齢1200の龍王と精を吸わないオタ淫魔

三崎

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はないちもんめ

※圧倒的強者と絶対的強者-4

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 固く引き結ばれた唇に、角度を変えて何度もキスを落とす。初めは軽く触れるだけのキス、しだいに触れ合う時間を長くして、慣れた頃には噛みつくようなキスをする。さらに深く繋がろうと唇を舐め上げるが、固く結ばれた唇は一向にクリスを受け入れようとはしない。それどころか、キスから逃げるようにふいと顔を逸らされる始末。

「ちょっとメリオンさん。こっちを向いてくださいよ」
「もう十分だろう。1度だけだと言ったのだから約束は守れ」
「メリオンさんこそ約束を守ってくださいよ。僕、もっとキスらしいキスをしたいと言ったでしょ。子ども同士のキスじゃないんだからさ、ちゃんと口を開けて。いつまで経っても終わらないですよ」

 クリスがそう言い放った後のメリオンの表情はと言えば、まさに悪鬼羅刹のごとし。本当に本当にお前は嫌な奴だ、と心の声が聞こえるようである。しかしクリスの方も、この件に関して譲るつもりは一切ないのである。
 引き結ばれた唇に、また軽いキスを落とす。そうして何度か触れるだけのキスを繰り返していると、要塞のようであった唇は観念したように開かれる。「子ども同士のキスじゃないんだから」そう言ったのが効いたのかもしれない。クリスはわずかに開かれた唇の隙間から、メリオンの口内に侵入する。綺麗に並んだ歯列の表面をなぞり、上顎の裏側を撫で、自身にはない4本の尖った犬歯に舌先で触れる。

「ふ…うぅ」

 執拗に口内をまさぐれば、メリオンの呼吸は徐々に荒くなる。キスの合間の呼吸がうまくできていないのだ。酸素が足りず、次第に脱力していく身体を抱すくめ、しつこいくらいにキスをする。1度だけなどという当初の約束は、もうなかったも同然だ。
 メリオンの唇に唇を合わせたまま、クリスはゆるゆると腰を揺らし始めた。精液に濡れた後孔はひくひくと収縮しながら、しかし抵抗なくクリスを受け入れる。行為の再開は「一度キスをさせてくれたら止めます」との約束を破るもの。しかしメリオンの唇は吐息を零しこそすれ、文句を吐き出すことはない。それどころか快楽を求めるように、自らも腰を揺らす。
 ほらね、クリスは目を細めて笑う。身体を繋げたまま唇を合わせれば、続きがしたくなるに決まっている。例えキスに不慣れな者であっても、敏感な粘膜に触れられることが気持ち良くないはずがないのだ。吸血により感覚が鋭敏になっているのだから尚更。

 ある1点を突いたとき、メリオンの身体が大きく跳ねる。「はぁ、ああ」と淫らな声を上げ、両腕を顔の前に掲げクリスの視界を遮らんとする。その行動の意味はクリスにもよく分かる。射精のときが近いのだ。誰だって絶頂を迎える瞬間の表情を他人に見られたくはない。メリオンとクリスは恋人同士でもなんでもないのだから、欲望を剥き出しにした表情を見られることは殊更屈辱であろう。
 全てを理解した上で、クリスはメリオンの両腕を振り払う。肘や脇を使って両腕を器用に抑え込み、空いた右手で黒髪を掴む。射精の瞬間、決して顔を背けられないようにと。仕返し、というやつだ。

「は、なせ…」

 メリオンの口からくぐもった声が漏れる。懸命に首を動かして、髪を掴む手を振り払おうとする。しかしクリスはそれを許さない。汗に濡れた黒髪を強く握り込み、熱に溺れる顔をじっと見下ろしながら、メリオンの後孔に腰を打ち付ける。

「この糞野郎」

 息も絶え絶えにそう言った後、メリオンの両眼は快楽に溶けた。およそ彼の口から漏れたとは思えない扇情的な嬌声とともに、剥き出しの陰茎からは白濁液が吐き出される。クリスははたと下肢の動きを止めると、快感に溺れるメリオンの顔をまじまじと見つめた。ほんのりと赤らむ頬に、熱に潤む灰色の瞳。射精の余韻に全身を震わせるその様は、普段のメリオンからは想像もできない姿だ。

「ね、キスも悪くないでしょ?」

 クリスは握り込んだ黒髪から手を放す。そのままメリオンの両脚を抱え込み、今度は己の射精に向けた挿抜を開始する。熱くぬめる後孔にもうまともな抵抗はない。快楽に脳味噌を溶かされたメリオンには、クリスの言葉に悪態を返す力も残されてはいない。激しく胎内を突かれるたびに、獣のような嬌声を零すだけ。
 そうして狂ったように腰を動かし、熱くうねる胎内に熱を吐き出す。

***

 部屋の窓は開け放たれ、ひやりとした夜風とささやかな喧騒が流れ込む。逢瀬街に人が流れ始めるまでにはまだ少し時間がある。部屋の窓から流れ込むものは、隣り合う歓楽街から聞こえる遠い喧噪の音だ。加えて浴室から聞こえる賑やかな水音。じゃあじゃあと賑やかなその音は、浴槽に湯を張る音である。

 灯りがともされた逢瀬宿の一室では、真っ白な寝具に黒髪の男が沈んでいた。乱れたシーツの上に転がる男は全裸で、首や肩には生々しい紫色の痣がいくつも浮かんでいる。そして腹や太腿には白濁液をぬぐった跡。ベッドの外に投げ出された右手には、なぜかサンドイッチが握りこまれているものの、口を付けた様子はない。
 吸血族長であるメリオンは、ドラキス王国において王に次ぐ戦闘力を持つと言われている。そんなメリオンをこのような姿にしてベッドに沈めた者は、まともな戦闘力など持たないはずのクリスだ。恐るべき偉業を成し遂げたクリスは、窓から流れ込む夜風に髪をなびかせながら、逢瀬宿の食事に舌鼓を打っているところである。
 涼しい表情を浮かべるクリスだが、その左頬は赤く腫れあがっていた。行為の最中に髪を鷲掴みにした愚行を諫められ、メリオンに頬を打たれた痕である。その件についてはクリスも罪を認め、力の限りの殴打を甘んじて受け入れた。激しい行為の後で、メリオンにさほどの力が残されていなかったことが幸いである。フルパワーの殴打を食らっていれば、顔面が陥没していたところだ。

 クリスがテーブル上の料理の半分を腹に収めたところで、浴室から響いていた水音が止んだ。浴槽の湯張りが完了したらしい。クリスは箸を置き、足音を立てないように最大限気を遣いながら浴室へと向かった。ガラス張りの扉を開けると、広い浴室内には湯気が立ち込めている。溜めたばかりのお湯の温度を確認し、熱くないようにといくらか水を足してすぐに浴室を出る。

「メリオンさん、お風呂入りましたよ」

 部屋に戻ったクリスは、ベッド上のメリオンにそう声を掛けた。しかしぐったりと投げ出された四肢が反応を示すことはない。クリスはベッドの上によじ登り、脱力状態のメリオンの肩を指先でつつく。メリオンさん、メリオンさん、と繰り返し名を呼びながら。
 名前を呼ぶ回数が6回目を数えたとき、メリオンはようやく瞳を開けた。灰色の両眼はクリスの顔面を無言で見つめ、やがて長い長い溜息を吐く。

「何故まだいるんだ。俺が寝ている間に帰れば良かったものを」
「やるだけやってとっとと帰るなんて最低じゃないですか。そんな無責任なことしませんよ」
「強姦まがいの行為に責任も糞もあるか」
「強姦じゃないです。双方合意の上の行為です」

 メリオンはふんと鼻を鳴らすと、ベッドの上に身を起こす。乾いたサンドイッチをクリスの手に押し付けると――そのサンドイッチは、意識を失ったメリオンにクリスが握らせたものである――機械のようにぎこちない動作でベッドを下りる。目指す先はさきほど湯張りが完了したばかりの浴室だ。一糸纏わぬ姿で歩みを進める様は凛々しいが、その歩き方はやはりぎこちない。王宮内での颯爽とした歩みをウサギとするならば、今の動きはさしずめ亀だ。慣れない体勢をとらされ続けたために、身体中の関節や筋肉が疲弊しているのだろう。

「手、貸しましょうか?」

 亀の歩みのメリオンを見かね、クリスはそう声を掛ける。返されるのは悪鬼羅刹の表情だ。

「いらん。お前は俺が上がるまでに間違いなく消えておけ」

 帰れではなく、消えろということだ。クリスは苦笑いを浮かべる。
 メリオンの不機嫌の理由は、クリスとの行為そのものではない。想定外の事態が起きたとはいえ、互いに同意の上の行為であることに代わりはないのだ。髪を掴んだことについては、渾身の殴打を受けすでに禊は済んでいる。キスをすれば行為終了との約束を破ったことも、責められはしても消えろと言われるほどのことではないだろう。あのとき、行為の継続を望んだのはクリスだけではないのだから。
 ではなぜメリオンは、悪鬼羅刹のごとき表情を浮かべているのか。その理由は、クリスがいつまで経っても行為を終わらせなかったからだ。メリオンの「明日の仕事に響くからいい加減にしろ」との制止を無視して、1時間以上も無理を強いたのである。メリオンの亀のごとき歩みの理由はここにある。この件についても謝罪とともに2発の殴打を受け入れているものの、メリオンの怒りは治まらないようだ。結構よさそうにしていたのに、とクリスは思うのである。

 浴室へと消えていくメリオンの背を見送り、クリスは中途半端になっていた食事を再開した。テーブル上の料理は1人分。風呂上がりのメリオンのために何か頼み足しておこうか。そう考えてメニュー表を手に取るクリスの耳に、派手な水音が聞こえてくる。明らかに普通とは言い難い水音は、疲労困憊のメリオンが浴槽に落ちた音だろう。
だから手を貸そうかと言ったのに。クリスはメニュー表を閉じると、溺れかけているメリオンを助けるべく浴室へと向かった。

 ベッドの上の遊戯を戦闘に例えるのなら、メリオンは圧倒的強者だ。この国の頂に立つ王でさえも、彼の前では容易く膝を折るだろう。ただ今回の出来事は運が悪かったのだ。ネズミだと思っていた男が、ドラゴンをも遥かに凌ぐ力を秘めていた。
 圧倒的強者であるメリオンを、絶対的強者であるクリスが喰った。ただそれだけの話である。




***

結局なんだかんだと酒を飲み、寝落ちして朝帰りした2人。
ゼータ「あれ、朝帰りですか。今まで飲んでいたんですか?」
クリス「ちょっと盛り上がっちゃって」
ゼータ「(お酒は)美味しかったですか?」
クリス「そうだね。(メリオンさんが)大変美味でした」
メリオン「…」
ゼータ「何ていうお店ですか」
クリス「…何だったかな」
メリオン「忘れた」
ゼータ「歓楽街のどのあたりの…」
メリオン「余計な詮索をするな。捩じ切るぞ」
ゼータ「何を!?」
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