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13話 愛をつづる手紙
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楓の木を背もたれにして、雪斗と飛彦はそろって座り込んでいた。正確には楓の木を背もたれにした飛彦に、雪斗はすっぽりと抱きかかえられていた。背中越しに人の温かさが伝わってくる。恥ずかしくて止めてほしいとは思うけれど、飛彦の抱擁は揺るがない。2度と雪斗を逃がすつもりはないようだ。
「まずは一番の誤解から解かせてください。『若葉』は私の母親の名前です。断じて、断じて好きな人などではありません」
「……え?」
「私がこの街へと出てきてから、母親から手紙が届くようになったんです。返事を返さなきゃいけないとは思いつつ、母親に向けて文章をつづるというのは照れ臭くて。うまく書けなくて悩んでいたところに、雪斗くんから文通を持ちかけてもらったんです」
雪斗は在りし日の記憶をたどった。雪斗が文通を持ちかけたその日、飛彦は「手紙を送りたい相手がいるが、うまく文章が書けない」と話していた。その話を聞いた雪斗は、自分も父母に宛てた手紙をうまく書くことができないと共感を抱いたものだ。
「そうだったんですか……? でもそれなら若葉さん宛の手紙を届けたときに、はっきり言ってくれてもよかったじゃないですか。飛彦さんが変に手紙を隠そうとするから、僕はてっきり……」
雪斗の主張には、たどたどしい答えが返ってきた。
「は、恥ずかしいじゃないですか。この年になって母親と手紙のやりとりをしているだなんて……母親に宛てた手紙を読まれるのも拷問ですよ……」
「んん……その気持ちはよくわかる……」
思い返してみれば、雪斗も飛彦に父母との文通を明かしたことはない。父母に宛てた手紙の添削を頼んだこともない。理由は単純に恥ずかしいからだ。いくらこの街では文通が一般的なのだとしても、離れたところで暮らす両親とまめに手紙のやりとりをしているだなんて、年頃男子にしてみれば恥以外の何物でもない。
若葉は飛彦の母親、しかしその事実を知っても雪斗の心は晴れなかった。飛彦には好きな人がいて、想いをつづった手紙を渡そうとしている。その事実に変わりはないのだから。
(結局、僕は振られるんだよ。いくら話をしたってその未来は変わらない)
むくれる雪斗の目の前に、1通の手紙が差し出された。
「これ、雪斗くんへの手紙です。この間からずっと渡そうとしてたのに、雪斗くんがちょろちょろ逃げ回るから今まで渡せませんでした」
飛彦の口調は皮肉めいた調子だ。確かにここ数週間、雪斗は全力で飛彦から逃げていた。顔を合わせることも話をすることも拒み、手紙すら受け取らなかった。
雪斗はむくれ顔のまま手紙を受け取り、封を切った。
三つ折りの便箋を開く。
雪斗くんへ
早いもので雪斗くんとの文通を始めてから2か月が経ちました。初めのうちは最初の1文を書くことにも四苦八苦していたのに、今ではすらすらと文章が出てくるから不思議です。物事は習うより慣れよ、とは本当ですね。雪斗くんには本当に感謝しています。
さて、今日は大切な話をしたくて手紙を書きました。雪斗くんにとっては驚くような話だと思いますが、最後まで読んでもらえると嬉しいです。
私には好きな人がいます。好きかもしれない、とはずっと感じていたのですが、このたびようやく自分の想いを恋だと認めることができました。
相手はとても可愛い人です。自分の容姿にコンプレックスを感じているようですが、惚気なしに可愛いのだからもっと堂々とすればいいと思います。
その人から手紙を貰うたびに、嬉しくて頬が緩んでしまいます。貰った手紙は箱に入れてすべて大切にとってあります。
その人がそばにいると愛しくて抱きしめたくなります。一度我慢できずに抱きしめてしまったことがあるのですが、嫌な顔はされませんでした。……だからもしかして、ほんの少しは可能性があるのかなって。そう思うと想いを伝えずにはいられませんでした。
私には好きな人がいます。
雪斗くん、あなたのことです。
2人きりで行きたい場所や、話したいことがたくさんあります。万年筆や便箋だけではなくもっと素敵な物を贈りたいし、雪斗くんの作ったオムライスも食べてみたいです。
すぐに恋人になってほしい、とは言いません。雪斗くんにとっては寝耳に水の告白でしょうし、ゆっくり考えてもらって大丈夫です。雪斗くんの答えがどうであっても、私は雪斗くんを責めたりはしませんから。
季節の移ろう時期ですがお身体には気を付けて。お返事待っています。
飛彦
「……はぇ?」
渡されたばかりの手紙を2度3度と読み返し、雪斗は間抜けな声をあげた。何をどう読み替えても、それは間違いなく雪斗へのラブレターなのだから。
「直接、言葉で伝えられなくてすみません。私は口下手なもので、自分の気持ちを正しく伝えられる自信がなかったんです」
飛彦の声を耳元で聞きながら雪斗は放心状態だ。
心臓がうるさいほどに鳴っている。
抱きしめられた背中が熱い。
熱と涙で視界がかすむ。
「雪斗くん……答えを聞かせてもらってもいいですか?」
掠れた声で問いかけられて、雪斗はぱくぱくと唇を動かした。
「…………聞かなくたってわかってる癖に。飛彦さんのいじわる……」
消え入るような声でそう答えるのが精いっぱいだった。
「まずは一番の誤解から解かせてください。『若葉』は私の母親の名前です。断じて、断じて好きな人などではありません」
「……え?」
「私がこの街へと出てきてから、母親から手紙が届くようになったんです。返事を返さなきゃいけないとは思いつつ、母親に向けて文章をつづるというのは照れ臭くて。うまく書けなくて悩んでいたところに、雪斗くんから文通を持ちかけてもらったんです」
雪斗は在りし日の記憶をたどった。雪斗が文通を持ちかけたその日、飛彦は「手紙を送りたい相手がいるが、うまく文章が書けない」と話していた。その話を聞いた雪斗は、自分も父母に宛てた手紙をうまく書くことができないと共感を抱いたものだ。
「そうだったんですか……? でもそれなら若葉さん宛の手紙を届けたときに、はっきり言ってくれてもよかったじゃないですか。飛彦さんが変に手紙を隠そうとするから、僕はてっきり……」
雪斗の主張には、たどたどしい答えが返ってきた。
「は、恥ずかしいじゃないですか。この年になって母親と手紙のやりとりをしているだなんて……母親に宛てた手紙を読まれるのも拷問ですよ……」
「んん……その気持ちはよくわかる……」
思い返してみれば、雪斗も飛彦に父母との文通を明かしたことはない。父母に宛てた手紙の添削を頼んだこともない。理由は単純に恥ずかしいからだ。いくらこの街では文通が一般的なのだとしても、離れたところで暮らす両親とまめに手紙のやりとりをしているだなんて、年頃男子にしてみれば恥以外の何物でもない。
若葉は飛彦の母親、しかしその事実を知っても雪斗の心は晴れなかった。飛彦には好きな人がいて、想いをつづった手紙を渡そうとしている。その事実に変わりはないのだから。
(結局、僕は振られるんだよ。いくら話をしたってその未来は変わらない)
むくれる雪斗の目の前に、1通の手紙が差し出された。
「これ、雪斗くんへの手紙です。この間からずっと渡そうとしてたのに、雪斗くんがちょろちょろ逃げ回るから今まで渡せませんでした」
飛彦の口調は皮肉めいた調子だ。確かにここ数週間、雪斗は全力で飛彦から逃げていた。顔を合わせることも話をすることも拒み、手紙すら受け取らなかった。
雪斗はむくれ顔のまま手紙を受け取り、封を切った。
三つ折りの便箋を開く。
雪斗くんへ
早いもので雪斗くんとの文通を始めてから2か月が経ちました。初めのうちは最初の1文を書くことにも四苦八苦していたのに、今ではすらすらと文章が出てくるから不思議です。物事は習うより慣れよ、とは本当ですね。雪斗くんには本当に感謝しています。
さて、今日は大切な話をしたくて手紙を書きました。雪斗くんにとっては驚くような話だと思いますが、最後まで読んでもらえると嬉しいです。
私には好きな人がいます。好きかもしれない、とはずっと感じていたのですが、このたびようやく自分の想いを恋だと認めることができました。
相手はとても可愛い人です。自分の容姿にコンプレックスを感じているようですが、惚気なしに可愛いのだからもっと堂々とすればいいと思います。
その人から手紙を貰うたびに、嬉しくて頬が緩んでしまいます。貰った手紙は箱に入れてすべて大切にとってあります。
その人がそばにいると愛しくて抱きしめたくなります。一度我慢できずに抱きしめてしまったことがあるのですが、嫌な顔はされませんでした。……だからもしかして、ほんの少しは可能性があるのかなって。そう思うと想いを伝えずにはいられませんでした。
私には好きな人がいます。
雪斗くん、あなたのことです。
2人きりで行きたい場所や、話したいことがたくさんあります。万年筆や便箋だけではなくもっと素敵な物を贈りたいし、雪斗くんの作ったオムライスも食べてみたいです。
すぐに恋人になってほしい、とは言いません。雪斗くんにとっては寝耳に水の告白でしょうし、ゆっくり考えてもらって大丈夫です。雪斗くんの答えがどうであっても、私は雪斗くんを責めたりはしませんから。
季節の移ろう時期ですがお身体には気を付けて。お返事待っています。
飛彦
「……はぇ?」
渡されたばかりの手紙を2度3度と読み返し、雪斗は間抜けな声をあげた。何をどう読み替えても、それは間違いなく雪斗へのラブレターなのだから。
「直接、言葉で伝えられなくてすみません。私は口下手なもので、自分の気持ちを正しく伝えられる自信がなかったんです」
飛彦の声を耳元で聞きながら雪斗は放心状態だ。
心臓がうるさいほどに鳴っている。
抱きしめられた背中が熱い。
熱と涙で視界がかすむ。
「雪斗くん……答えを聞かせてもらってもいいですか?」
掠れた声で問いかけられて、雪斗はぱくぱくと唇を動かした。
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消え入るような声でそう答えるのが精いっぱいだった。
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