引く。
それに気づいたユミナ様は、私へと顔を向けてくださる。
「どうしたの?」
「私、ユミナ様が私のためにユミナ様を切り捨てる事は望みませんよ?」
ユミナ様は、ピキリと固まられ高と思えば、項垂れる。
「なんで、(二人きりではない)今言うかな・・・」
ユミナ様の言葉に、言うべきではなかったかと、不安になり袖から手を離せば、ユミナ様から手を握られ指を絡ませられる。
「だそうだよ」
「ふ。お嬢の一人勝ちだね」
マルクスの言葉に、え?と顔を向ければ、優しく笑っている笑顔が目に入る。
マルクスのあんな表情見たことないですわね。
「ふむ。自分の生い立ちも話しておくか?」
今まで黙っていたヘーゼルが口を開く。
それに、慌てたのはユミナ様で
「いや。ヘーゼルは、いいよ。先日のやり取りでミリィを裏切らないだろう事はわかってるし、何よりもう藪はつつきたくない」
まぁ。わからなくもないですわ。
ヘーゼルの生い立ちも、間違いなく重い話ですし、いわくもありますし。
あら?そう考えると、私の周りは、こう普通ではない人達が多いことになりますわね?何故かしら?
「そうか・・・」
ヘーゼルは、何故残念そうですの?話したかったの?
少し残念そうな、返答に困惑しながら見つめていると、ヘーゼルが首をかしげてくる。
私は、わけがわからないので、同じように首をかしげる。
しばらくそうしていれば、マルクスとユミナ様の方から、吹き出すような小さな声が聞こえた。
「くくっ・・・何やってんの2人して」
マルクスが笑いながら、私とヘーゼルに言う。
「何とは?分からないから、首をかしげただけですけれど」
「同じく」
私とヘーゼルの返答に、もう駄目だとばかりに、マルクスが声を出して笑いだす。
しかも、お腹を抱えて笑ってますわ。何故ですの。
「うん。仲が良さそうで、何よりだよ。少しだけ・・・」
少しだけの後の言葉は、小さくてマルクスの笑い声にかき消えてしまったけれど、ユミナ様は優しくこちらを見ていました。
そして、繋がれたままの手に今更ながら、恥ずかしさを感じる。
繋がれた手は、私よりも体温が低いのか、少しだけ冷たく感じる。
でも、絡められた指先からは、妖しさと熱を感じていて。
私は、早く離して欲しいと思いながら、このまま繋がれていたいという矛盾した思いを抱いていた。
無意識に手に力を込め、握り返していたことに気づかぬまま・・・
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