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第五章
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しおりを挟む母屋から少し離れた駐車スペースで、エンジン音が聞こえる。
暑い夏の筈がこの敷地内は何故か常に春のような心地の良い気候だ。
その不自然さももう既に、住人たちは気にも止めなくなっている。
とはいえ、もう何時間も車の整備に取りかかっているソウの額には、汗が浮かぶ。
「車の調子どう?」
一休みしてペットボトルのミネラルウォーターを飲んでいるソウに、ウイが棒つきキャンディを加えて登場しながら話しかける。
そのキャンディは買い出しの時にソウに頼んで買ってきて貰っている。大量に食堂に置いてあり、皆さんご自由にどうぞ、と言う感じだ。
「ああ。なんとかなりそう」
「そりゃあ、良かった」
ウイがハクトに『早く帰れ』と言った翌日、車の調子が悪くなった。数日掛けて機械系統に強いソウが直している。
「ハクト知らないか?」
車が直れば駅まで送って行くのだろう。
「ん~? 一昨日見かけたかなぁ。サロンにいた」
広い洋館の中で思い思いに過ごしている彼らは、お互い誰にも会わない日もままある。
「ちょっと一回りしてこようか?」
「ああ、頼む。もうちょっと調整する」
「おっけー。あ、アメちゃんあげる」
自分の胸ポケットに入ったキャンディをソウに渡した。
「お前、それ好きだよな」
「煙草のかわりねー」
「禁煙?」
「アメちゃんのほうが安いでしょ。ま、本数減らせるくらいにはなるかな」
「ーーそれにしても、早く帰れって行った翌日からこれとはなー」
車を見ながらぼそっと言う。
「何?」
「いや、なんでも」
背を向けたまま、ばいばいと手を振ってゆっくり去って行った。
「ましろ~ましろ~。どこー?」
愛猫の名を呼びながら石畳を駆ける。途中立ち止まっては、胸ぐらいの高さまである薔薇が咲く園を、頭を低くしながら覗き込んで行く。
「アリスちゃん、どうしたの?」
薔薇の中から声がした。
「ユエさん」
声のした方向に顔を向けるとユエが薔薇の中に一人立っていた。
ユエのところまで小走りに行き、はぁはぁと息を弾ませる。
「ましろを抱っこして外に出たらーー鳥が石畳のところにいて」
「追いかけて行っちゃったんだ」
「そうなんですー」
アリスはしゅんとして俯いた。
「この間言ったのに。離しちゃだめだって。ここ広いから迷子になる」
「そうなんですけど。まさか私の手から飛び降りるなんて思わなくてーーユエさんも、エリザを探してるんですか?」
ユエがここにいる理由を、もしかしたら自分と同じなのかと思い至った。
「いや、違うよ。薔薇を見ていただけ」
彼はうっすら笑った。
(エリザのこと……もう探してないのかな)
少し疑問に思う。いなくなったと言ってはいたが、探している素振りは感じられない。
「薔薇を? 本当に綺麗ですよね。この真夏にこんなにたくさんの薔薇が咲いてるなんて……」
そう考えてから。
(あれ、そう言えば、ここに来てから暑いって感じてなかった。確かにこの辺りは、東京よりも涼しい地方だけど)
今更ながら不思議に思う。
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