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SCENE.2【公安調査庁第三調査部呪霊特別調査室】
Capture.21『初出勤』
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「迷いは晴れた、ようじゃな?」
「はい! ありがとうございました!」
斎藤先生との打ち合い稽古で、気持ちにかかっていた雲が晴れた。明日から私は、公安調査庁第三調査部呪霊特別調査室として、職務に当たる事になる。
相手は呪霊だ。そして、そこにはもちろん、人の命がかかる。被害者の命、仲間の命、そして、自分の命……
「お父さん……」
道場を後にした私は、オレンジ色に染まった空を見上げながら歩いていた。半年前にこんな事になるなんて、想像もしていなかった。普通に就職できたことを喜んで、普通に失敗したり成功したりして、普通に恋して――
「凛、お前、侍だったんだな」
稽古を黙って見ていた小太郎さんが、珍しく感心した様子でそう口を開いた。
「侍じゃないです。剣士です」
「通りで鷲爪を上手く振り回せた訳だな」
百姓や商人の娘では、刀など、到底振り回す事はできないと熱弁する小太郎さん。その表現に、時代の違いを感じる。それにしても、小太郎さんは何故、地蔵に封印されていたんだろう。そんな事をふと思い出した。
「小太郎さん、記憶は戻ってないんですか?」
私の質問に、空を見上げた小太郎さんは頷いた。
「ああ……」
その寂しそうな横顔に、何だか不安を覚えたのだった。
*
翌日を迎えた私は、電車に乗り込み、東京都千代田区霞が関にある中央合同庁舎6号館A棟へ向かう。少し緊張していたため、朝は早起きした事もあり、早めに出発。だから、余裕をもっていた。
「ここ、ね」
スマホのマップで位置を確認して、さらに近付くと警備員が立っており、特別警戒中の看板が立っている。ショッピングモールなどとは違う、重厚な雰囲気に息を飲む。待ち合わせの時間より、30分早い。私は棟内にあるコンビニに入り込んだ。
「おい、凛……」
突然、小太郎さんが声をかけて来た。振り返ると顎と目でサインを送っている。その先には、何やらキョロキョロを辺りを伺う、挙動不審な男性がいた。
「あいつ、何かするぞ」
「え?」
その時だった。銃声が店内に響く。思わずしゃがみ込んだ私。
「お、お前ら……う、動くな」
おどおどとした声で、そう言った男性は、アウターのチャックを開く。そこから、何か箱のような物に入ったいくつもの線が繋がる物が見える。
「爆弾、ですねぇ」
その声にハッと振り返ると、安藤さんがしゃがみ込んでいた。
「おはようございます、御手洗さん」
「あ、お、おはようございます」
こんな状況にも関わらず、平静を保っている安藤さんに、私は呆気にとられながらも挨拶した。
「憑いてるんですよね、彼」
「ついている?」
私は気付いた。そして、小太郎さんを見ると頷いていた。私も頷く。そして、憑依される。
――見えたか?
爆弾を抱えた男性の後ろに、呪霊の姿を認識した。
「見えました。どうしましょう?」
「ここで爆発だけは避けたいですね……一旦外に連れ出せればいいのですが」
私があの男性を抱えて一気に飛び出せば、爆発する前に外へ出られるかもしれない。
「私が」
安藤さんを見つめる。心配そうに彼は見つめ返して来る。
「私があの人を抱えて、外へ飛び出します」
その私の言葉に、彼は頷いた。
「……では、私は自動ドアを開きましょう」
「お願いします」
私は深呼吸した。一瞬であの男性に近付いて、爆破スイッチらしきものを持って掲げている右手を抑え、体を持ち上げて外へ連れ出す。できる、絶対できる。
霊力を全身に巡らせ、足の裏に集中する。そして――
「っ?!」
一瞬だった。私は飛び出して、男性を捕縛、右手からスイッチを奪い、その脇を抱え、自動ドアまで走る。そのタイミングに合わせて、安藤さんがドアを開けていてくれた。
「お、お前っ!」
抱えた男性は、怯えているような声を上げる中、無事外に飛び出すのだった。
「はい! ありがとうございました!」
斎藤先生との打ち合い稽古で、気持ちにかかっていた雲が晴れた。明日から私は、公安調査庁第三調査部呪霊特別調査室として、職務に当たる事になる。
相手は呪霊だ。そして、そこにはもちろん、人の命がかかる。被害者の命、仲間の命、そして、自分の命……
「お父さん……」
道場を後にした私は、オレンジ色に染まった空を見上げながら歩いていた。半年前にこんな事になるなんて、想像もしていなかった。普通に就職できたことを喜んで、普通に失敗したり成功したりして、普通に恋して――
「凛、お前、侍だったんだな」
稽古を黙って見ていた小太郎さんが、珍しく感心した様子でそう口を開いた。
「侍じゃないです。剣士です」
「通りで鷲爪を上手く振り回せた訳だな」
百姓や商人の娘では、刀など、到底振り回す事はできないと熱弁する小太郎さん。その表現に、時代の違いを感じる。それにしても、小太郎さんは何故、地蔵に封印されていたんだろう。そんな事をふと思い出した。
「小太郎さん、記憶は戻ってないんですか?」
私の質問に、空を見上げた小太郎さんは頷いた。
「ああ……」
その寂しそうな横顔に、何だか不安を覚えたのだった。
*
翌日を迎えた私は、電車に乗り込み、東京都千代田区霞が関にある中央合同庁舎6号館A棟へ向かう。少し緊張していたため、朝は早起きした事もあり、早めに出発。だから、余裕をもっていた。
「ここ、ね」
スマホのマップで位置を確認して、さらに近付くと警備員が立っており、特別警戒中の看板が立っている。ショッピングモールなどとは違う、重厚な雰囲気に息を飲む。待ち合わせの時間より、30分早い。私は棟内にあるコンビニに入り込んだ。
「おい、凛……」
突然、小太郎さんが声をかけて来た。振り返ると顎と目でサインを送っている。その先には、何やらキョロキョロを辺りを伺う、挙動不審な男性がいた。
「あいつ、何かするぞ」
「え?」
その時だった。銃声が店内に響く。思わずしゃがみ込んだ私。
「お、お前ら……う、動くな」
おどおどとした声で、そう言った男性は、アウターのチャックを開く。そこから、何か箱のような物に入ったいくつもの線が繋がる物が見える。
「爆弾、ですねぇ」
その声にハッと振り返ると、安藤さんがしゃがみ込んでいた。
「おはようございます、御手洗さん」
「あ、お、おはようございます」
こんな状況にも関わらず、平静を保っている安藤さんに、私は呆気にとられながらも挨拶した。
「憑いてるんですよね、彼」
「ついている?」
私は気付いた。そして、小太郎さんを見ると頷いていた。私も頷く。そして、憑依される。
――見えたか?
爆弾を抱えた男性の後ろに、呪霊の姿を認識した。
「見えました。どうしましょう?」
「ここで爆発だけは避けたいですね……一旦外に連れ出せればいいのですが」
私があの男性を抱えて一気に飛び出せば、爆発する前に外へ出られるかもしれない。
「私が」
安藤さんを見つめる。心配そうに彼は見つめ返して来る。
「私があの人を抱えて、外へ飛び出します」
その私の言葉に、彼は頷いた。
「……では、私は自動ドアを開きましょう」
「お願いします」
私は深呼吸した。一瞬であの男性に近付いて、爆破スイッチらしきものを持って掲げている右手を抑え、体を持ち上げて外へ連れ出す。できる、絶対できる。
霊力を全身に巡らせ、足の裏に集中する。そして――
「っ?!」
一瞬だった。私は飛び出して、男性を捕縛、右手からスイッチを奪い、その脇を抱え、自動ドアまで走る。そのタイミングに合わせて、安藤さんがドアを開けていてくれた。
「お、お前っ!」
抱えた男性は、怯えているような声を上げる中、無事外に飛び出すのだった。
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