9 / 9
第玖話 了
しおりを挟む
「可愛いことを言う。今すぐ貫いてしまいたいくらいだ」
くくっと揶揄うように笑ったが、その朱い瞳は、眼前の面を愛おしげに見つめ、細められている。
「だが、そうだな。この続きは閨に戻ってからするとしよう」
華桜は、叶の合わせを軽く整え、両の腕で抱えると、すくっと立ち上がった。
片足を軽く上げ、一歩。トンと桜を踏むとシャンと小さく鈴のような音がする。
二度三度と軽く跳躍を繰り返し、枝垂れ桜の大樹の頂きに立つ。彼が足をつく度にシャンシャンと鈴の音がする。
大男に抱えられている姿は、余計に叶の華奢な身体が際立たせる。
叶は、けして振り落とされることはないとは知っていながら、華桜から離れまいと、ぎゅっと彼の合わせを握り締める。
一面の桜。
頂きから見える景色は、何処までも桜ばかり。
静かな夜に、ざわざわと桜の騒めきが聞こえてくる。
囁きのように。
忍び、笑う声のように。
その景色を一巡りして。
「さあ、我らの閨へ戻るとするか」
眼下にある社殿の屋根へと飛び移り、そして、その奥へと消えて行った。
社殿は華桜の足がシャンと触れた瞬間だけ、輝きを放った。朽ち果て感のあったものが、神々しいまでに美しい社に変わる。
星の瞬き程に、一瞬だけ。
今は唯 ──── 桜の騒めきと、朽ち果てた神社が佇んで居るのみ。
『桜の森』
この辺りの土地は、遥か昔
『桜守』
と呼ばれていた。
ここには
『桜喰う鬼』
の言伝えがあるという────。
了
くくっと揶揄うように笑ったが、その朱い瞳は、眼前の面を愛おしげに見つめ、細められている。
「だが、そうだな。この続きは閨に戻ってからするとしよう」
華桜は、叶の合わせを軽く整え、両の腕で抱えると、すくっと立ち上がった。
片足を軽く上げ、一歩。トンと桜を踏むとシャンと小さく鈴のような音がする。
二度三度と軽く跳躍を繰り返し、枝垂れ桜の大樹の頂きに立つ。彼が足をつく度にシャンシャンと鈴の音がする。
大男に抱えられている姿は、余計に叶の華奢な身体が際立たせる。
叶は、けして振り落とされることはないとは知っていながら、華桜から離れまいと、ぎゅっと彼の合わせを握り締める。
一面の桜。
頂きから見える景色は、何処までも桜ばかり。
静かな夜に、ざわざわと桜の騒めきが聞こえてくる。
囁きのように。
忍び、笑う声のように。
その景色を一巡りして。
「さあ、我らの閨へ戻るとするか」
眼下にある社殿の屋根へと飛び移り、そして、その奥へと消えて行った。
社殿は華桜の足がシャンと触れた瞬間だけ、輝きを放った。朽ち果て感のあったものが、神々しいまでに美しい社に変わる。
星の瞬き程に、一瞬だけ。
今は唯 ──── 桜の騒めきと、朽ち果てた神社が佇んで居るのみ。
『桜の森』
この辺りの土地は、遥か昔
『桜守』
と呼ばれていた。
ここには
『桜喰う鬼』
の言伝えがあるという────。
了
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
8
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
怖さと美しさと艶のあるお話で大好きです♥️
動きの描写も細かくて読みながら脳内でアニメーションの様に再生されました🥰
こんなにゾクゾクするお話を読めて幸せ♥️
これからも更新楽しみにしてます(* >ω<)
もちねこさま♡
素敵な感想をありがとうございますm(_ _)m
桜を題材に美しさとか怖さをえがきたいなと思っていたので、そう感じて頂いてめちゃくちゃ嬉しいです!描写もお褒め頂きありがとうございます。
この作品の初コメントなので、テンションあがりました~~。
また何か投稿した時にはお寄りくださると幸いです♡♡