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第五章
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しおりを挟む『ナナ』
声は聞こえなかった。
でもあの時、確かに樹はそう唇を動かした。
最後に僕の名を呼んだ時、彼は何を思っていたのだろうか。
僕とは一緒にいない。
そう決めた理由がなんなのか、僕はずっと知りたいと思っていた。
でも。
それは、すごく勇気がいることだと気づいた。
あの日、あの冷たい目を向けられた時に。
樹と再会して一週間。
それまでに一度も会わなかったのが嘘のように、見かけるようになった。
そう。見かける。
見かけるだけで話はしない。
近づかない。
感動の再会にならなかったあの時の、彼の態度と冷たい瞳が頭にこびりついていた。
目に入れば立ち止まったり、物陰に隠れたりして、自分が彼の視界に入らないようにする。
話しかけるのなんて到底無理だし、傍に立っただけできっと心臓が止まってしまいそうになる。
一瞬でも、同じ高校になったことを喜んだことが間違いだったかのように。
★ ★
ほんと、心臓止まりそう……。
もう手足どころか身体中が重い。
それでも僕は走り続けなればならない。
体育の始まりは、いつもグランド五周のランニングから始まる。だいたい一キロ。
この高校は文武両道の掲げており、運動部は特に盛んだ。この授業の教師も運動部の顧問であり、自然体育授業も厳しくなる。
運動神経と体力に難のある僕にはかなりきつい。この点だけはこの学校を受験して失敗だったと思う。
残りあと一周。
終わった生徒から授業内容に入る。
今日は……。
陸上競技。短距離とハードルで、この後も走らされるなんて、やる前からげんなりだ。
僕と残った数人は邪魔なのでコースを外れて走っている。
コースの中ではとっくの昔に走り終えた大地が、美しいフォームでハードルを飛び越えている。ゴールまで行くと、僕に向かって手を振り、ガッツポーズをする。
頑張れ、ということだろうか。
大地は陸上部だ。
中学では野球部だったが、K中学の野球部は中学の部活にしてはかなり厳しいところで、揉まれ過ぎて嫌になったらしい。足だけは自分でも自慢できる程早く、合格発表の時にはもう陸上部の入部を決めていたという。
残った数人も次々と走り終え、残りは僕一人。
五周目を走り終えると、その場でへたりこんだ。ハードルの指導をしていた教師が苦い顔をしていた。リタイアしなかっただけでも誉めて欲しい。
彼は顎をしゃくってグランド脇の木陰を指し示す。最初の授業で倒れた僕への対応はもう心得ているという感じだ。
僕はゆっくりと立ち上がり、走っている時以上に重い足をのろのろ動かす。
乱れた前髪を押さえながら。
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