桜の森奇譚──宵待桜

さくら乃

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第玖話 了

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「可愛いことを言う。今すぐ貫いてしまいたいくらいだ」
 くくっと揶揄うように笑ったが、その朱い瞳は、眼前の面を愛おしげに見つめ、細められている。
「だが、そうだな。この続きは閨に戻ってからするとしよう」

 華桜は、叶の合わせを軽く整え、両のかいなで抱えると、すくっと立ち上がった。

 片足を軽く上げ、一歩。トンと桜を踏むとシャンと小さく鈴のような音がする。
 二度三度と軽く跳躍を繰り返し、枝垂れ桜の大樹の頂きに立つ。彼が足をつく度にシャンシャンと鈴の音がする。

 大男に抱えられている姿は、余計に叶の華奢な身体が際立たせる。
 叶は、けして振り落とされることはないとは知っていながら、華桜から離れまいと、ぎゅっと彼の合わせを握り締める。


 一面の桜。


 頂きから見える景色は、何処までも桜ばかり。
 静かな夜に、ざわざわと桜の騒めきが聞こえてくる。

 囁きのように。

 忍び、笑う声のように。


 その景色を一巡りして。


「さあ、我らの閨へ戻るとするか」


 眼下にある社殿の屋根へと飛び移り、そして、その奥へと消えて行った。

 社殿は華桜の足がシャンと触れた瞬間だけ、輝きを放った。朽ち果て感のあったものが、神々しいまでに美しい社に変わる。

 星の瞬き程に、一瞬だけ。

 今は唯 ──── 桜の騒めきと、朽ち果てた神社が佇んで居るのみ。


 『桜の森』
 この辺りの土地は、遥か昔
 『桜守』
 と呼ばれていた。
 ここには
 『桜喰う鬼』
 の言伝えがあるという────。


                了



 

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みんなの感想(1件)

もちねこ
2023.02.19 もちねこ

怖さと美しさと艶のあるお話で大好きです♥️
動きの描写も細かくて読みながら脳内でアニメーションの様に再生されました🥰
こんなにゾクゾクするお話を読めて幸せ♥️
これからも更新楽しみにしてます(* >ω<)

さくら乃
2023.02.19 さくら乃

もちねこさま♡
素敵な感想をありがとうございますm(_ _)m
桜を題材に美しさとか怖さをえがきたいなと思っていたので、そう感じて頂いてめちゃくちゃ嬉しいです!描写もお褒め頂きありがとうございます。
この作品の初コメントなので、テンションあがりました~~。
また何か投稿した時にはお寄りくださると幸いです♡♡

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