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2話 チェンジ ザ ライフ
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「例えば……これはどうです?」
モグは、隅っこに置いてあるアコースティックギターを指差して言った。
それは、彼女が好きだった歌を弾き語る為に買ったもので、彼女がいなくなってしまってからしばらくの間全く使用してない代物だ。
「あなたギター弾けるんですね。以外です」
「少しだけですけどね……」
「そりゃあ分かってますよ。貴方が上手に弾けるんなら私はここに現れませんからね」
「遠回しに僕の事下手って言ってますよね?それ」
そんな僕の不満な言葉は聞こえていないかのように、ギターから目を逸らさずにモグが続ける。
「やっぱり一度はこれのプロになろうって思ったりしたんじゃないですか?」
びくり、と僕の背中が震えた。なんだか数年前の自分の考えを見透かされたみたいだった。
平凡な自分がプロになんてなれる訳ないって事は分かっていたのだが、続けていくうちに夢を見ていた自分を思い出してしまった。
叶うはずのない夢を抱いた自分を。
「図星ですねっ!分かりますよ。誰だって夢は見ますからねー。」
モグは愉快そうにカラカラと笑う。何が面白いんだ一体。
僕はからかわれているような気分になった。
「まぁそうでもなきゃ、こんなのにも目を付けたりしませんしね」
そう言って、モグはギターの近くに置いてあった一枚の紙を手に取った。
その紙には(第一七回新人発掘オーディション)と書かれている。
モグがその紙をまじまじと見つめながらニヤニヤ笑っている。
なんだか、小学校の時に書いた厨二病臭い絵を見られたような、何とも言えない恥ずかしい気持ちになった。分かりやすいところに置いていたことを後悔していると、
「対象年齢十八歳以上、あなたの夢を現実に……」
「ちょ、なに読んでるんですか!」
モグが音読を始めたので、慌てて静止する。第一それは僕が目を付けたんじゃなくて、たまたま道で配ってただけなのだ。
「これ、受けに行きましょうよ」
「え、でも」
「だーいじょうぶです!何の為に私が来たと思ってるんです?ここは私に任せてください!ね?」
あまりに熱心なモグに押し切られ、半ば無理矢理オーディションを受けることになってしまった。
普通なら、僕がこのオーディションに合格する確率はゼロパーセントだ。彼女と別れてしまってから、数年間一度も楽器を触っていない人間が合格出来るような甘い物ではない事は僕でも分かる。これは無謀だ。
でも、もし合格できたとしたら?
もしも、こんな軽いノリでゼロパーセントの確率を突破して僕がプロのミュージシャンになれたとしたら。
今まで嫌という程味わってきた挫折も劣等感も全て帳消しに出来るだろうか。そしたら、こいつみたいに堂々と「任せて!」なんて言えるのかな。
彼女も、戻ってきてくれるのかな。
そう考えたら、僕の心が動いた。
「さて、じゃあ人生変えちゃいましょうか!」
モグが大きな声で言う。
ギターの才能を獲得する。そのために払う代償が命の十年なら冷静に考えれば安いものなのかも知れない。八十歳で死のうと、七十歳で死のうと対して変わりはしないし、どうせこのまま生きていても何も出来やしないのだから。
結局、仕事は完全にサボってしまう始末になったが、今の僕にはあまり気にならなかった。
その時、僕の携帯電話が着信音を立てて震えだした。画面には、大嫌いな上司の名前が表示されている。きっと、出社時間を過ぎても現れない僕に対する怒りの電話だろう。
僕は、特に何も考えずに電話を切った。
いつの間にか、さっきまで感じていた不安な気持ちは跡形も無く消えていた。
モグは、隅っこに置いてあるアコースティックギターを指差して言った。
それは、彼女が好きだった歌を弾き語る為に買ったもので、彼女がいなくなってしまってからしばらくの間全く使用してない代物だ。
「あなたギター弾けるんですね。以外です」
「少しだけですけどね……」
「そりゃあ分かってますよ。貴方が上手に弾けるんなら私はここに現れませんからね」
「遠回しに僕の事下手って言ってますよね?それ」
そんな僕の不満な言葉は聞こえていないかのように、ギターから目を逸らさずにモグが続ける。
「やっぱり一度はこれのプロになろうって思ったりしたんじゃないですか?」
びくり、と僕の背中が震えた。なんだか数年前の自分の考えを見透かされたみたいだった。
平凡な自分がプロになんてなれる訳ないって事は分かっていたのだが、続けていくうちに夢を見ていた自分を思い出してしまった。
叶うはずのない夢を抱いた自分を。
「図星ですねっ!分かりますよ。誰だって夢は見ますからねー。」
モグは愉快そうにカラカラと笑う。何が面白いんだ一体。
僕はからかわれているような気分になった。
「まぁそうでもなきゃ、こんなのにも目を付けたりしませんしね」
そう言って、モグはギターの近くに置いてあった一枚の紙を手に取った。
その紙には(第一七回新人発掘オーディション)と書かれている。
モグがその紙をまじまじと見つめながらニヤニヤ笑っている。
なんだか、小学校の時に書いた厨二病臭い絵を見られたような、何とも言えない恥ずかしい気持ちになった。分かりやすいところに置いていたことを後悔していると、
「対象年齢十八歳以上、あなたの夢を現実に……」
「ちょ、なに読んでるんですか!」
モグが音読を始めたので、慌てて静止する。第一それは僕が目を付けたんじゃなくて、たまたま道で配ってただけなのだ。
「これ、受けに行きましょうよ」
「え、でも」
「だーいじょうぶです!何の為に私が来たと思ってるんです?ここは私に任せてください!ね?」
あまりに熱心なモグに押し切られ、半ば無理矢理オーディションを受けることになってしまった。
普通なら、僕がこのオーディションに合格する確率はゼロパーセントだ。彼女と別れてしまってから、数年間一度も楽器を触っていない人間が合格出来るような甘い物ではない事は僕でも分かる。これは無謀だ。
でも、もし合格できたとしたら?
もしも、こんな軽いノリでゼロパーセントの確率を突破して僕がプロのミュージシャンになれたとしたら。
今まで嫌という程味わってきた挫折も劣等感も全て帳消しに出来るだろうか。そしたら、こいつみたいに堂々と「任せて!」なんて言えるのかな。
彼女も、戻ってきてくれるのかな。
そう考えたら、僕の心が動いた。
「さて、じゃあ人生変えちゃいましょうか!」
モグが大きな声で言う。
ギターの才能を獲得する。そのために払う代償が命の十年なら冷静に考えれば安いものなのかも知れない。八十歳で死のうと、七十歳で死のうと対して変わりはしないし、どうせこのまま生きていても何も出来やしないのだから。
結局、仕事は完全にサボってしまう始末になったが、今の僕にはあまり気にならなかった。
その時、僕の携帯電話が着信音を立てて震えだした。画面には、大嫌いな上司の名前が表示されている。きっと、出社時間を過ぎても現れない僕に対する怒りの電話だろう。
僕は、特に何も考えずに電話を切った。
いつの間にか、さっきまで感じていた不安な気持ちは跡形も無く消えていた。
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