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しおりを挟むなるほど、と俺は思った。
ダークブラウンの髪。青い瞳。
日本人の特徴をも兼ね備えたその顔に、何処か見覚えがあった。詩雨さん――というより、柑柰家の血統的なアレだ! 天音さんとか朱音さんのほうに近いかも知れない。
でも瞳の色だけは詩雨さんだ――それだけなのに。妙にむらっとする。
「叔父さんから俳優目指してるって聞いたけど、こんなスターになるとはね。あの頃の面影がないとは言えないけど、最後に会ったの七歳くらいだろ? もう全然知らない男って感じだよ」
「そう?」
『知らない男』と言われても気を悪くした様子もなく、ふふっと華やかに笑う。しかし、その眼差しは何処か意味深で。
「――僕はずっと見てたよ。詩雨ちゃんのこと」
同じく意味深な言葉の前振りだった。
「え?」
詩雨さんがぱちぱちと目を瞬かせる。
俺も内心ぎょっとした。
(なにっ? 聞き捨てならないっ)
「勿論直接ではないけど」
俺たちが驚いているのを感じてか、悪戯が成功した子どものような顔をする。
「パパが日本に行った時に撮った写真とか。あとはオーマに頼んでいろいろ送って貰ったりとか。カンナ交響楽団にいた頃の雑誌とか映像とかも送って貰ってたよ」
「ああ」
思い当たることがあるらしい。溜息のような声が漏れる。
「そういえば、叔父さん日本に来た時やたらオレの写真撮りたがってたな。それか」
「きっと、詩雨ちゃんの知らない写真もあるよ」
「え、なんだそれっ」
『なんだ、それ』俺も言いたい。どうやらこっそり撮っていた写真があるようだ。
「オレの知らないところでも撮ってたのか。全然気がつかなかったよ。さすが、オレの師匠」
叔父であるカイトの父親はプロのカメラマンで、昔一眼レフカメラを貰い、手解きもして貰っていたという。今の、プロカメラマン『SHIU 』がいるのは、言ってみればその叔父のお陰である。
(さすが――じゃねぇですよ、詩雨さん。それ、かなり無用心ですって。一歩間違えれば、ストーカーだ。いや、カイトは完全ストーカーだろ。俺の詩雨さんに。許せんっ)
文句の一つでも言いたいが、昔自分も詩雨さんに対してストーカーまがいのことをしていたので、大きくは出れない。
「前はもっと髪長くていつも紅い紐で結わえていたよね。あの髪型も良かったけど、今の短い髪も可愛いね。リボンもいつの間にか変わってる」
少しだけ伸びた髪を項で結んでいる――俺がプレゼントした青いリボンでだ。
髪を切る前は、幼い頃から想い続けていた幼馴染みに貰った紅い組紐で結んでいた。
髪を切り紐をその幼馴染みの元へ置いてきたのは、その想いとの決別の証。
今は俺の想いを受けとめ青いリボンを常にしてくれている。それを見る度に俺への愛を感じるようで、俺は密かに悦に入っていた。
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