はじまりの朝

さくら乃

文字の大きさ
55 / 185
第十一章 

 6

しおりを挟む

「俺自転車だけど?」

 午後十時。
 クリスマス&明の誕生日パーティーはお開きとなった。
 もともと十時までのシフトだった樹も、店長や他のスタッフに挨拶をして一緒に店を出る。
 店を出て裏庭へ回ろうとした樹に明が言った。
「今日はバスで、ナナちゃんと帰りなよ」
 すぐ近所に住んでいる僕と樹は当然そうなるだろうと思っていた。
 でも、樹の答えは。
「俺自転車だけど?」


(自転車だったのか~~)


「知ってるよぉ。樹が自転車通学だってこと。バイトの日は、こっちに置いて学校に来てるんでしょ」


(そうだったんだ……)


 通りで樹と明と三人で帰るようになった時でも、樹が途中で僕らと別れて違う方向に行っていた筈だ。
 てっきり僕と一緒に帰りたくないのかと思っていた。

「でも、今日はななちゃんいるじゃん? ボクらとは違うバスだしぃ。一人で帰らせるの危ないから~」
「え、そんな」
「男だから平気だろ」
 僕もそう言おうとした。
 確かにその通りだと思う。
 バスに乗って帰るだけ。バスターミナルまでは明と大地も一緒。最寄りのバス停からは暗くはあるが、五分くらいで家に着く。
 危ない要素なんて何処にもない。
 だけど。樹からそれを言われるのは、何だかすごく寂しい気がした。

「何言ってんの。今時は男のコも危ないんだよぉ。特にななちゃんみたいな可愛くて、弱々しそうな感じのコは」


(何言っちゃってるの、メイさん)


「んー……わかった」


(えっ? 納得した?)


「帰るぞ、ナナ」
「いっくん、いいの?」
 樹は何も答えなかったが、もう門に向かって歩いている。僕は慌ててその背を追った。



 駅の北側バスターミナルで別れ、僕と樹、大地と明は、それぞれのバス発車場所に立つ。そこに行くまでも、並んでバスを待つ間も無言だった。ずっと樹の背を見つめている。


(やっぱり……自転車で帰りたかったのかな)


 小さく溜息が漏れる。

 十分程でバスが到着し、先に樹がバスに乗り込み奥から二つ目の二人席に腰を下ろす。普通だったらその横に座るだろうが、僕らの場合は違うだろう。
 樹が座った席の前まで行くと、僕は通路を挟んだ隣の二人席に座る。

 いや。実際には『座ろうとして』──だ。

 僕は「なんでそっち」という吐き捨てるような声と共に腕を引っ張られた。
 全く思いもかけないことで対処出来ず、引かれるまま樹の隣に収まった。その直前で運の悪いことに頭と頭ががつんとぶつかってしまう。

「ってっ!」
「いたっ。わ! いっくん、大丈夫?」

しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

ショコラとレモネード

鈴川真白
BL
幼なじみの拗らせラブ クールな幼なじみ × 不器用な鈍感男子

嫌いなあいつが気になって

水ノ瀬 あおい
BL
今しかない青春だから思いっきり楽しみたいだろ!? なのに、あいつはいつも勉強ばかりして教室でもどこでも常に教科書を開いている。 目に入るだけでムカつくあいつ。 そんなあいつが勉強ばかりをする理由は……。 同じクラスの優等生にイラつきを止められない貞操観念緩々に見えるチャラ男×真面目で人とも群れずいつも一人で勉強ばかりする優等生。 正反対な二人の初めての恋愛。

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

逃げるが勝ち

うりぼう
BL
美形強面×眼鏡地味 ひょんなことがきっかけで知り合った二人。 全力で追いかける強面春日と全力で逃げる地味眼鏡秋吉の攻防。

あなたのいちばんすきなひと

名衛 澄
BL
亜食有誠(あじきゆうせい)は幼なじみの与木実晴(よぎみはる)に好意を寄せている。 ある日、有誠が冗談のつもりで実晴に付き合おうかと提案したところ、まさかのOKをもらってしまった。 有誠が混乱している間にお付き合いが始まってしまうが、実晴の態度はいつもと変わらない。 俺のことを好きでもないくせに、なぜ付き合う気になったんだ。 実晴の考えていることがわからず、不安に苛まれる有誠。 そんなとき、実晴の元カノから実晴との復縁に協力してほしいと相談を受ける。 また友人に、幼なじみに戻ったとしても、実晴のとなりにいたい。 自分の気持ちを隠して実晴との"恋人ごっこ"の関係を続ける有誠は―― 隠れ執着攻め×不器用一生懸命受けの、学園青春ストーリー。

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

キミがいる

hosimure
BL
ボクは学校でイジメを受けていた。 何が原因でイジメられていたかなんて分からない。 けれどずっと続いているイジメ。 だけどボクには親友の彼がいた。 明るく、優しい彼がいたからこそ、ボクは学校へ行けた。 彼のことを心から信じていたけれど…。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

処理中です...